第190話 妹の買い物は……

さて、妹の方の買い物は何だろうな


妹と隣の売り場に移動する


売り物は、一目見て理解した


よくよく考えれば、いや本来考えるまでもない事だった


そう俺が買った物は何だったか、そう男性用の水着である


という事はだ


もちろん、隣で売っているのもそれに準ずる物である


そう、女性用の水着だ


いや、確かに何か欲しいものを買ってやるとは言ったが……


俺「そうか。お前も水着を買いにきたのか」


妹「そうだよ?今さら気付いたの?」

ああ、今気づいたよ!

クソっ


俺「俺は店の近くで待ってるから……そうだ、財布を渡すから好きな物買いなさい。財布に入ってる金額以内なら好きにしていいぞ」

うん

俺は待ってるから行ってこい


妹「ダメだよ!おにぃも一緒!」

なんで!?


俺「いや、俺が行く意味とか必然性はないだろ?な?」

ない!

あるはずもない!


妹「あるよ!一緒に選んでほしいの!」

な、なんだと……?

俺に選べと?お前の水着を?


俺「ハハハッ、冗談はやめてくれよ」

笑えないって


妹「ジョーダンじゃないよ!私が欲しいのは、【選んでくれた水着】なんだもん!」

この子、何言ってるの?


俺「本気か?」

ファッションセンスとか、そういうスキルを一切取得してない俺に選べと?


妹「うん!あ、でも……あんまり過激なのは恥ずかしいかな。おにぃが着てって言うなら、二人っきりの時着るけど」

着るんかい!?

いや、そもそもそんなの着てほしくないけどさ!


俺「……確かに俺は、お前の欲しい物を買うと言った。言ったけどさ、そのチョイスはどうかと思うぞ」

俺にそういうセンスが無いのは知ってるだろ……


妹「いいの!さ、早く選んでね!でも、テキトーに選んだらダメだからね?」

くそ……マネキンの着てるやつ選んで終わりにしようと思ったのに


俺「テキトーに選んだかどうかなんて、どうやって判断するんだ?」

そんなの俺が基準なのに


妹「う~ん……。似合ってる、可愛い以外の言葉を使ってどう私に似合うか説明してくれたら信じるよ」

なん……だと!?

俺の語彙力に対してそんな制限をかけたら……

何も出てこないぞ!?


俺「………………帰りてぇ」


妹「そんなに難しく考えなくていいんだよ?私に似合うやつ選んでくれれば良いだけなんだし」

だ~か~ら!!

似合う似合わないなんて、俺には分からないんだって!!


妹に手を引かれ、女性用の水着売り場へ連行される

考えるんだ……脳内のボキャブラリーを総動員しろ!

なんとしても、一刻も早く、ここから抜け出そう!!

既に妹と一緒にいるだけで、とんでもない視線が刺さってるんだ

その上、兄が妹に水着を選んで、それを説明する場面なんて見られたら……

変態シスコン野郎と思われちまう!!!


なんとしても、回避しなければ……!!


必死に店内の商品を見比べる


どこがどう違うのか

何色がどれくらいあるか

ビキニかワンピースか


千差万別だ

こんな量の商品の中で、一つを決めなきゃいけないのか……


それも、迷えば迷った分だけ周りからの視線は痛くなる


どんな地獄だ、これは!?


もしかして、フレンチトーストを焦がした意趣返しなのか?


だとしても!

コレはあんまりに過酷すぎる!!


試着室の方なんて一瞥もできない!!

顔を俯かせて、視線を動かして商品を見比べる


くそ、どれがいいかなんて……分かるわけないだろ!!


あ~~~~~~、くそ!!

こんな事になるなら、迂闊にあんな事言うんじゃなかった!!


俺の混乱と危機意識を余所に、妹は色々な水着を手に取っては戻すと繰り返している

本気で俺に選ばせる気か!?


なんとしても、早く決めなきゃいけない……

他の女性客や店員からの視線が怖い!!


妹「ねぇ、どれがいいかな?」

くそ、呑気な質問しやがって!!


そんな俺の元に救いの手が差し伸べられた!!


店員「いらっしゃいませ~」

さり気なく店員さんが声をかけてきてくれた!!


俺「あ、あの……こいつの水着を」

そうだ!これだ!

『店員さんのおススメ』!!

これなら選んだ理由として、パーフェクトだろ!


妹「あっ!もう!」

気付いたか、だが残念だったな

もう遅い!!


店員「ふふ、可愛い彼女さんですね。プレゼントですか?」

か、彼女!?

何言ってんの、この女!?


俺「ちが」

妹「えへへ、そうなんです!自分が選ぶから着てほしいっていうんです!」

おまーーーーーーーーー⁉⁉

何口走ってんの⁉

正気か!?


店員「あらあら、アツアツで羨ましい。それじゃ私はお邪魔でしたね、ごめんなさい」

待ってくれ!行かないでくれ!!


俺「あ、あの!」

しょうがない

今は誤解を解くよりも、商品を選らんでもらわなきゃならない!!


俺「どれがいいのかさっぱりで、よかったらおススメ教えてくれませんか?」

よし、客の頼みを無下にする店員はいない!!

これで、決まりだ!!


店員「そうですねぇ……それじゃ今年人気の物をいくつか用意しますから、その中から選んであげてくださいね」

な、何ぃいぃぃいいいぃ⁉

おススメが複数ある、だと!?


妹「もう、しょうがないなぁ。すいません、お願いします」

何しれっと、やれやれ感出してんだ⁉

やれやれって言いたいのは俺の方だっての!!


店員「はい。少々お待ちください」

おススメの水着を取りに行く店員さんを確認する


俺「おい!何考えてんだ!勘違いされただろ!」

どうやって訂正するんだよ!?


妹「私たち、恋人同士に見えてるって!うへへ」

こ、こいつ聞いてねぇな……!


俺「うへへじゃない!全くもう……どうすんだよ」

なんて言えば、誤解は解けるかなぁ……


誤解を解く言葉は浮かばないまま、店員さんがいくつかの水着を持って戻ってきてしまった


店員「お待たせしました。こちらが当店一押しの商品です」

持ってきた水着は、なんかひらひらした布がついている物だった

なんだ、あれ


妹「今年はパレオが人気なんですね」


店員「はい。それに、こちらは男性ウケも良いんですよ」

知るかそんなの!


妹「へぇ、そうなんですか!ふふ、ねぇねぇ、どれがいい?」

楽しんでやがるな!?

帰ったら覚えていやがれ!!


俺「えっと、何が違うのかさっぱりなんですが……」

どれも一緒だろ⁉


店員「そうですね……まずこちらの商品は今年人気の……でして、次にこちらは……ですね。あと、こちらの商品は……」

くそ、何言ってんのかサッパリだ!!


店員「お気に召しませんか?」

だーかーらー!

どれも一緒だろ⁉


俺「えっと、じゃあ……」

どれにしようかな、天の神様の言う通r


店員「もし、まだ迷ってるようでしたら試着してみるのはどうでしょう?」

りぃぃぃーー!?


妹「いいんですか?試着したいです!」


店員「では、フィッティングルームへご案内します」

い、妹ぉおぉぉーーー⁉⁉


妹「ほら、行くよ~」

袖を掴まれて連行される

無理に引き剥がすのも、みっともないし……

店員さんは100%善意で言ってくれてる


ここで行かないなんて言ったら、店員さんに悪いだろ……


試着室がいくつか並んだ所へ案内され、その内の一つに妹が入る

何やら妹に説明をして、ではと言って店員さんは別の客の所へ行ってしまう


こんなトコに男一人放置するのは、良くないと思うんだけど⁉


頼む!!

妹が顔を出すまで、誰も出てこないでくれ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る