第191話 水着選び

妹が出てくるのを今か今かと待つ


そんな俺を、試着室から出てきた女性客が発見し

ひっ!

と短い悲鳴を上げる


そうでしょうね!!

だから店に入りたくなかったんだよ!!チクショウ!


妹「おにぃ?」

ドアを少し開けて顔を出す妹

やっと着替え終わったのか……


俺「おう、決まったか?」

もう、お前の好きに選んでくれ……

一刻も早く退店したい


妹「決めるのはおにぃだってば」

ドアをしっかり開けて、試着した水着を俺に見せる


もう、これでいいんじゃね?

えっと、なんだっけ?

その腰布付いてるやつ、人気なんだろ?


俺「ああ、そうだったな。いいんじゃないか。うん、似合ってるぞ。それでいいと思う」

寧ろ他のを見る必要すらないくらいだ


妹「そ、そうかな……えへへ」

クルリと一回転する妹

背中側を見て……俺の考えは変わった


尻の部分に大きなハートマークがでかでかと描かれていた

流石の俺でも、違和感くらいは感じる


俺「な、なぁ妹よ。一つ聞いていいか?」


妹「え、何?」


俺「その……尻の柄は、それでいいのか?」

まるでニホンザルだぞ?


妹「え?お尻?……これは、どうなんだろ」

鏡に映った柄を見て、妹も困惑している


俺「言いにくいんだが」


妹「うん?」


俺「サル……みたいだぞ」

そんな俺の発言を聞いた妹は、バタンとドアを閉める


妹「これは、ダメ!」

だろうな……


俺「俺も、そう思う」


妹「次のに着替えるね」

うん……

また俺はここで待ってなきゃいけないんだな……


あの店員めっ……あんなんが人気商品だとか、嘘も大概にしろよ


それからまた少し待たされ、今度は試着室を使いに来たお客さんに短い悲鳴を上げられる


もう、俺の精神は限界近いぞ……

早く出て来~い


妹「こ、今度のはどうかな?」

おお、今度はさっきより早かったな!

ドアを開け、水着を披露する妹


俺「どれどれ……無しだ」

もう、これは即決で無しだ

咄嗟に顔を背けて視線から外す


あの店員……ワザとか?


妹「だよ、ね……」

恥ずかしそうにする妹に手でさっさとドアを閉めるように促す


俺の妹に何てもの着せやがるんだ!!

布面積が圧倒的に足りてないだろ⁉

あんなん漫画やラノベですら中々見ないぞ!?

ピンポイントにしか隠せてないようなもの、人前で着る奴はいないだろうが!!


そもそも、何であんな水着売ってんだよ……

この店、もしかしておかしいんじゃないか?


次の水着がダメだったら、他の店に行こう

もう、この店には二度と来させないからな!!


妹「えっと……今度は割と普通、なのかな」

ドアが開く

ほんとに普通なのか?

また背中の方が可笑しな事になってたりしないか?


俺「おお……う~ん……」


佇む妹を観察する


布面積は、問題ないな

後は、柄だけど……

くるりと一周回転し背中側も見せてもらう

うん、変な柄はないな

と言うか、さっきまでのに比べて明らかに普通だ


全体的に薄い青系の色で、胸元には濃い青色で錨のマークが描かれている

腰の布は、チェック柄だ


うん。途轍もなくシンプルだ


俺「いいんじゃないか」

シンプルな方が俺は好きだしな


妹「でも、シンプルすぎないかな?」

何を言う!?


俺「シンプルな方が俺は良いと思うけど、まぁイヤなら他のにすればいい。どうせ買うなら気に入った物の方がいいだろ」

確かに……お洒落かと聞かれれば、違うかもしれないしな


妹「えっと、おにぃはシンプルな方がいいの?」

当たり前だろ?


俺「そうだな。シンプルな方が好きだな」

実際俺の私服もシンプルな物ばっかりだしな


妹「わかった。コレにする」

ん?


俺「いいのか?他にもっとお洒落な奴あるだろ?」

本当に俺が決めたみたいになっちまうぞ?


妹「ううん。おにぃが良いって言ってくれたから、コレがいい」

そうか


俺「じゃ、ソレに決定だな。さっさと着替えて会計しに行くぞ」

そろそろ、他のお客さんからの視線に耐えられなくなるからな


妹「うん!」


と言ってから、またしばらく待たされ

追加で3度ほど悲鳴に似た奇声を浴びせられる


ほんと、二度と来ねぇからな!!


水着を会計に持っていくと、妹に水着を選んだ店員がレジをやっていた


店員「こちらにしたんですね」


妹「はい!」


店員「ではコチラ一点で、1万2千円です」

い、1万2千!?

俺の水着の倍以上じゃねーか!?

ま、まぁ……持ってたからいいけどさ

財布から1万5千円を出す


さらば、来月買おうと思ってたゲーム……


店員「こちらプレゼント包装は致しますか?別途包装代がかかりますが」

いらない!!


店員「お願いします!」

おい!

必要ないだろ⁉


店員「承りました。ではコチラから包装紙をお選びください」


妹「う~ん。コレでお願いします」


店員「はい、では少々お待ちください」

手慣れた手付きで水着を薄い箱に入れ、その箱を包装紙で包む

店のロゴ入りテープで一カ所を止めて、表にはリボンの飾りを付ける


包み終わった物は店のロゴ入りの袋に入れられ妹へ手渡される


おつりとして返ってきたのは、2千円だけだった

包装代1000円かよ……

なんか高くないか?

これが普通なのか……?




一気に軽くなった財布を手に店をあとにした

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