第263話 至福のアニメタイムが……

逃げ帰って、自分の部屋に直行する


衣装をカバンから出してハンガーで吊るす


取り敢えず皺が付いた場所は少なそうだ

この衣装を作った奴、何か執念深そうだったし

下手に扱ったら、何言ってくるか分かったもんじゃない


さて、アニメ観るか……

視界に入らない位置に衣装を移動して、テレビとレコーダーの電源をつける


よしっ!

片っ端から見まくるぞ!


CMはスキップしてOPと本編とED、そして予告やCパートを楽しむ


ああ、至福の時!!


そう!

俺にはコレが一番大切な時間なんだよ!


あ~、はは!

なんだそれww


あ~~、楽しっ!!



コンコン!


妹「おにぃ、ちょっといいー?」

ドア越しに妹の声が聞こえてくる

ったく忙しいってのに……


俺「どーぞー」

空いてるぞー


妹「あのねー、ちょっとおにぃに頼みが……おにぃ?」


俺「んー?なんだー?」

アニメで忙しいんだよ


妹「コレ、おにぃの?」

これって、まぁ俺の部屋にあるモノは大体俺の物だぞ?


俺「そーだぞー」

何当たり前の事言ってるんだか


妹「そ、そうなんだ……そっか……おにぃって、こんな趣味があったんだ」

こんな趣味って、俺の部屋はいわゆるオタク部屋だからな

趣味人の部屋なんて、趣味の物しか置いてないだろ


俺「それで、何の用だー?」

さっさと要件言ってくれ


妹「あのね、文化祭の事なんだけど……」

文化祭?

まだまだ先だよな?

これは、話長くなりそうだな

しょうがない、一時停止して妹と向き合う


俺「なんだ?」

貴重なアニメ観る時間を使うんだ

碌でもない内容だったら、追い出してやるからな


妹の方を向くと、俺用の衣装を指で摘まんでヒラヒラさせていた

あんまり弄るなよ……ん?


妹「文化祭でね」


俺「ちょっと待て妹よ。さっき言ってたって」


妹「え、うん。コレ。いやぁ、おにぃがこんな趣味に目覚めたなんて……後でお母さんに報告しないと」

しなくていい!!


俺「それは違うぞ!それは体育祭で着る、応援団用の衣装なんだよ!!」

どこをどう勘違いしたら俺の趣味になるんだよ!?


妹「え、でも……おにぃが着るんだよね?」

う゛……


俺「そ、そーだが……」

仕方ないんだ!

俺が好きでこんな衣装着る訳ないだろ!?


妹「え!?ホントにおにぃが着るの⁉」

イヤイヤだけどな!


俺「それで」

頼みってのは……


妹「おにぃ、着て見せてよ!」


俺「断る!」

何が悲しくて妹の前で女装しないといけないんだよ!?


妹「じゃ、お母さんに報告してこよーっと」

卑怯な!


俺「ちょっと待て!!報告は必要ないだろ?」

何を報告するつもりなんだよ!?


妹「おにぃがソレ今この場で着てくれたら、言わないよ」

…………今着ろと?


どうするか……

母さんに言われてもやましい事はないけど、できれば伝えたくない

伝えたら、写真とか要求されそうだし

そんな事になったら俺の黒歴史が物として残ってしまう……


それは絶対に嫌だ……!


俺「はぁ……分かった。着てやる」


妹「やった!」


俺「ただし、絶対に母さんや南城さん達に言うなよ?」


妹「先輩達にも?」


俺「そうだ。一切の口外を禁ずる!約束できるか?」


妹「もしかして、……先輩達も知らないの?」


俺「そうだ。当日にバレるとしても、それまでは知られたくないんだ」


妹「ふ~ん。そっかぁ……うん、絶対に言わないって約束する!」


俺「よし、一旦部屋から出ろ。それとも着替えを見たいとか言うつもりか?」

そこまで変態になっていたら、手の施しようがない


妹「そ、そんな事言わないよ!もう!!着替えたらノックして報せてね!」

いそいそと妹が部屋から出て行った





はぁ……俺の至福のアニメタイムが……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る