第260話 不注意の転倒

バックダンサー組が団長と廊下で練習を始めて、教室残された俺達は掛け声を考えることにした


「あのさ~、ちょっといい?」


俺「ん?俺?」


「そうそう。アンタらが歌う曲って、結局なんなの?」

………あ

あの、へぼ団長がっ


俺「えっと、とりあえず聞いてみてもらえるかな?」

自分のスマホで曲を流す



曲が終わり、声をかけてきた女子が手を上げる

「その曲の掛け声考えんだよね?」


俺「そうだけど」

なんだろ……もしかして、曲にダメ出しか!?


「じゃ、もっかい聞かせて。てかループにしてよ」


俺「あ、うん」

1曲の連続リピート再生で曲を流す


教室にアニソンが流れ続けるなんて……今までに無いことだよなぁ

変な感じだ


掛け声を考えることになったみんなは、曲を聴きながらリズムを取ったりメモをしたり

黙々と作業をする


俺も考えた方がいいのかな?


Y「ねぇ、A君」


俺「何?」


Y「振り付けとか、少し考えてみない?」

え~、そんなん俺には無理だよ?


俺「団長が戻ってきてからで良いんじゃないかな?」


Y「そう、かな」

何か考えがあんのかな?


俺「何か思いついたの?」


Y「うん。ちょっとね。歌いながら出来る動きとか考えてみたんだけど」

なるほど


俺「どんな?」

Yさんは、口パクで歌う真似をしながら

ステップを踏んで、腕を軽く振るような動きをする


Y「どうかな?」


俺「確かに今ぐらいの動きなら何とかなるかな……」

足がもつれて転びそうだけど


Y「ね!ちょっと一緒にやってみようよ!」

う~ん

団長も、まだまだ戻って来なそうだし


俺「おっけー。やってみよ」


Yさんに教わりながら、なんとかステップの足の動きを頭で覚える


覚えたら、繰り返して体に覚え込ませる


よかった……そんなに難しい動きじゃないみたいだ


俺「よっ、よっ、よっ、よっ」

よしよし!

意外と俺でも出来るじゃん!

調子に乗って動きを若干早めたら、足が引っかかってバランスを崩す


俺「おわっ!?」

ヤベッ

倒れ……


Y「危ない!」

咄嗟にYさんが俺の手を掴んでくれる


俺「ありがっ」

Y「きゃっ!?」


俺の重さに耐えきれずYさんも一緒に倒れる


下敷きになった俺は後頭部を強打し、覆いかぶさるように倒れたYさんは何とか手を突いて激突は免れた


俺の頭の左右にYさんの腕があって、俺の顔の目の前にYさんの顔がある

お互いの息がかかりそうな程近く、危うく大けがする所だったのに

胸がドキドキしてしまう


俺「ご、ごめん……」


Y「ううん。大丈夫?」


俺「うん、少し頭打ったけど大丈夫だよ」


Y「よかった」


俺「ありがとね」


Y「一緒に倒れちゃったけどね」


俺「あのさ」


Y「何?」


俺「そろそろ退いてくれないかな?」


Y「え~、どうしよっかなぁ」

何ふざけてるの!?

周りに人がいるってのに……っていなくてもダメだよ!?


俺「ほら、みんな見てるよ?」

多分だけど!

俺の視界はYさんで埋まってて周囲の状況が見えてないんだけど!


パシャ!

パシャ!


ちょっ!?

今カメラで撮ったの誰!?


俺「ほら、Yさん!いい加減にしないと」

周りの人のおもちゃにされちゃうよ!?


Y「退いてほしかったら……キスして」

き、キス!?


俺「出来るわけないでしょ!?」


Y「なんで?大丈夫だよ。みんなには、どうせ見えてないから……ね?」


俺「そういう問題じゃないでしょ!?俺達恋人じゃないんだよ!軽々しくキスなんてしちゃダメだよ」

もっと自分を大事にしてよ!!


なんで俺の周りの女子はこうも積極的すぎるんだよ!!

もっと大人しくて恥じらいのある女子っていないの!?


Y「そっか。残念」

キスしてもらえないと分かると、すぐに俺の上から退いて立ち上がる

そして、俺に手を伸ばして助け起こそうとしてくれる


でも、さっきの事もあるし

俺「大丈夫だよ。自分で立てるから」


Y「そんな警戒しなくてもいいのに」

するに決まってるでしょ!?


俺「あたた……」

こりゃ、コブ出来てるな……

後で冷やしておくか


Y「え、大丈夫!?」

そんな慌てなくても大丈夫だって


俺「うん、大丈夫。ちょっとコブ出来たかもだけど……でも、冷やしておけば問題ないから」


Y「ほ、保健室行こ!先生に診てもらおうよ!」

大袈裟だなぁ


俺「大丈夫だって、これくらいほっといても治るから」


Y「ダメ!ほら、保健室行こ!手当は早くした方がいいから!」

ずるずるとYさんが俺を引きずってでも保健室に連れて行こうとする


俺「大丈夫だって!」

ちょっと痛いけど、これくらいは問題ないって!


Y「みんなゴメンね。ちょっと保健室行ってくるね」

いや、行かなくても大丈夫だから!

てか、行きたくないんだけど!?


「はーい、いってらー」

「ごゆっくりー」

「アタシらコレ聴いてるから」

ちょっと!置いてかないとダメなの!?

俺のスマホ!


Y「うん。それじゃ行ってくるね!ほら、行くよ」

無理矢理Yさん教室から連れ出される

もちろん廊下にはヲタ芸を練習中の団長と元バックダンサー組がいて


団長「あら、どうしたの?」


Y「A君が頭打っちゃって、ちょっと保健室行ってきます!」


団長「そ、そうなの!?分かったわ、行ってらっしゃい」

止めてー!!!

そこは俺にも話しを振ってよ!!


Yさんに連れられて、保健室に向かう

それなりに距離あるんだよなぁ……


誰とも会いませんように……!!

こんな恰好してるの見られたら……ショックで寝込むからな!?


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