「私は黄色で、○○は赤」

 そう彼女が微笑む。彼女が差し出した積木の一部は、確かに赤色で塗りつぶされていた。

 「どうして僕は赤なんだい?」

 僕が訪ねる。答えが返ってこないことは分かっていた。僕がこうやって質問すると、彼女が微笑んで、それと同時に夢が覚めてしまうから。

 実際、こうして今日も目が覚めた。今では彼女に会うために一日を終えている自分がいる。そこにあるのは好奇心。

 食べなれた朝食に、着慣れた病服に、窓から見る通いなれていた通学路に、ここからは見えない校舎。惰性で生きられる日々に、僕はうんざりとしていた。

 彼女が夢に現れてから、僕は現実にいる間、黄色と赤を自然と目で追っていた。

 信号機。横断歩道の傍にある、小学生が持つ旗みたいなやつ。昼食のりんご。窓枠の真下、花壇。遠くの夕焼け。

 僕は今日も眠る。彼女に会うために、退屈な現実から逃れる為に。

 目が覚めると、いつも通りの景色が広がる。僕が長らく過ごした家のリビング。そこで楽しそうに遊ぶ、死んだはずの彼女。

 「おにぃ!」

 「なんだい?」

 彼女は嬉しそうに顔を歪ませて、積木に手を触れさせている。

 「はい!私は黄色で、にぃは赤」

 彼女が差し出した積木を、今日も受け取る。

 僕は何もいわなかった。それ以降、何も話さなかった。それが、この世界に留まる、唯一のことだと知りながら。

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