第490話 教室へ戻ると四季島が

家庭科室に行くと、ドアの前で仁科さんが待っていた


俺「仁科さん!」

なんで外に?


仁科「待ってたよ。……中入って」

周囲を確認して、何かを警戒しるみたいだ

もしかして、仁科さんも狙われてる?


俺「うん」

だとしたら、首謀者は絶対に許せないぞ


家庭科室に入ると、今日は一切甘い匂いがしてこなかった

今日は、お菓子作ってない……?


仁科「来てくれてありがとね。ごはん食べながらでいいから、聞いてくれる?」

もちろん


俺「うん」

どんな話が出てくるのかな





向かい合って座って、仁科さんの言葉を待つ





仁科「えっと……東雲さんの件なんだけどね」

うん


仁科「何か、イジメにあってるって聞いたんだけど」

そっか

もう、噂になってんだな


俺「うん。残念だけど、それは本当だよ」

でも、大丈夫

俺が何とかするから


仁科「そっか……なら、やっぱりコレも話しておかないとだね」

うん?


仁科「あのね、その東雲さんの噂でね……ある男子の話も聞いたんだよ」

ある男子?


仁科「その男子は、『東雲さんを好き』で『東雲さんを守る騎士ナイト気取り』の人がいるって……これって、四季島君じゃないよね?」

うん


俺「今の情報は間違いが含まれてるけど、その男子ってのは多分俺だね」

ったく、東雲さんの友達だって言ったのにな……


仁科「そっか……君って東雲さんの事、好きなの?」

だから、間違いが含まれてるって言っただろ?


俺「友達として、ね。もちろん、南城さんも堀北さんも仁科さんの事も友達として好きだよ」

だから、変な勘違いはしないでね


仁科「そ、そうなんだ……⁉えっと、ありがとね」

いや、そんな事はいいんだけど


俺「その話は結構広まってるの?」


仁科「えっと、……うん。もう私のクラスの全員が知ってるみたい。それでクラスメイトが私に教えてくれて」

そうなんだ……

なら、この間違った情報も活用させてもらうか


俺「そっか。教えてくれてありがとね」

授業中に立てた作戦の内のいくつかは、強行しても大丈夫そうだな


仁科「ねぇ、君はイジメられてないんだよね?」

うん


俺「大丈夫だよ」

今のところはね


仁科「そっか。良かった」

心配かけちゃったみたいだな……


俺「実はさ、南城さん達から東雲さんを見守ってほしいって頼まれてるんだよね。南城さん達も東雲さんが心配みたいでさ」


仁科「そうなんだ……そうだよね。私も心配だよ」


俺「だから、何か新しい噂聞いたら今後もに話してほしいな」

南城さん達じゃなくてさ


仁科「うん。それは良いけど、もしかして……君、何かしようとしてる?」

ごめん


俺「俺は名前無しだよ?何もできないよ」

これは、嘘だ

何もできないわけじゃない

今までだって、何もできないんじゃなくて

してこなかっただけだから


仁科「何もできない、なんて事はないよ。だって千秋達が君を頼ったんだもん」

そっか


俺「そうだね。うん、俺は俺に出来る事をするよ」


仁科「無理はしないでね」

心配しないで


俺「もちろんしないよ」

でも、無理しない程度には頑張るけどね


仁科「約束だよ?」

心配し過ぎだって


俺「うん、約束するよ。俺は無理しない」

それに、大体の事は気合でどうにかなるって

最近は分かったから


仁科「うん」


東雲さんのイジメの噂が広まってきてる……それに付随して俺の事も

これは利用できる


東雲さんを対象とした敵意を、俺へ流して

その後、首謀者を見つけ出して説得しよう


こんな事、やめさせるんだ











弁当を食べて、教室に戻ると南城さんと堀北さんと東雲さんと四季島が机を囲んでいた

四季島が混じってるのは、少し意外だったけど

まぁ、名前持ちなんだし

そういう事もあるか



珍しいな~って思って見てたら、四季島が俺に気付いてアイコンタクトを送ってきた

視線の先は……廊下?

出ろって事か

頷いて、弁当箱を机に置いて教室を出る


俺「なんの用だろうな」

教室に背中を向けて、窓の外をぼーっと眺める

仁科さんが聞いた噂を流したのは、多分今朝の奴らだ……

きっと、ささやかな仕返しのつもりなんだろうけど

あの話を聞いて、凝りてないのかよ?


四季島「はぁ~~、お前な……」

突然背後から溜息を聞かせられるとは思わなかったぞ?


俺「なんだよ」

あからさまな溜息なんて吐いて


四季島「今朝の事、聞いたぞ。何やってんだよ」

もう耳に入ってるのかよ……さすが四季島だな

でも、別にいいだろ?


俺「大した事はしてないよ」

ちょっとしただけだよ


四季島「あのなぁ……相手の女子は面倒な噂を流してるんだぞ?」

だから何だよ


俺「噂なんて、気にする必要なんてないだろ?」

お前だって、普段から色々噂されてるじゃんか


四季島「そうもいかないんだよ。もし南城さん達の耳に入ったらどうするつもりだよ」

ってことは、まだ南城さん達には知られてないんだな

よし、ラッキー


俺「所詮は噂だって言うよ」

信じる必要はないってね


四季島「あのな……噂を聞いた南城さん達が“どう思うか”考えたのか?」

どう思うか……か


俺「……よく言うだろ?人の噂も七十五日って」

だから、時間が経てば忘れてくれるよ


四季島「お前、少し変だぞ?」

そうか?


俺「四季島、何が言いたいんだよ」

何か文句でもあるのか?


四季島「ハッキリ言わせてもらうとだな……お前の迂闊な行動で南城さん達が悲しむ事になるんだぞ?彼女たちを悲しませてまでする事なのか?」

ああ、


俺「余計な口出しはしないでくれ」

お前が言わなければ、きっと南城さん達の耳に入るのにはまだ時間がかかる

できるだけ早く解決するつもりだし、終わってしまえばどんな言い訳でもできるからな


四季島「ふざけるな、粋がるな、俺を頼れ馬鹿野郎が!」

ひっでぇな

そこまで言わなくてもいいじゃん


俺「今回はお前の、いや皆のに頼るつもりはないよ。これは、俺がしたいからするんだ。だから、余計な手出しはしないでくれよ?」

こう言っても、お前は何かしてきそうな気もするけどな……


四季島「どういう意味だ?」

どういう意味?


俺「そのままの意味だよ。の名前は出さないし、もちろん南城さん達の名前も出さないで解決する」

絶対に、だ


四季島「なんで、そこまで」

お前ら名前持ちは、分からなくていいんだよ


俺「説明するつもりはない。話は終わりでいいな?」

説明しろって言われても、俺自身が良く分かってないから説明のしようがないんだけどな……

さて、次の授業の準備するから教室入ろうぜ


四季島「おい、待てって」

俺の腕を掴んで引き留める四季島


俺「なんだよ?」

止めてもやめないぞ?


四季島「せめて、何か手伝わせろよ。お前1人で全部をどうにかできるとは思ってないんだろ?」

そうだな

でもな……


俺「できなくても、んだよ」

今の俺に出来る事をしないと、ダメなんだ

何でか分からないけど……俺の心が解決しろって騒ぐから


こんなに落ち着かない気持ちになったのは、いつ以来だろうな……


四季島「何ムキになってんだよ。俺を……俺達を頼れよ!」

お前達名前持ちを頼る?

それはダメだ!!


俺「これは、俺がやらなきゃいけないんだ。俺が頑張らないと、ダメなんだよ」

だから、俺は……お前達名前持ちを頼らない


四季島「本気、なんだな?」

もちろんだ


俺「ああ」


四季島「分かった……。なら今はお前のやる事を見守る。ただし、もし無茶したらすぐにでも手助けに入るからな?」

それで問題ない


俺「無茶なんてしないさ。だって俺は、名前無しmobなんだぜ?」

できる事なんて、たかが知れてるだろ?


四季島「っ⁉」

やっと腕を離した四季島を置いて、俺は教室で自分の席へ座る









これは俺にとって、何か大切な事だから

譲る事はできない


漠然とそんな気がしてるんだ……

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