名前

 苗字、あだ名、ニックネーム、通称、ミスター。

 最初に貰った名前空しく、僕らは大事でもない人間が付けた名前に依存させられた。

 例えば、僕はゴミといわれながら義務教育を卒業したのだが、どうやらこの二文字は、僕にとって授業の内容よりも重要なものだったらしい。

 永遠と僕の人生に突き刺さったままの言葉は、風化することなく残り続け、むしろ、僕の体に似つかない程の大きさまで成長してしまった。

 ある日、社員歓迎会と称した飲み会に参加した時、後輩の目の前で酔った先輩が僕に言った。

 「お前は仕事もゴミなんだから、飲み会の時ぐらい役に立てよ」

 体が反応した、というより先に心が張り裂けた。半ば忘れ去れそうな気がしていた僕の名前、それが再び僕の前に舞い戻ってきてしまったのだ。

 翌日から、僕は再びゴミと名前を付けられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る