第491話 釣れた釣れた

午後の授業が終わり、放課後になった



俺「さて、どう行動するかな……」

まずは東雲さんと一緒に行動する必要があるだろ

でも、俺の存在感は出さないでわざと隙を作らないといけないな


堀北「ちょっといいかしら?」

なんだ?


俺「ど、どうしたの?」

まさか、四季島の奴がチクったのか⁉


堀北「東雲さんの件なのだけど」

四季島ァーーーー!!!


俺「あれは、その、えっと」

どう言えば誤魔化せる?


堀北「君が、何か危険な事しようとしてる……そんな気がするの」

気がする?


俺「どうして?」

あの後四季島は、言ってないのか……?


堀北「確証はないの。でも、君の纏う雰囲気が……少し変な感じがするの。今まで見た事ない君……ごめんなさい。私、何言ってるのかしらね」

雰囲気、だと……⁉

そんなモノでバレるのか⁉


俺「ははは、ほんと何言ってんだよ」

誤魔化されてくれ、頼む!!


堀北「そ、そうよね……それじゃ、東雲さんの事よろしくね」

それだけ言って、堀北さんは教室を出て行った

何かを察した南城さんが、急いで堀北さんの後を追いかけて行き

東雲さんがこっちへ来る


東雲「堀北さん、どうしたの?」

え~……と


俺「さぁ、よく分からないな。そんな事より、今日なんだけど練習頼めるか?」

台本覚えるのも、俺の役目だからな


東雲「え?うん、いいけど……いいの?」

よし、これで計画はまた1歩進むな


俺「さて、練習場所なんだけど。1か所良い場所があるんだ」

現状、打って付けの場所だ


東雲「そうなんだ!練習場所見つかってよかったね」

ああ、そうだな

これが上手くいけば、解決まで一気に近付くからな


俺「それじゃ付いて来て」

東雲さんを連れて、俺が向かったのは……中庭的な場所だ






東雲「え?ここ?」

うん


俺「そうだよ。ここが一番良い場所だよ」

釣るのに、最適なんだ


東雲「でも、ここって目立っちゃうよ?」

それがいいんだよ


俺「だって、本番は舞台に立つんだし多少なりとも目立つのにも慣れないといけないんだよね」


東雲「そうかもしれないけど……」

ね?


俺「お願い、ここで練習付き合ってほしいな」


東雲「分かったわ」

うん


俺「それじゃ、始めるよ」

台本を手に覚えたての登場時のセリフを東雲さんに投げかける


東雲「……凄いわね。一昨日よりも確実に上手くなってるわ」

そうかな?


俺「それなら安心かな。もう時間も少ないし」

舞台の方も本気でやらないと、クラスメイトに悪いし

何より俺自身も楽しみにしてるんだよね


東雲「うん、この調子でいけば本番までには完璧に役になり切れるよ」

そっか


俺「東雲さんがそう言ってくれると、凄い自信が付くよ」

何せ、本当の現場を知ってる人なんだから


東雲「君の本気、受け取ったよ。それなら私も本気で行くから、頑張って付いてきてね」

う、うん


俺「頑張るよ」

東雲さんの本気の演技か

これって、かなり貴重な経験なのかも?


東雲「す~~~~~、はぁーーーーー……よし、行くよ」

深呼吸した瞬間

東雲さんの雰囲気が、目つきが、表情が

それら全てが、ガラリと変わった⁉


これが東雲さんの本気……?

というか、本当に東雲さんなのか?

まるで別人だ

気圧される……!



練習を始めて、一息吐くまで

普段話してる東雲さんは鳴りを潜めて、社会人のような立ち居振る舞いに圧倒されて

付いて行くので必死だった

でも、自分でも驚くほど俺自身の演技力が上がってる気がした

多分、これは引っ張り上げられたんだ……

東雲さんが上手すぎるから、俺の限界を超えた演技力を引き出してる

これが……プロか⁉








俺「はぁ、はぁ、はぁ……」

きっついなぁ


必死に追いかけて、引っ張られて

息が切れるまで全力を出し切らされた



東雲「ふぅ、良い感じだね!」

どうしてソコまで元気なの?


俺「ごめん、ちょっと休憩させて……」

もう限界……


東雲「うん。私もちょっと熱入り過ぎちゃった」

あれで、なのか……


俺「やっぱ、すげー……」

これがプロかぁ






肩で息をするほどの疲労を感じながら、周囲を警戒する

見られてるな……


でも、殆どは敵意がない視線だ

少しだけ混じる敵意の内、8割9割は俺に向けられる男子からの嫉妬の視線だ

この視線は、南城さんや堀北さんと一緒にいる時にもよく感じたな


でも、本当に少しだけだけど……東雲さんへの敵意を感じる


しかし、その視線の送り主が見つからないな


もう少しで釣れそうなんだけどな


俺「ごめん、ちょっと飲み物買ってくる」


東雲「あ、それなら私も」


俺「いや、東雲さんはここで休んでて!何か買ってくるよ。何がいい?」


東雲「それじゃ、お茶がいいかな」

よし


俺「おっけ、それじゃ行ってくるね」

さて、釣れてくれよ

餌はある、隙もある、後はお前らが掛かるのを待つだけだ





自販機まで急げば2分もかからない

急いで買って帰れば5分以内に戻れるから、影から少し見てよう


釣れてくれたらラッキーだな







俺「さて、釣れたかな?」

こっそり見てみると、東雲さんを数人の男女が囲んでいた

釣れた⁉


声は、聞こえないけど……あの雰囲気は、確実にファンです!って感じじゃないな

よし、後は突撃あるのみ!!



バレないように近付くと


「こんな場所で練習なんて、余裕なのね」

「もしかして、自分がイジメられてるって分かってない?」

「名前持ちなのに、そんなに鈍感な事ってある?」


東雲「…………」

隙間から見ると東雲さんは視線を落として、唇を噛んでいた

これは、完全に有罪だな


俺「よし、そろそろだな!」

突然大きな声が後ろから聞こえて、東雲さんを囲んでる奴らが驚いて俺に注目する


そのうちの1人、珍しく男子が混じってたからソイツの頭にスポーツドリンクをダバダバとかける


俺「頭冷やせよ、クズ野郎が」


「お、お前!」

俺の胸ぐらを掴んで殴りかかる

頬にゴツンと拳が当たり、衝撃で尻餅をつく


俺「いったぁ……」

マジで殴りやがった


「お前、何してくれてんだよ?」

「コイツ、何?」

「マジキモイんだけど」


俺「お前らこそ東雲さんに何してんだよ?」

よってたかってさ


「あ!もしかしてコイツ、アレじゃない?噂のナイトくん!」

「あ~、あの噂の?」

「え?マジで?」

「嘘じゃなくて本気でいたんだ?」

「うっわぁー、マジでキッモ」


俺「それで、お前らは何してんだって聞いてんだよ!!」

男の胸ぐらに掴みかかる


東雲「やめて」

止めないで


俺「東雲さんは黙ってて」

このまま行けば

こいつらの敵意は俺に向くんだ


「ハハハ!マジでナイトくんじゃん!!」

「ねぇねぇナイトくん!お姫様がやめろって言ってるよ~?」


俺「はぁ?ざっけんなよ?」


「おいおい、そんなにイキるなよ。ザコがよ」

雑魚はお前らだろ


俺「1対1じゃ何もできない癖に、イキがってんのはどっちだよ」


「あぁ?」

お互いの胸ぐらを掴みあう


一触即発の状態になる


俺「やんのか?」


「お前、うぜぇんだよ」


俺「東雲さんに危害を加えるっていうなら、俺がお前らを酷い目に遭わせてやるよ」


「酷い目?どんな事するつもりなんだよ?言ってみろよ、ほら」


俺「そうだな。まずは、このまま行けば先生達に見つかるぞ?」

それがどういう意味を持つか、バカなお前らに分かるか?


「チッ……つまんねー事してんじゃねーよ」

掴んでいた胸ぐらを離す


俺「今後も俺がいる限りお前らの好き勝手にはさせないからな。東雲さんに手を出すつもりなら、俺を排除してからにしろ。邪魔されたくないならな」


「お前、マジでウザいよ」


俺「だろうな。で、どうすんだ?このままここでやり合うか?先生に見つかって困るのはお前らの方だが?」


「ねぇ、行こ」

「そうだよ」

「シラケたわー」

「覚えてろよ。ぜってぇ許さねぇからな?」


俺「お前らこそ、死ぬ気でかかってこいよ。じゃないと俺は排除できないからな」




アイツらの狙いは、多分俺に移せたはずだ

これで、また1歩近付いたな


お前らをけしかけて来た奴を突き止めるまで、もう少しだけ泳がせてやる

せいぜい俺の排除に躍起になってくれよ

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