凱旋の夜明け

 僕は世界に一人きりだった。望んだものは限りなく人と違い、好んだものからは拒まれた。

 社会性が欠落して生まれたのだ、と母を恨んだ。

 お前の種子が僕をこうしたんだ、と恨むはずの父は見る影もなかった。

 街灯に照らされた白い息。僕を置いて逃げ帰った温みに舌打ちしながら、校内のグラウンドへと僕は体を導いた。凍える指先は、僕の心の奥底よりかは幾らかマシに脈打っている。それが生きていることを実感させた。

 ふと、空に閃光が走った。ちょっと前に見たテレビアニメに出てきたミサイルと同じ軌道で走り去ったそれは、僕の心を掴んで離さない。

 「君もここで星を見るのが好きなの?」

 そう背後から話しかけられた。

 「夜に校内に入っちゃだめじゃないか」

 「君だって入ってるじゃん」

 「僕は別にいいんだよ。常連だし」

 そんな虚勢で頬を膨らませるが、彼女にはどこか届かない。

 「私も好きなんだ。ここでの夜空」

 「意外だ。同じ趣味をもってる奴がここの生徒でいるなんて」

 彼女は笑う。

 「意外だ。同じ趣味をもってる奴がここの生徒でいるなんて」

 「やめろよ」

 繰り返されたのが恥ずかしかったのか、それとも同じ人種を見つけられて興奮していたのか、僕の心は大きく騒めき立っていた。

 時間は僕らの遥か上空を飛んでいる。決して掴めない、人によって感じ方の違うまがい物。

 何も語らなくても、時はあっと言う間に過ぎ去った。

 「また、会えるかな」

 「学校でいつでも会えるよ?」

 「そうじゃない。またここで、同じ時間で」

 彼女はにかっと綺麗に笑った。それが先ほど流れ落ちた流星みたいに明るくて、僕も釣られて笑った。

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