第492話 東雲さんの想いと俺の思い

東雲「ねぇ、どうして?」


俺「何が?」


東雲「何がって……さっきの事だよ!!」


俺「あ~、えっと……カッコつけ過ぎちゃったかな?」

ははは


東雲「そうじゃないよ!!さっきのやり方は違うよ!絶対に違う!いくら私に常識が欠けてるからって、それくらいは分かるよ?何であんな事言ったの?」

違う、か……


俺「それが最善だと、そう思ったからね」

今も俺は間違えたとは思ってない


東雲「おかしいよ、そんなの……。あんな事言ったら、君が」

そうだね


俺「それが狙いだからね」


東雲「っ⁉ダメだよ!そんな事したら、君が傷付くんだよ⁉そんなのダメ、絶対にダメだよ!」

傷付く、か……


俺「でも、東雲さんを助ける一番いいやり方はコレだと思うから」

東雲さん達が手を下すのは、どうしようもなくなってから

それからでも遅くないはず


東雲「なんで?一番良いのは、私が我慢すればいいだけだよ!私さえ何も言わなければ、誰も傷付かないで済むのに!」

誰も?


俺「それは違うよ。東雲さんが傷付くじゃん」

それは解決にならないよ


東雲「それでいいんだよ。私は慣れてるから」

良くない


俺「良くないよ。俺は、もう2度と見たくないんだ」

2度と……?

俺は、前にも同じ事を目にしてる……?


そうか……そうだった


東雲「え⁉どうしたの⁉」

え?


俺「何が……、あれ?」

何で、俺……泣いてるんだ?

涙が止まらず、頬を伝う雫は止めどなく地面へ落ちる


東雲「だ、大丈夫?どうしちゃったの?」

これは……この涙は……後悔だ

あの日、あの時、人には裏の顔もあるって知らなかった俺の後悔だ


俺「大丈夫、だから……」

これは、東雲さんには関係ないから


東雲「ぜんぜん大丈夫そうに見えないよ!!」

そんな事言ったって……


俺「その、ごめん」


東雲「謝ってほしいんじゃないよ!何があったの?教えて?私には話したくない?私のせいで君が悲しくなってるんだよね?」

そんな事言われたって、何て言えば……


俺「その……ごめん」


東雲「そっか……私には言えないんだ。分かった、君が何も言ってくれないなら……もういいよ」

東雲さんの瞳から……生気が消えた


俺「え?」


東雲「君を傷付けるくらいなら、私はもう……いらない。学校生活も青春も、何もいらないよ。千秋ちゃんも春香ちゃんも、こうなる気がしてたんだよね……だから“あんな事”言ってたんだね。うん、やっと理解できた」

何を言って……


東雲「ごめんね」

立ち去ろうとする東雲さん


俺「待って!東雲さん、南城さん達が何か言ってたの?」

俺の知らないところで、俺のことを?


東雲「うん。言ってたよ。君が辛そうにしてるって、きっと昔の事思い出してるって……」

昔の事、南城さん達の方が俺のこと良く分かってるてか……?


俺「聞いたんだ、あの事」

なら、俺が説明しないでいいんだよね

良かった


東雲「ううん。頼んだんだけど、教えてくれなかったよ」

そっか


俺「教えなかったんだ……」

隠し事とか、南城さんは苦手なのに


東雲「君から直接聞かないとダメだって、2人してそんな事言うんだよ?2人は知ってる君の過去の事、私だって知りたかったよ」

じゃあ、直接聞けばいいのに


俺「なんで」

東雲「……でも、聞けないよ!だって、それって辛い思い出なんだよね?そんな事、思い出させたくないから」

そんな気の使い方、今まで全然してなかったじゃん


俺「そう、なんだ」

東雲さんは、もしかしたら勘違いしてるのかな

過去の、思い出したくない事

それはイジメ関連だとしたら……予想するなら

『俺がイジメに遭っていた』だろうな

でも、真実は違う

違うんだ……


東雲「うん。だから、バイバイだよ」

この場を離れようとする東雲さん


俺「待って、東雲さん!」

咄嗟に立ち去ろうとする東雲さんの手を掴む


東雲「何?」

そんな悲しそうな声、出さなでよ

いつも元気の元気な声の方が、東雲さんらしいよ


俺「話すから……その、聞いてほしい」

こんな話、聞いてもいい事なんて何もないってのに

つくづく俺に付きまとうんだな


東雲「無理してない?」

うん


俺「無理はしてないよ。でも、ここじゃその……人目があるから、できれば場所替えたいな」

俺がここで練習しようなんて言わなきゃよかったな


東雲「なら、良い場所があるの。ついて来てくれる?」

ああ、分かった


俺「うん」

人目の少ない場所なら、どこでもいいよ








東雲さんが向かった先は、まさかの家庭科室だった


俺「え?ここ?」

どうして?


東雲「うん。実はね、昨日の時点で相談しておいたんだよ。文芸部の部室が使えないし、どこかいい場所はないかなって豊に相談しておいたの。そしたら、家庭科室ここ使っていいって言ってくれたんだよ」

へ、へぇ……

そんな事、仁科さん何も言ってなかったよな……


コンコンとノックをしてドアを開けると、中からは甘い匂いが漂ってきた


仁科「あ、来たんだ!って、え?どうしたの、2人とも⁉」

気まずそうな雰囲気を纏った俺と、悲しそうな顔をした東雲さんを見て驚く仁科さん


東雲「ごめんなさい。練習に来たわけじゃないの」


仁科「うん、それは見れば分かる」

ですよねー


東雲「そうだよね……それで、悪いんだけど」


仁科「あ、もしかして私お邪魔?」


東雲「どうかな?」

え?

俺に聞くの……⁉


俺「いや、大丈夫……だから」

どちらかと言うと居てほしいかな……

東雲さんと2人きりにしないでほしい


東雲「だそうだから、ここに居て」

もしかして、東雲さんも俺と2人じゃ気まずいのかな


仁科「そっか。それじゃ遠慮なく聞き耳立ててよっかな」

まぁ、聞かれても問題ないことだからね







さて、それじゃ話すか


俺の小学校の頃トラウマの話を……

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