第174話 堀北さんとお祭り

南城さんに先導されて向かったのは神社の手を洗うところだった


南城「春香~」

もちろん其処には浴衣姿の堀北さんが待っている


堀北「ちゃんと来たわね」


南城「うん。ホントはもう少し一緒に居たかったけどね」


堀北「しょうがないじゃない。妹ちゃんとの約束は守らないと」

妹と約束?


南城「うん。それじゃ、私は妹ちゃんと合流するね」


堀北「ええ、アッチの綿飴のとこに並んでると思うわ」


南城「りょーかい」

堀北さんが指さした方へ走っていく


堀北「さて、と」


俺「あのさ、聞きたい事あるんだけど」


堀北「何かしら?」


俺「今日のことなんだけど、妹と何か約束したの?」

まさか妹が首謀者なんじゃ……


堀北「あら?聞いてないの?」


俺「何にも聞いてないんだけど」


堀北「えっと、どこから話したらいいかしら……今日はね、妹ちゃんが誘ってくれたのよ」

やっぱり妹が仕組んだ事か


堀北「君の家に遊びに行ったらね、妹ちゃんが出てきて。君とお祭りに行きたいなら当日まで我慢してって言ってきたのよ」


俺「何でそんなこと……」


堀北「そうね、何でかしらね」


俺「ったく……アイツ何がしたいんだよ」


堀北「ふふ、それなら後で直接本人に聞いてみたら良いと思うわ」

それしかないか……


堀北「それじゃ、この話しはおしまいにして。お祭り楽しみましょ!」

楽しむ気満々の少しテンションの高めの堀北さん


俺「はぁ……まずは何処に行く?」


堀北「そうね、とりあえず縁日見て回りましょ」

歩き出す堀北さんの横に並んぶ


賑やかな縁日を眺めつつ、堀北さんの横顔を窺う

楽しそうではあるけど……何か違和感が……

なんだろ?


ただ見て回るだけで、遊んだり買い物したりもしない

ただのんびり縁日の賑わいの中で静かに歩く


俺「えっと、何かしないの?」

南城さんみたいに屋台で何か買って食べたりとか


堀北「いいの。こうして一緒に見て回れるだけで楽しいから、君は何か気になる出店でも見つけた?」

いや、全然ないけど……

射的やクジなんかに興味はないし

焼きそば食べたばっかでお腹も空いてないし


俺「何か、前と違う……気がする。堀北さん、どうしたの?」


堀北「もう……何でそうなのかな、君は」

え?

何か変なこと言った?


堀北「鈍感なのかと思えば、こういう時だけ察しちゃう……」

やっぱ何かある?


堀北「君のことが心配なのよ。今日、こうして私達と過ごす事で君が大変な目にあうんじゃないかって」

そう思うなら、断ってくれればよかったのに……


俺「とりあえず、さ」

折角の祭りなんだし


俺「楽しもうよ。もったいないよ」

今日は特別な日なんだし


堀北「でも」


俺「折角浴衣まで着てきたんだから、もったいないよ」


堀北「いいの?」

楽しむ事は大事だよ


俺「いいんじゃないかな。今日はお祭りだし」


堀北「ありがと。実はね、じゃがバター食べたかったの。付き合ってくれる?」

じゃがバターか


俺「いいよ。買いに行こ」


堀北さんと一緒にじゃがバターの出店に並んで買う

発泡容器、蒸かしたジャガイモ、バターではなくマーガリン


それぞれ一つずつ買って人の少ない木陰で食べる


流石にお腹いっぱいだな……




堀北「君はさ……私達の事、どう思ってるの?」


俺「どうって?」

友達とか、そういう?


堀北「やっぱり、好きになれない?君の好みと合わない?」


俺「えっと、なんて言えばいいかな……」

好きかどうかで言えば、好きかもしれない

でも、恋愛対象かどうかで言えば違う


俺「…………二人とも凄く魅力的だけど、付き合いたいとは思わないかな」


堀北「そう。魅力的って言ってくれるのね。なのに、付き合いたいとは思わない……どうして?何がダメなのかしら?」

ダメっていう訳じゃないんだけど……


俺「どうしてって言われても……」


ダメなのは、多分俺自身なんだよ


散々名前持ちや名前無しを言い訳にして、逃げ回って


本気で誰かを好きになった事なんてない俺には、どうしていいのか分からない


素敵だと思うよ

可愛いと思うよ


でも……俺には分からないんだよ


こんな気持ち、説明しても理解を得られるとは思えない


俺なりに考えて、出した結論は


『好きになれないから、付き合わない』


自分でもどうしてなのか分からないけど


南城さんとも堀北さんとも付き合いたいって思えない


こんな俺を好きだって言ってくれる二人には申し訳ないけど


堀北「私は……その、スタイルがいい訳じゃないし、そんなに可愛げもないけど。千秋は可愛いしスタイルだってとってもいいじゃない?」

そんな同意を求められても困るんだけど……


堀北「今まで怖くて聞けなかったけど……聞きたい事があるの」


俺「な、何?」

怖くて聞けないことって?


堀北「君の好みの人ってどんな人なの?理想の女性ってどんな人?」

それが、怖くて聞けなかったこと?


俺「えっと、何で怖いの?」

寧ろ真っ先に聞いてきてもおかしくない質問だけど……


堀北「だって、君の理想が私とかけ離れた人だったらって思うと……怖くてしょうがないのよ……どんなに頑張っても、届かないほど遠い存在だったら……私は立ち直れなくなるって……」

そんな深く考えてなかったな……


俺「俺の理想、か……」

ありきたりな答えなら『好きになった人が…』ってやつだけど

今聞かれてるのは、そういうことじゃないよな


俺「ごめん……。好みとか理想とか、今はそういうの無いんだ」

前は高い理想を持ってたけど……


堀北「そう……。今はって事は、前はあったの?」

やっぱそこ気にしちゃうよね……!


俺「う、ん。まぁ、ね……」

出来れば言いたくないんだけどね!


堀北「教えて、くれるかしら?」

そりゃ気になるよね!


さっきからずっと真剣に、一心に見つめるその眼に嘘を吐けるほど

不甲斐ない男には、なりたくないんだ

つまらないプライドだけどさ


俺「笑わないでね?」


堀北「笑わないわよ」


俺「言いふらしたりしない?」


堀北「ええ、しないわ」


俺「すーーーー、はぁ~~~~~~~……じゃ、言うよ」

無言で頷く堀北さんに、俺が前まで誰にも言ってなかった理想の女性像を話す


俺「えっと……まず、頭がいい人がいいなって」


堀北「え?そうなの?」

気まずい!確認されるとより恥ずかしい!!


俺「あと、一緒にアニメを観てくれて」

キモオタ乙!


堀北「アニメ……」


俺「アキバとかコミケに一緒に行ってくれて」


堀北「アキバは、秋葉原ね。コミケは…何かしら」

コミケについては、後でググって


俺「一緒お菓子作ったり食べたりしてくれて」


俺「その……えっと……」

膝枕とかしてくれる人がいいなぁ、ってのは言えない!!

流石にキモすぎる!!


堀北「えっと……その、容姿とかの理想って」

容姿?


俺「別にないよ?」

もともと名前無ししか想定してなかったし


堀北「そう……、いくつか確認良いかしら?」


俺「な、何?」

まさか、もう一回言うの!?

出来れば二度と言いたくない……


堀北「私、成績は良い方じゃない」

ん?


俺「そうだね。いつもテストで上位にいるよね」

南城さんや俺と一緒に遊んでんのに、成績キープしてるとか凄いよね


堀北「アニメってどんなアニメかしら?」


俺「えっと、色々なアニメかな。学園モノ、異世界モノ、ロボットモノとか」


堀北「そう。秋葉原とかコミケ?に行くって、デートで行く感じかしら?」

いや、アキバはデートでもいいけど


俺「アキバは、そうだねコミケは戦場らしいから……デートで行くのはやめた方が良いらしいよ」

アキバデートかぁ……楽しそうだな


堀北「そうなのね……それはそうと、前作った生チョコ美味しかったわね」


俺「あ、うん。そうだね」


堀北「その、自分で言うのも何なのだけど……その理想像って私当てはまってないかしら?」

ん……?


堀北「秋葉原って行ったことないから分からないけど、デートで行くなら楽しそうよね。お菓子作りも一緒にできるわ。アニメは詳しくないから、オススメがあれば教えてほしいわ。一緒に見るなら、その時説明してくれると助かるわ。もちろん勉強だって今まで通り頑張るわ」


一気に捲し立てる堀北さん


堀北「私じゃ、ダメなのかしら?」


そんな切実な瞳で言い寄られても……


俺「ちょっと待って!落ち着いて!今は、その理想像とかないって言ったでしょ⁉」

最初の前提を忘れないで!!


堀北「そ、そうよね……ごめんなさい。でも、私にもまだ可能性はあるのね……もう少し頑張ってみようかしら……」

何をどう頑張るつもりなの⁉


堀北さんが自分の世界に旅立つ寸前、スマホに着信が入った

どうやら、もう交代の時間みたいだ


次は、妹か……

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