螺旋

 螺旋階段を上から覗いてみた。下が見えないような距離、手すりから顔だけ出して、そこから見える情景ともいえぬ何かを見つめる。

 僕の心はといえば、踊り、沸き立っていた。この先には何があるのだろう、といった好奇心がそうさせたのかもしれない。

 ここから真下を覗いていると、重力が変ってしまったかのように感じた。自分の顔と向き合っている底の見えない暗黒が基準になり、僕の足は自然とその重力に引っ張られていった。

 すとん、と音が鳴る。豆鉄砲を飛ばしたみたいな気持ちのいい音が聞こえて、僕はそのまま螺旋階段の中央を落下していった。

 だが、そこで高揚としていた気分は冷めきってしまった。僕は在り来たりな重力の元でしか、結局生きられないのだと悟ってしまったからだ。そして、その世界で生きられない僕に訪れるものといえば、常識に根付いた行動から引き起こされる、さながら現実から突き落とされる拒絶の螺旋だった。

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