第293話 救急ヘリ

女子1の心が折れて、泣き崩れた後になって

ようやく南城さんが屋上に戻ってきた


南城「春香!彼は……って!?」

腰を抜かした俺を見て、慌てて南城さんが俺に駆け寄る


南城「大丈夫!?」


俺「あ、うん。ちょっと力抜けちゃって……それより先生は!?」

早く何か手当しないと!


南城「先生なら、もうすぐ来るはずだよ」

階段を振り返ると、そこには保健医の先生がひぃひぃ言いながら上がって来たところだ


先生「なんで……屋上……なんだよ……はぁ……はぁ……」


俺「良かった……」

これでDさんも助かる!


南城「うん!」


先生「それで、怪我人は……また君か」

俺を見て、ウンザリした声を出すなよ!


俺「いや、俺じゃなくて」

倒れたDさんを指さす

確かに俺も怪我人だけど……もう俺は出血も止まってるし、後で大丈夫だ


先生「……何があったってんだよ!?」

血だまりに倒れる女子生徒に駆け寄り、出血や傷口の確認をする

手首を握り脈拍を測る


先生「くそっ、脈が弱いな……今は出血は止まってるけど、このままじゃ」

大丈夫、なんだよね?

焦りを感じさせる口調に、不安になる


四季島「ヤマトさん、ヘリ呼べますか?」

そうか!ヘリなら速いから!


ヤマト「既に手配済みです。後2分程で到着すると思われます」

手配済み!?


四季島「ありがとうございます。おいA!まずはお前をヘリでウチに病院に送る」

は……?

俺を?Dさんじゃなくて??


俺「俺は後で大丈夫だから、Dさんを先に」


四季島「定員オーバーだ。彼女は救急車で運んでもらう」


俺「ふざけるな!俺よりDさんの方が酷い状態なんだぞ!?ヘリの方が早く病院に着くんだろ!?なら、手遅れになる前にDさんを送ってくれよ!!」

優先順位ってのがあるだろ!?


四季島「お前だって、そんだけ血を流していて大丈夫なわけないだろ!!傷口から菌が入れば感染症になるんだぞ!?そしたら、死ぬ場合だってあるんだ!黙って言う事を聞け!」


俺「いやだ!俺は痛くないから大丈夫だ!だからDさんを」

今にも死にそうなDさんが先だ!


四季島「バカ野郎!!今痛みが無いのはドーパミンが過剰に分泌されて興奮状態だからだ!直に痛みは戻る!!」

知ったことか!


俺「なら、耐える!Dさんを送ってくれないなら、ヘリにだって乗らないからな!!

言い争いをしてると、ヘリの音がどんどん近付いてきた


南城「A君……」

堀北「………」


四季島「この分からず屋が!ヤマト、気絶させてでも送ってくれ」

っ!?


ヤマト「宜しいのですか?」


四季島「構わない!見ず知らずの他人よりも、俺はコイツを助ける事を選ぶ」

そうじゃないだろ!


俺「それでも、主人公級の名前持ちネームドかよ!?自分で主人公だって言うなら、『どっちも助ける』位言えよ!!」

そんな事もできないのかよ!


四季島「んなっ!?お前っ」

ヤマト「クスっ……」

突然ヤマトさんが笑い出した


ヤマト「おっと、これは失礼しました。太一様のでございますね……」

え?


四季島「ヤマトさん!」


ヤマト「四季島太一様、貴方は将来四季島グループを背負って立つお方です。そんな貴方様が名前無しの彼にココまで言われ放題など、あってはならない事でございます。医療に置いて『絶対に助ける』とは禁句なので言えませんが、お二人を病院に送る事は可能でしょう?」


四季島「だが、ヘリは1台しか呼べてないんだろ!?」


ヤマト「左様でございます。なので、選びましょう。どなたをヘリに乗せるのか。時間はありませんよ?」


四季島「くそっ……まずは、怪我人を優先する。Aと…Dさん。後は、応急手当の手伝いができる保健医……付き添いで乗れるのは1人までだ……」


ヤマト「流石でございます。では、その様に致しましょう」


保健医「え!?いや、病院に着くまでだったら私は必要ないんじゃないかな?」


四季島「すいませんが、学校関係者の大人が必要なのでご協力ください」


保健医「あ、なるほど。……他の先生じゃ、間に合わないか。分かった、私も乗ろう」


四季島「後は、付き添いだけど……南城さん、頼めるかな?」

わざわざ指名するのか……?


南城「え?私!?」


四季島「ああ、俺と堀北さんはココで他の先生に説明しないといけないからさ」

ヤマト「私は太一様から離れる訳にいきませんので」


南城「う、うん」


堀北「それじゃ、彼のこと頼んだわよ」

南城さんの肩に手を乗せる堀北さん


南城「うん。任せて!……春香?」


堀北「何?」


南城「何か辛そうだけど、大丈夫?」


堀北「っ!?……大丈夫よ。それより彼の傍に居てあげてね」


南城「でも、……」


バラバラバラバラバラバラ

2人が会話してる最中に、上空にヘリが到着した

騒音でまともに会話が出来なくなる


何やらヤマトさんが耳に手を当てて、ヘリに話しかけている

すると、ヘリからロープが降ろされ白い服装の人がそれを伝って降下してくる

その人とヤマトさんは顔を近づけて話しをし、すぐに巻き上げ機に繋がった担架が降ろされた


それにDさんを乗せて固定し、合図を送ると

ロープを巻き取りDさんを引き上げる


その後、俺と保健医と南城さんもロープでヘリに上げられる


全員が乗り込むとドアをガタン!と閉めて、ヘリは四季島の病院へ向かって飛び立つ

保健医の先生が、指示を聞きながら手当を手伝う

ヘリの音のせいで耳元で話さないと全く聞き取れないから、自然と無口になる


Dさんの手当てを見てて、ふと切られた腕に目を向ける

思ってたよりも血が出てたみたいだ

乾いた血が固まってガビガビになっていた


コレ見たら、そりゃ心配するな……


傷口を見てると、痛みがすぐに戻りそうで

窓の外に目を背けた


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