第156話 祝・退院

妹が出て行ってから数分後

母さんと主任さんが部屋に来た


母「本当に、私の子……なのよね?」


俺「母さん、俺は俺だよ」

見て分かるでしょ?


母「そう……おかえりなさい」

心底安心した、それがヒシヒシと伝わる声だ


俺「うん、ただいま……」

実感はあんまり無いけど、帰ってきたって事でいいのかな?


母「これ、着替えよ」

ボストンバッグを渡されて、中身を見る

よく着る普段着が入っていた


俺「ありがと」


主任「それでは、私はこれで」


母「ありがとうございました」

深々とお辞儀する母さんき倣って、俺もベッドに座ったまま頭を下げる


主任さんが出て行ったのを確認した後

俺はバッグから洋服を出して着替える


母「あんまり心配ばかりかけないで欲しいわ……」


俺「ごめん」

確かに最近の俺って母さん達に心配ばっかかけてるな……

反省しないと……


母「ほんと、無事に帰ってきてくれて良かったわ……。名前持ちだって、帰って来れない人もいるのよ……。アンタまで帰って来なかったら…………」

そっか……

俺のDNA的な父さんは、名前持ちなのに帰って来なかったから

母さんにとって、強いトラウマだったんだな


それはそうと、妹はどこ行ったんだ?

どっかで迷子にでもなってなければいいんだけど……


母「あ、そういえばアンタ何したの?」


俺「何って?」


母「妹よ。先に来てたはずなのに」

あ~……

何もしてないよ?


俺「えっと……」

どう説明すればいいかなぁ


母「そう……あの子、フラれちゃったのねぇ」

やっぱり、知ってるのか……


俺「あのさ、母さん。なんで」


母「知ってるかって?そりゃ、親ですもの…知ってるわよ。でも、そう……ダメなのね……」


俺「なんで知っていながら、止めないんだよ……」

面倒なことこの上ない


母「そんなの止められないわよ……あの子、本気だったもの。本気であんたなんかに惚れてたのよ?」

は余計だろ


俺「だからって……俺達は兄妹だよ。付き合うなんて考えられないって」

親なら、それも分かってるだろ?


母「そうね。でも、止められなかったわ……」


俺「なんで?」

母さんが止めてくれれば、問題なかったのに


母「それはアンタがどっちを選んでも、私は否定するつもりはないからよ。アンタ達が付き合うなら、私達親は離婚するわ。そうすれば、ちゃんと付き合えるでしょ?」

離婚って……

そんな子供の気まぐれみたいなモノで軽々していいもんじゃないだろ……


母「アンタが断ったなら……今まで通り仲の良い家族でいるわ。これからもずっと変わらずに、ね」


俺「ってことは、家族離散のルートは避けられたな……」


母「もう……。でも、本当にいいの?身内贔屓で言うけど、あの子かなり優良物件だと思うんだけど?」

何言ってんだよ、母さん……


俺「俺にとっては妹は妹で、それ以上でもそれ以下でもないんだよ」

純粋に家族だ


母「……そう」


俺「それじゃ、帰ろうぜ」

家帰って……あ~、宿題しないとなぁ

後2週間くらいで期限だしな


母「あ、そうそう。外で待ってるわよ?」

父さん?


母「千秋ちゃんと春香ちゃんと豊ちゃん」

うげ……


俺「う、裏口から帰ろう……」


母「ダメよ。待ってるんだから」


俺「そ、そっか……」

できれば俺から遠ざけてくれないかな


母「大丈夫よ~、今日は顔を見に来ただけみたいだから。元気な顔みせて安心させてあげればいいだけよ」

絶っっ対にそれだけじゃ済まないよなぁ


俺「はぁ……予想可能回避不可能かぁ……」


母「さ、支度終わったら帰るわよ」

支度って言っても、着替えるくらいで荷物なんて何もないんだけどな……

今一度身だしなみチェックをして、問題無いのを確認する


俺「よし、行くか」

部屋を出ると、何となく見覚えのある廊下を歩く

左右に一定間隔で並ぶドアの先は、きっと俺のいた部屋と同じ様な作りなんだろうなぁ


突き当りには階段とエレベーターがあり、母さんがエレベーターの上ボタンを押す

上?

出口って上なのか?

いや、受付とか手続きが上にあるのか……


ポーンという音が鳴り、エレベーターが到着する

中に乗り込むと数字の無いボタンがずらーっと並んでいた

一個だけ色の違うボタンがあり、母さんはそのボタンを押す

変なエレベーターだなぁ


ドアが閉まりエレベーターが動き出す


目的の階に到着し、ドアが開く

出た所は廊下ではなく、エントランスらしき場所だった

受付とか手続きとか何もせず、そのまま外へ向かう


自動ドアを出ると、そこには南城さんと堀北さん、仁科さん

あと妹が隠れるように待っていた

よかった……迷子とかにはなってなかったみたいだ


俺「えっと、みんな久しぶり?」

体感的には、数時間ぶりなんだけど……


南城「うん!」

堀北「久しぶりね」

仁科「心配したんだよ?」


俺「…………何て言ったらいいかな。まずは、心配かけてごめん。とりあえず、無事退院できました」

で、いいのかな


南城「うん、うん……良かった、君が消えたって聞いて……どうしようって……」

消えたってのも、聞いてたんだ……


仁科「君が無事でよかったよ」

あ、うん

心配かけました……


堀北「できれば何があったか後で教えてほしいのだけど」

もちろん、聞かれた事についてはちゃんと話すよ


俺「うん。それじゃ、そういう事で……」

さぁ帰ろう!

もう顔見せたし、大丈夫だよね?ね?


帰ろうとすると、妹が俺の腕を掴んで止める

なんだ?

と振り返るといきなり頬に

チュッ

と口づけされた……⁉!?

みんなの見てる前で何してくれてんの⁉


おま、諦めるんじゃなかったのかよ!!


なんでこうなるんだよ……⁉

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