ガラス片

 何かが砕けた甲高い音で、僕は目を覚ます。次に聞こえるのは決まって怒鳴り声と、すすり泣く声。

 僕は考える。隣人の為に何か出来ることはあるだろうか、と。そうやって布団の中に潜り込んでは、いつも朝になってしまう。

 隣の人間は、別に僕の知っている人でもない。ましてや挨拶すらまだな状況だ。そんな関係性に、僕は苛立ちを感じていた。でもその直後には、干上がる。なんて愚かなことを考えるのだろう、そう思ったのだ。

 もし隣人が恋人だったら、僕は彼女を守れたのだろうか。

 もし隣人が家族だったら、僕は身を挺しただろうか。

 もしも、もしも、たらればの数々。その思考のどこか他人ごとに感じている部分に、僕は酷く吐き気を感じた。

 何がもしもだ。どんな境遇に至ったって、僕は今みたいに閉じこもる癖に。

 そう心の中で叫んで、寝返りを打つ。目を瞑るその刹那、何かが僕の眼球に入ってきた。

 それは光だった。月明りに照らされたガラス片が放った、まるで救済を求めるような儚い光。僕は気が付くと、それを手に取っていた。暫く見つめて、寝覚めの悪い朝みたいな感覚と共に、歩き出す。

 何が正しいか、何が悪しき事なのか、僕には分からないけれど、自分に失礼な生き方だけは、二度と御免だった。

 玄関のドアを潜ると、夜風が僕を出迎える。頬を優しく擦られて、導かれるのは隣の部屋だった。

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