香水

 時々思い出す、彼女の香り。シャンプーとも、コンディショナーとも違う、刺激的な香り。

 その匂いをずっと堪能していたくて、前に彼女に「なんの香水を使ってるの?」と尋ねたことがあった。結果は無念、彼女は人差し指を下唇にそっと近づけて、「内緒」と告げるだけであった。


 高層ビルの真下、届かない距離に目を奪われながら、僕は空を見上げてみる。そこにあるのは、ただただ蒼い空と、くそったれの雲が少し。晴天にもなり切れなかった中途半端さが、まさに僕を映しているようで、僕は足元にあった石ころを蹴飛ばした。

 その石ころがどこかのコンクリートに何回も跳ねていくと、反響した音が僕に届いてくる。

 そのあどけなさを彼女に例えてみたりして、僕は今日も、あの匂いを探して都内をうろつくのだった。

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