第208話 仁科さんと滑る

ウォータースライダー前に到着した俺達は列の最後尾に並ぶ


長蛇の列、があればよかったんだが……残念なことにウォータースライダーには殆ど誰も並んでなかった


妹「空いてますね」


仁科「ラッキーだね」


俺「本当に行くのか?」


仁科「もちろん!」


ウォータースライダーの階段前で、妹が立ち止まる

俺「どうした?」


妹「先輩、先行っていいですよ」


仁科「え?いいの?」


妹「はい。私は下で待ってますから」


仁科「そう?それじゃ行ってくるね!」

妹に先を譲られ、仁科さんは喜んで階段を上って行く

もちろん、俺を連れて……


階段を上りきり、滑り台の入り口へ到着するとスタッフの人が元気に迎えてくれる

「ペアスライダーへようこそ!」

ペア…スライダー?


「まずは簡単な注意事項を説明します!このペアスライダーはコチラのボードに乗って、二人一緒に滑る二人ペア専用のウォータースライダーになっております!」

スタッフさんは薄いプラスチック製の板を手に説明を続ける


「この座面に座って後ろの人は前の人にしっかり掴まり、前の人はボードの取っ手をしっかり握ってください」

二人用にしては、大きさが少し小さいような……


「途中で離すととても大変な事になりますので、絶対に離さないでください!いいですね?」

そんな危険なアトラクションは即刻中止すべきなのではないだろうか!!


仁科「はーい!」


「はい!元気なお返事ありがとうございます!説明は以上です。何か質問はありますか?」


俺「これ、ほんとにケガとかしないですよね?」


「もちろんです!今までお怪我されたお客様はいません!」

いやいやいや⁉

さっきとても危険だって言ってたよね⁉


俺「じゃ、じゃあ何が大変なんですか?」


「過去に何度かボードから落ちてしまったお客様がいらっしゃいます」

それで……?


「そのお客様方の水着が滑る途中で破れてしまい、それはもう大変な事に……」

だから、何でそんなアトラクションが稼働してんだよ!?


俺「仁科さん、考え直そう。俺、大変な目に遭いたくないよ」


仁科「えー?大丈夫だよ!ボードから落ちなきゃいいんだよ!」

そもそも、やらなきゃいいんだって!!


「それではスタート位置についてください。お二人がボードに乗るまでは、こちらで押さえておりますので安心してお乗りくださいね!」

不安しかねぇ……


仁科「あ!どっちが前?」


「おススメは男性の方ですね」

ボードを掴む力がある方が前って事か

それって、俺より仁科さんの方が強くない?


仁科「だって!君が前ね!」


俺「え……俺後ろじゃダメ?」


「女性が後ろの事もありましたけど、水着が飛ばされてしまって……」

不注意すぎない!?

てか、コレそんな勢いいいの!?


俺「わかりました。俺が前でいいです」


仁科「うん!」

俺が先にボードの前に乗り、取っ手を掴む

コレを離したら……大変な事になる

離したら大変な事に……大変なことに……


俺「やっぱr」

仁科「よいしょっと」

肩に手を置いて仁科さんがボードに乗る


「あ、もっとしっかり男性に掴まってください」


仁科「もっと?これくらいですか?」

背中に仁科さんの水着が当たる感触がぁー!?


俺「え、ちょっ」


「もっとです!ギューッとしがみ付いちゃってください」

何言っての!?


仁科「えっ!?こ、こ、こうですか……?」

更に体を密着させてくる仁科さん……!

スタッフさんの指示だからってくっつき過ぎ!!


「そうでーす!滑り終わるまでそのままですよ!」

せ、背中に……仁科さんの肌が当たってる!!!

柔らかい……って、ダメだ!!

意識しちゃダメ!他の事を考えるんだ!

背中に仁科さんの温もりが直接……って、そうじゃない!!

もっと、他の事!!


何か無いか!?


仁科「ちょっと恥ずかしいね」

耳元で喋らないでぇ!!

気を逸らせないじゃんか!!


「それじゃ、出発でーす!行ってらっしゃーい!」

滑り出しはゆっくりだった……しかし、ほんの一瞬でぐんぐん加速していき

あっという間にトップスピードの達する

速っ!?

思ってたより加速ヤバイ!!


仁科「やっほーーーーぅ!!」

何か仁科さんテンション上がってる!?

え⁉楽しいの!?

俺、超怖いんだけど!!


仁科「あはははははは」

めっちゃ楽しんでるーーーーー!!


筒状のスライダーが右へ左へ蛇行する

それに合わせてボードに乗った俺達も左右に振られる

体が遠心力で少し離れて、またくっ付く

その度に、フニャンともぽにょんとも言い難い感触が背中を襲う

うおぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー!!

意識を!意識を逸らせ!!

純粋にウォータースライダーを楽しんでる仁科さんに、失礼だろ!?

そうだ!アニメでこういう時は素数を数えろって言ってたな!

えーっと、2…3…4、は違う!…5…7…あれ?次なんだっけ?


くそっ!!

こんなん頭良くないと出来ねーよ!!


そんな無駄な抵抗をしている内に、最後の直線に差し掛かる


今まで筒状で外が見えなかったが、最後の直線は屋根がなくなるみたいだ

筒の中よりも風を感じて、体が少しのけ反る

そして背中に柔らかい感触!?

あ~!もう!!


一気に直線を滑り下りて、出口のプールへ飛び出す


ザバーン!と水を切りながら少し進み、ボードから落ちる


プールから顔を出すとさっきとは別のスタッフさんが手招きしている


「ボードを持ってコッチへ上がってくださーい」

出口はアッチか


仁科「あ~、楽しかったぁ!」

ヨカッタネー!


仁科さんが離れても、背中には感触が残っている……

何とか視線を胸から反らして、プールから上がる


俺「はぁ……」

ボードをスタッフさんへ返す


妹「どうでした?」

なんだ、迎えにきたのか?


仁科「うん!すっごく楽しくて気持ち良かった!」

滑ってる時、ずっと笑ってたもんな……


妹「そうですか。おにぃは……気持ち良かった?」

なんで俺には楽しかったか聞かないんだよ!?


俺「いや、まぁ」

仁科「えぇー!?風切って気持ち良かったよね!?」


俺「そう、だね……」

どっちかって言うと、爽快さよりも疲れの方が尋常じゃないんだけどさ……


妹「それじゃ、次は私の番ね」

そうか……妹とも滑るのか……

なんか、もうどうでもよくなってきた……


仁科「行ってらっしゃーい」






仁科さんに見送られて、またウォータースライダーの階段を上って行く

ま、まぁ……妹と滑って終わりだし

これで最後だから……ガンバレ、俺

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