第264話 妹の頼み事

いそいそと衣装に着替える

しかし、カツラはどうするかなぁ……

付けるべきか、付けないべきか

それが問題だ


いや、そこまでする必要はないな

カバンから出したけど、被らずに戻す


ドアをノックして妹に報せる

俺「入っていいぞ」


ドアを開けて入ってきた妹は、スマホを構えていた!?


俺「おまっ、撮るなよ!」

スマホを取り上げようと近付くと

ひょいっと躱しつつカメラを向けてくる


俺「撮るなって!」


妹「もう手遅れだよ~」

なん、だと……!?


妹「だってコレ動画だもん!」

どうが……動画!?


俺「止めろー!!そして消せ!!」

漏洩したらどうするつもりなんだよ!!


妹「止めてもいいけど、コレは永久保存するも~ん!」

止めろー!!


俺「お前、俺に頼みがあって来たんじゃないのかよ!」

そういう悪い子の頼みなんて絶対に聞いてやらねぇからな!?


妹「む~……でも、消したくないし」

消せ!

今すぐ消せ!


妹「じゃあ、消してほしかったらお願い聞いてくれる?」

あ~、はいはい

いつものことね


俺「分かったから、さっさと消せ」

なんで、妹はいつもこうなんだよ……


妹「はーい……今度また来てくれないかなぁ……」

イヤなこった!


俺「で?妹様の頼み事ってなんだよ」

出来るだけ面倒なことは勘弁してほしいもんだな


妹「あ、うん。あのね、一緒にステージに上がってほしいの」

ステージ?


俺「どういう事だ?」

何で俺が?


妹「文化祭でバンドするって前に話したの覚えてる?」

ああ、そんな話あったな……


俺「覚えてるけど」

それは友達と出るって話しだったろ?


妹「そのステージの持ち時間が、ちょっと予想してたより長かったんだよね……」

持ち時間が……長い?


妹「割り振られた時間が終わるまで、出演者はステージから下りる事はできないんだって」

なんだ、そんなことか

なら、時間いっぱいまで演奏なり歌うなりすればいいだけだろ?


俺「それで、何で俺がステージに出なきゃならないんだ?」

自分たちだけで頑張れよ


妹「えっと、私達ね…自分達でやりたい曲を1曲づつ出し合ったんだけど」

それで?


妹「時間が余っちゃうから、もう1曲決めようって話しになってね」

そりゃそうだろうな


妹「そこで、最後の1曲を誰が決めるかって話しで揉めちゃって」

なんだ、そんなことか

どうせ自分の選んだ曲をやりたいって揉めたんだろ?


妹「私は反対したんだけど、最終的に多数決で私が決める事になっちゃって……」

う、ん?


俺「それと俺がステージに出るのと何が関係してるんだ?」

無関係じゃん?


妹「最後の1曲は、おにぃに決めてもらおっかなって」

なんで!?


俺「どうして俺が?」


妹「だって、私だけ2曲決めるのは不公平かなって」

多数決の意味は!?


俺「いや、お前が決めろよ。多数決で決まったなら、それに従っとけって」

それがメンバーの意思なんだろ?


妹「おにぃ、多数決嫌いなくせにそういう事言うんだ」

確かにいつもいつも少数派な俺は、多数決は嫌いだけど

それは、しょうがない事だって

最近は理解できてきたんだよ


てか、多数決以前に俺の意見なんて聞いてもらえない事が増えてきたからな

みんな、勝手に話し進めちゃってさ……

俺が口を挟むまでもなく、まとまっちゃうし……


俺「多数決には、まだ救いはあったんだよ」

今の俺にはもう意見する事すらできないからな……


妹「むぅ……私はみんなと一緒がいいの!!1曲だけで満足なのに……」

知るか


俺「テキトーな曲選んでおけって」

それでみんな満足するんだから


妹「おにぃ、なんか投げ遣りすぎじゃない?」

そりゃ、俺関係ないもん


俺「話しは終わりか?それじゃ着替えるから出てってくれ」

こんな恰好、家でしたくなかったよ


妹「もう!ちょっとは真剣に考えてよ!」


俺「だーかーら!俺には、関係、ないっての!」

なんで俺に相談したんだよ……


妹「そんな言い方しなくたっていいじゃん!もう!おにぃのバカ!」

あ~はいはい

バカで結構!


妹「さっきの動画、先輩達に送ってやるんだから!」

はぁ!?


俺「お前、消したんじゃないのかよ!?」

消せって言ったよなぁ!?


妹「消してないよ~っだ!」

俺を騙したのか!?


俺「お前の頼み事、今後一切聞かないからな?」


妹「じゃあ、先輩達に送ってもいいんだ?最近先輩達からおにぃの様子聞かれまくってウンザリしてたんだから!」

南城さん達が俺の様子を?


俺「それ、どういう事だ?」


妹「あ……なんでもない」

何でもないってなんだよ


俺「南城さん達が俺の事聞いてきたのか?」

何を聞かれたんだ?


妹「秘密だもん!!教えて欲しかったら……一緒にステージに出て!」

んー……

そこまでして聞き出したいかって聞かれたら……そうでもない

けど、少し気になる


俺「それじゃ、曲次第では出てやってもいいぞ」


妹「ほんと!?」

ふっ

食いついてきたな


俺「ああ、そうだなぁ……曲は、アニメの劇中歌で『神のみぞ知る』だ。あの曲を演奏できるなら俺が出てもいいぞ」

できるものならな


妹「知らない曲だけど……みんなに言ってみる!それじゃ、ありがとね!」

ああ、精々頑張れよ



部屋を出て行く妹を見送ると

妹「あ、おにぃ」


俺「なんだ?」

まだ何かあるのか?


妹「それ、めっっっっちゃ似合ってるよ!」

……拳骨するか

拳を振り上げると


妹「きゃー」

棒読みで悲鳴を上げながら妹は自分の部屋に戻る


ったく……面倒なことになったなぁ




そういえば、アイツ……動画消してたか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る