人肌
粉雪が散る度に、感傷がふわりと舞う。白い息が吐き出されれば、温もりは私の中から抜け落ちていった。
私は彼を思う。
目の前には、雪景色、にもならなそうな程弱い粒が舞い落ちて、道の端にだけ、うっすらと残り香を匂わせていた。
この季節になると、どうしても温もりを求めてしまう。自分が発している熱は、自分にだけ冷たい。そこに愛情を見出すことは難しい。
「私を買いませんか?今ならお安くしますよ」
震える声で、道ゆく人に話しかける。だが温みに飢えた私と違い、通行人の殆どは帰宅するのが待ち遠しいらしい。私の勧誘は、ことごとく破られてばかりだった。
理解出来ない。家の暖房に、猫の媚に、愛する人の「ただいま」に、そこまで執着する意味が。そんな儚いものに、そこまで価値があるとは思えない。
一方肉欲は単純だ。そこには一定ラインの絶対がある。確かに下手くそに当たると少し苦痛だが、それでも受け入れてしまえば、後は安心して夜を越せる。
壁にもたれて、ずるずると地べたに座り込む。
今の私は滑稽だろうか。いや、そうだとしても、もうやめられない。
彼に近い快楽に出会うまでは、もう体の疼きは止められそうになかったのだ。
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