第470話 台本を確認して

俺「それじゃ、俺がジュリエットって事か」

見た目が貧相なのは、どうやって表現しようかな

衣装は、アレでいいらしいからな……やっぱり化粧とかで何とかなるか?


まぁ、いいか

どうせ、俺はされるがままなんだし


えーっと、最初の方は読んだし続きでも読んでおくか


中盤を読もうとパラパラとめくっていると、手が滑って床に台本を落としてしまった


裏表紙を持って持ち上げると、最後の部分が目に入る



ジュリエットは美女の遺体を前にして、絶望の叫びをあげ

ビンに入っている毒を飲み、自死する


美女に覆いかぶさるように息絶えるジュリエット


ジュリエットが動かなくなった後、仮死状態から目覚めた美女は

傍らに落ちているビンを手にして現状を理解した


美女は、ジュリエットの腰にあった護身用の短剣を自らの胸に突き立て

その命を絶った


~FIN~









…………はい?

え?

2人とも死んで終わりなの?


まさかのデッドエンド⁉



俺「これ、え?ホントに?」


堀北「どうしたの?」

まだ最後まで読んでないのかな?


俺「ラストのところなんだけど」

どういうこと?


堀北「ああ、あのシーンね」

あのシーンね……って、それだけ⁉


俺「死んじゃってるけど⁉」

こんな終わり方、良くないよね⁉


堀北「そうね。それがどうしたの?」

え⁉

疑問に思ってる俺の方がおかしいの⁉


俺「いや、え、ちょっと……」

どうしたの?って……


四季島「もしかして、お前は知らないのか?」

何を?


四季島「ロミオとジュリエットの最後だよ。これは、な」

え?

そんな最後なの⁉


堀北「その様子だと、知らなかったみたいね」

ってことは、本当なのか……


俺「知らなかった……」

なんで、こんな最後にしたんだよ⁉

今回のやつって、担任が作ったんだよな?

なんで、美女と野獣の方を優先しなかったんだよ!!


担任「不勉強だな。それくらいの教養は身に着けておいた方がいいぞ」

おい、担任

古典演劇なんて、学校では習わないだろ⁉


俺「知らなくたってしょうがないだろ……」

知る機会なんて、なかったんだから


担任「まぁ、そうだな。『仕方ない』ことだ。だが、お前はもう知ったんだ。今後はもっと色々な事に興味を持て、そして調べろ。そうすれば、お前の見る世界はもっと広がるんだからな」

なんだよ……


俺「真面目な先生みたいな事言っちゃって」

らしくないなぁ


担任「お前は、私をどう思ってるんだ?うん?」

基本挨拶しかしない、名ばかりの担任教師

なんて、口が裂けても言えないし


俺「担任の先生ですよ?」

当たり前じゃないですかー


担任「そうか、そうか。お前のスタンスは理解した、今後はもっとに対応してやるからな?覚悟しておけよ」

やっべ……

やらかした?


俺「お手柔らかにお願いします……」


堀北「それはそうと、先生?」


担任「どうした?」


堀北「この台本で、気になる所があるんでちょっとお時間貰っていいですか?」


担任「もちろんだ。今すぐ話を聞こう」


堀北「お願いします」




堀北さんが担任と台本について話をしに行く

残された俺と四季島は、顔を見合わせてから頷いて

台本の読み合わせを開始した










台本の中で読めない漢字を見つけては、四季島に質問して答えてもらい

ルビを振っていく


どうしてそんな表現をするのか

この場面での、表情はどうすべきか


お互いに質問し合って、読み合わせを進めていく


全体の1/5程度まで進めた所で、担任と堀北さんが帰ってきた


堀北「待たせちゃったかしら?」


四季島「いや、できる範囲で読み合わせをしていたから大丈夫だよ」


担任「四季島は、何でもできるよな」

俺は、なんもできないから

早めに助けに入ってくれると助かります!!


四季島「なんでもできたら、いいんですけどね……実際にやりたい事は、ままならないものですから」

そういえば、こいつのやりたい事って……何だろ?

聞いたことなかったなぁ


俺「そういえば、四季島のやりたい事って」

四季島「さて、それで堀北さんと先生は何を相談してたんですか?」

無理やり話しを逸らされた?


担任「ああ、そうだな。その話を早くしようと戻ってきたんだった」


堀北「先生、説明は私に任せてください」


担任「でも」


堀北「わ・た・しに任せてください!」


担任「そ、そうか。では、頼んだぞ」

堀北さんの圧に負けて、担任が追い返された……


俺「えっと……堀北さん?」


堀北「何かしら?」

普通にしてるのに、ちょっと怖いよ?


四季島「説明をしてもらえるかな?」

うんうん!


堀北「そうね。まずは、このページからね」

台本を開いて指をさすと、そこには赤ペンで修正が入っていた


ジュリエットが、踊るシーンなんてあるのかよ⁉


堀北「そこは練習の時間が取れそうにないから、ナレーションで差し替えたわ」

良かったぁ……


堀北「あとは、コッチね」

次に書かれてるのは、美女の役が複数の男性から言い寄られるシーンだった


四季島「そこは、どう変わったんだ?」


堀北「ここ、もっとインパクトが欲しいって事になったから四季島君は男子に抱き着かれてね」

うん?


四季島「そ、それは本当に必要な改変だったのか?」


堀北「ええ、もちろんよ。先生に確認しながら進めたのよ?」

う、うわぁ……


四季島「そうか……そうなのか」

何か言い返そうとして、やっぱりやめる四季島の姿は

ちょっと弱って見えた


堀北「あとは、大きく変わったのはココね」

開いたのは、最後の方のページだ……


これって、俺が驚いたページの1ページ前か?


そこには、印刷された文字で“キスをする”と記されていた


俺「……え?」

四季島「これは……」


堀北「もちろん、キスなんてさせないわよ?」


俺「よ、良かったぁ……」


堀北「当たり前でしょ?四季島君に君の唇をあげるわけないじゃない」

あ~、はい!


多分……、元々本当にキスするわけじゃないと思うよ

あくまで演技フリだからさ


四季島「その、他に変えた場所はあるかな?」


堀北「あるわよ。今からササっと説明するから、聞き逃さないでね」

台本をめくっては、変更箇所を説明してめくっては説明して

と繰り返す堀北さん

そのハイペースな説明を、難なく自分の台本に書き込みをしていく四季島



この2人、凄いなぁ……


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