第449話 出番前の珍事

気合が入った所で、教室にノックの音が響く


「準備できてますかー?」

顔を出したのは、実行委員会の子だった


妹「はい!」

よし!

やるぞ!


「それじゃ、体育館の方へ移動お願いします」

移動だ!


俺「っと、その前に……南城さん達は?」

一緒に裏から入るの?


妹「あ、先輩達は一緒に入れないです。ごめんなさい」

そりゃ、そうだよなぁ


南城「」


妹「みんな、行くよ!」

Rちゃんはドラムのスティックを手に

Tちゃんはギターを、Uちゃんはベースを


俺と妹とYちゃんは手ぶらで向かう


俺「Yちゃん、キーボードは?」

用意しないでいいの?


Y「もうステージに用意してあるから、大丈夫です」

そっか


妹「お姉ちゃん、緊張してる?」

まぁな


俺「緊張してるよ。皆の大事な晴れ舞台だからね、失敗できないし」

ゲストとして責任重大だな……


妹「大丈夫だよ!きっと、楽しいから!」

楽しいから、か……


俺「そうだな……うん、楽しもう」

せっかくの文化祭なんだ、楽しんでいこう


よし、楽しむ事には手を抜かないのが俺だもんな

全力全開で楽しもう!!


体育館の裏口的な場所から中へ入ると、通路には演劇部の小道具や衣装が所狭しと置いてあった


俺「狭い」

スカートの裾が引っ掛かったりしたら大変だな

広がらないように気を付けながら妹達の後ろを付いて行き、奥へ向かう


進むにつれて賑やかな音が聞こえてくる

リズム良く響く音楽、熱狂する観客の声援、踏み鳴らされる床の音


すでにステージはかなりの盛り上がっているみたいだ


俺「良い感じに温まってるな」

妹「うん!」



一番奥まで行くと、少し開けた場所に出た

そこには次の出番の人達が待機している

周りを寄せ付けない空気を纏って、緊張しているのが丸分かりだ


俺達は、少し離れた位置で順番を待つことにした

あんまり近づいて集中してる所を邪魔しちゃ悪い


集中と緊張でピリピリした雰囲気のグループを見ていると……

俺達があんまり緊張していない事に気付いた


TちゃんやUちゃんは終わった後の模擬店の話をしてるし

YちゃんはRちゃんと漫画雑誌の話をしている


妹はというと……別のグループの演奏を聴いて、楽しそうに頭を揺らしている


もっとガチガチに緊張するかと思ってたけど……俺を含め、メンバー全員はリラックスできているみたいだ


このままのメンタルで行けば、ステージは成功しそうだな





そんな、根拠の無い確信を抱いている俺の元へ

1人の男子が近寄ってきた


「あ、あの」

なんで俺に話しかけるんだよ⁉


俺「何かしら?」

あんまり喋るとボロが出そうだから嫌なんだけど……


「す、ステージ頑張ってください!!」

え?

俺に言うのは違うよね⁉


俺「えっと、ありがとう。でも、私はゲスト部外者でメインはこの子達だから」

妹達に言ってやってくれよ


「す、すいません……その、えっと」

何か言いたそうだなぁ

きっと禄でもない事なんだろうな……


俺「大丈夫よ、落ち着いて。まだ出番まで時間はあるから、ね?」

過呼吸とかで倒れられたら、俺のせいになるからヤメテね?


「は、はい!すぅ~、はぁ~……」

大丈夫か、本当に心配になってきた


……なんで俺が見ず知らずの男子を気遣ってやらなきゃならないんだよ⁉


「あ、あの……」

うん?


「……す」

素?


「……好きです!」

鍬(農業で使用する道具かな?)

って、そんな訳ないよね


はぁ……まさか男子から告白されるとは、な

また人生に必要ない経験を積んだなぁ

ハハハハ……


妹「ねぇ、君って」

「あ、Aさん……」

なんだ、知り合いなのか


妹「なんのつもり?」

そんな、責めるような言い方しなくたって


「いや、え?なんのって……」

なんか、狼狽えてるみたいだけど

大丈夫か?


俺「落ち着きなさいよ」

そんなに圧をかけちゃダメだよ


妹「、騙されちゃダメだよ。その男子は一見人畜無害そうだけど、とんでもない女誑しだから」

え?

そうなの?


俺「意外……」

見た目はほんと、何でもない名前無しの男子だけど……


「女たらしだなんて、心外だなぁ。僕は好きになった子に告白してるだけなのに」

確かにそれだけで女誑しは言い掛かりだな


妹「その好きになった相手、お姉ちゃんは何人目なの?」


「えーっと……確か、124人目だったかな?」

……うん、そっかぁ


俺「君って、誰かと付き合いたいと思った事あるの?」

なんか、好きになった相手に片っ端から思いを伝えてるだけで

付き合いたいとか、そういう感じが全然しないんだよね


「う~ん、今まではないですね」

今までは?


妹「それなのに告白して周ってたの⁉」


「いや、だって好きになったから。好きですって伝えただけだよ?」

あ~、やっぱりかぁ


俺「それで、今まで告白してきた人の中で今でも心に残ってる人はいる?」

多分、居ないんじゃないかなぁ


「えっと……居ないですね。だって、皆僕の事を気持ち悪いって言うんですよ?」

だろうな


俺「なら、今後は1週間以上時間を空けて…それでも好きって気持ちが変わらないなら告白してみるといいよ」

1週間も持たない程度の気持ちで告白するのは、良くないと思うから


「……分かりました。アドバイスありがとうございます」

良かった……分かってくれたか


妹「お姉ちゃん……」


「それじゃ、お姉さん!連絡先交換してください!」

なんで⁉


俺「今の話聞いてた?」

なんで、俺が連絡先交換しなきゃならないんだよ……


「はい!なので、1週間後に連絡する為に」

はぁ⁉


俺「お断りします」

当たり前だろ?


「どうしてもダメですか?」

しつこいな……


俺「私、心に決めた人がいるの。ごめんなさいね」

君の気持ちには絶対に応えられないから


「そう、ですか……分かりました、無理言ってすいませんでした!」

バッと勢いよく頭を下げて、そのまま顔を上げないで振り返って走って離れて行った


妹「お姉ちゃんは、優しすぎるよ」

そうか?


あの恋多き男子が、これから女誑しと言われないようになるといいな……

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