第432話 練習前の団欒

屋敷の中に入って、更に凄さが際立った


普通の家だったら玄関と表現するべき場所だけど、この家は言葉的にエントランスの方が合っている気がする


吹き抜けの天井には豪奢なシャンデリアが吊るされ、きらきらと輝いている


正面には階段があり、絵に描いたような豪邸だった


俺「マジかよ……」

もう言葉が出ないな……


妹「おにぃ、ここはまだ序の口だよ」

序の口⁉


「こっちです」

そう言って、向かった先は正面の階段の脇にあるドアだった

この先に、何が?


ドアを開けた先には階段が下へと続いていた


俺「地下?」

地下まであるのか……


1階分降りると、そこはコンクリート打ちっぱなしの廊下があった

上の豪華さとは、まるで真逆の空間だった

廊下を進んでいると、金属製の重そうなドアが存在感を放っていた


「よいしょっと」

重々しい音を立てながら開いた扉の先は……


広い空間だった


ドラムセットにキーボードやアンプと、バンド用のモノが並べられている

これ、個人所有のモノなの?


「それじゃ、練習始めましょう」

お、おう……


俺「練習の前に紹介させてもらっていいかな?」

連れてきた観客の


「あ、そうですね。お願いします!」

お嬢様な子は初めて会うもんね


俺「えっと、まずは俺は」


「あ、お兄さんの事は知ってます!」

「そうそう」

「毎日毎日聞いてるからね~」

毎日聞いてるって……


妹「もう!それは言わないでよー!!」

やっぱりお前か!


俺「じゃあ、俺は省略して……観客として呼んだ俺の友達を紹介する。まずは、右から南城さん、隣が堀北さん、そして仁科さんだ」

手を挙げて挨拶したり会釈したりしてくれる


「え、それだけ?」

「もっと何かないんですか?」

「下の名前とか聞いてみたいんです!」

あ~、じゃあ

各々自己紹介してもらって……うん?


俺「なんで喋らないの?」

皆、自分の名前くらい名乗ろうよ?


南城「下の名前、呼んでくれるよね?」

え?

俺が?


堀北「そうよね?」

あ、はい


俺「それじゃ、僭越ながら俺が紹介させてもらいます……」

めんどくさい事押し付けてきたなぁ、もう


俺「まずは、南城さんから……彼女は南城千秋さん。スポーツ万能の運動神経の持ち主で、頻繁に部活の助っ人を頼まれて勝利に貢献してきた逸材だよ」


南城「えへへ」

えへへ、か……


俺「ただし、それ以外はあまり得意ではなくて勉強はギリギリ並くらいだし料理は苦手」


南城「ちょっと待って!なんでそんなこと言うの⁉」

え?

得意というよりは苦手じゃなかったっけ?


俺「ちゃんと紹介しないとね?」

もっと詳しい情報も出す?


南城「う~、次!私はもういいから春香の番!」

あ、堀北さんを生贄にして逃げた


堀北「ちょっと千秋⁉」

まぁ、全員分言うけどね


俺「それじゃ次は堀北さんね。彼女は堀北春香さん。勉強全般が得意で運動が苦手、料理スキルは高めで知的好奇心も旺盛だよ」


堀北「そうね、体を動かすのは得意じゃないわね」


俺「そして……いや、やめておこう。堀北さんについては以上で」

匂いフェチ疑惑とか、妹の謎発言「キツイ」については言わないでおこう


堀北「え?何かしら⁉何で私には」

妹「言っていいんですか?」


堀北「え、ええ。もちろんよ?」


妹「前に私の制服を着た時の事とか?」

堀北「止めましょう、もうそのあたりの話は止めましょう。次!ね!仁科さん!」


妹「後でジュース買ってもらってもいいですか?」

堀北「もちろんよ。それと、妹ちゃんとはしっかりと話し合わないとダメみたいね」


あ~……なんか堀北さんと妹ってよくなるんだよなぁ

仲良いのか悪いのか、わからないなぁ


俺「最後になったけど、次は仁科さんだね」


「お初です!」

あ、そうか

カラオケでは合ってないもんな


俺「え~、彼女は仁科豊さん。得意なのはお菓子作りで、将来は世界的なパティシエだよ。えーっと……運動は得意ではない、かな?」


仁科「うん、運動はあまり得意じゃないな。ただ筋トレくらいはできるよ?」

そうなんだ?


俺「そうなんだ」


仁科「うん。家では筋トレしながらお菓子作ってるくらいだし」

なんだそれ……


俺「なんで?」


仁科「決まってるでしょ……食べたら太っちゃうから」

な、なるほど?


俺「どんな筋トレしてんの?」

お菓子作りながら筋トレってどうやんの?


仁科「え?う~ん……スクワットとかしながら攪拌したり」

なるほどな……


俺「と言った感じだけど、みんな質問は?」

何かある?


「はい!」

元気に手を挙げたのは……


俺「えっと君は」


「ドラム担当のRです!」

Rちゃんね


俺「ではRちゃん、どうぞ」


R「千秋先輩に質問です!」


南城「え?私?」


R「はい!どうしてお兄さんを好きになったんですか?」

そこかぁ


南城「楽しそうにしてたから、かなぁ」

ほんと、そんな事で好きになってもらった事が驚愕なんだよな


R「へぇー」


俺「それじゃ、そろそろ練習始めようか」


「はーい!!」



そういえば、ここってマイクは無いのか?

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