第133話 妹の質問タイム

脱衣所で鏡を見て、当たり前のことにやはり驚いてしまう


そこに映る人物は見たことの無い、少年だ

目を見開き、ポカンと口を開けた間抜け顔をした少年オレ

見慣れない顔、見慣れない体、見慣れない


俺「はぁ……」

物憂げな表情をして、鏡を見て、強烈な違和感に襲われる


気にしてもしょうがない、だけど……だけどさ……


収まりの付かない感情に振り回される


やっぱり、このままじゃダメだ

早く、早く薬が完成するのを願う

モヤモヤした気持ちは風呂に入っても晴れる事はなく

身体はキレイになったけど、心は依然燻っていた


風呂から出てリビングへ行くと、妹が俺を待っていた


妹「おにー、大丈夫?」


俺「ん?ぜんぜん問題ないぞ?」


妹「そう?でも……、ううん。大丈夫ならいい」


俺「それで、何してんだ?」


妹「何って、おにーを待ってたんだよ」

あ~、風呂の順番か


俺「風呂なら次は父さんが入ると思うぞ」


妹「もう!違うよ……おにー、説明してくれるんだよね?」

不安そうに聞いてくるが、不安だけじゃない気もする


俺「ああ、時間大丈夫なら今から説明するか?」


妹「うん!」

そう言って妹はリビングを出て


妹「部屋行こ」

手を差し伸べてくる

いつもと違う反応……やっぱり、俺見た目がこんなんになったせいだよな……


俺「ああ」

手は取らない

だって兄妹で手を取り合って階段を上るのって、変だろ?


妹「もう……」


階段を上がり妹の部屋へ向かう

妹に続いて入ろうとすると


妹「ちょっと、待ってて」

ドアの前で止められ、閉め出される


俺「おいおい……」

中で何してんだよ……

ドタドタと何か物音がしてるし、何暴れてんだ?

少しして、物音が聞こえなくなった


妹「お待たせ」


俺「何してたんだ?」


妹「別に、何でもないよ?ほら、早く入ってよ」

どうせ散らかってて片付けでもしてたんだろうけど……

普段はそんなに散らかさないやつなんだけどな

まぁ、いっか

許可は出たんだ、入ろう

妹の部屋に入り、まず気になったのは……匂いだ

なんか、花の香りがする?

次に目についたのは、ベッドだ。しっかり整えられていた

軽く布団の位置を直すくらいは、いつもやっていたと思うけど……こんなきっちりキレイに整えてあるのは初めて見た


妹「おにー?」

おっと、観察してたから怪しまれたか


俺「いや、なんでもないよ。きちんと片付いてるなって」


妹「そ、そりゃぁ、私だって女の子だもん……」

女子だからって片付けをするとは限らないんじゃないか?

片付けに男女なんて関係ないだろ?


俺「それで、何から話そうか」

どっから話そうかなぁ……


妹「まず、その見た目はどうしたの?」

おお、妹から聞いてくれるのか

助かるな


俺「引っ越し先のアパートの大家さんが作った薬を注射されたんだ。で、気が付いたらこうなってた」


妹「そんな薬があったの⁉」


俺「あ~……あったんじゃなくて、できたんだ。俺の細胞かなんか使って」

ぶっちゃけ薬について聞かれても、俺にもよく分かってないんだよな


妹「大家さん、なんでそんな薬作れたの?」


俺「あ~、えっと、元研究者なんだってさ」

父さんの元同僚とか、父さんが研究所の所長だのは今は言わない方がいいよな


妹「ふ~ん。その人、名前持ちになりたかったのかな?」


俺「どうだろうな。今度四季島に聞いてみるか」

アイツは警察には引き渡されていない

引き渡した場合のデメリットが深刻みたいだ

四季島曰く

薬について口を割らせる必要がある

俺が名前持ち化した事を公にしたくない

とか何かいくつか理由を言ってたな

まぁ、四季島の親父さんが管理するって言ってたし大丈夫だろ


妹「あと、元に戻るの?」

やっぱ気になるよな


俺「そうだな。治す薬が完成すれば、名前無しmobに戻れるってさ。だから、こんな見た目になっちゃったけど少し辛抱してくれな?」

鏡を見て感じた違和感を、俺を見ると常に感じるだろう妹には負担をかけるな


妹「ううん。大丈夫だよ。どんな見た目でもおにーはおにーだもん」

あ、そういえば……


俺「なんで一発で俺だって分かったんだ?父さんも母さんも分かんなかったのに」


妹「え⁉だって……おにーは、おにーだもん!」

なんだそれ?


俺「それ、理由になってなくないか?」

意味わからん!


妹「もう!そんな事はどーでもいいの!えっと、えっと……あ!学校はどうするの?」

急に話題変えたな……まぁ、いいけど


俺「行くぞ」


妹「そっか……大丈夫なの?」


俺「大丈夫だと思うぞ。南城さんと堀北さん、それに四季島も何かあったら助けてくれるって言ってくれてるからな」

安心して学校生活を送れる


妹「何かあっても、じゃなくて。何もない様にはできないの?」


俺「さすがにそれは、無理じゃないか?」

見た目が変わる前だって、何もない日はなかったし


妹「心配だなぁ」

そんなに心配しなくても大丈夫だって言葉で言っても、納得できないよな……

久しぶりに頭を撫でてやる


妹「え?な、なに?」

そんな驚くなって


俺「心配かけてごめんな。でも、大丈夫だからお前はお前のやるべき事をしっかりやるんだぞ?」


妹「やるべき事……?」

おいおい、大丈夫か?


俺「勉強、ちゃんとやってるか?」


妹「や、やってるよ?」

あ……、やってないなコイツ


俺「俺のせいで勉強に手が付かない、だから志望校に落ちました~なんてやめてくれよ?」

もし、そんな事になったら……

この家から俺追い出されちまうからな


妹「だ、大丈夫だもん!……多分」

最後に多分を付けられると、一気に不安になるなぁ


俺「こりゃ、また引っ越し先探さないとダメかなぁ」

そうポンポン引っ越しなんてしたくないんだけど……


妹「ヤダ!それはダメ!おにーは出てってちゃダメだからね!」

そうは言ってもなぁ


妹「そんなに私の勉強が心配なら、毎日教えに来てくれれば……」

最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、理解した


俺「あ~、その手があったか。よし、これから毎日一緒に勉強するぞ」

これで、万事解決だな


妹「えっ⁉いいよ!おにーだって勉強しなきゃだし!」


俺「だから、一緒に勉強するんだよ。お互いがサボらないように監視してれば、ちゃんと勉強できるだろ?」


妹「え、おにーを毎日……でもでも、う~ん……あ、そうだ!堀北先輩にお願いしよ?堀北先輩教えるの上手いし!」


俺「それはダメだ!!」

つい大声で反対してしまった

でも……そんな事したら、妹まで……


妹「え?ご、ごめんなさい……」

なんで怒鳴られたか分からないよな……


俺「いや、俺の方こそごめんな。でも、堀北さん達には頼らない方がいいんだ」

名前持ち化の可能性があるうちは……妹には近寄らせたくない


妹「う、うん。そっか。じゃ、じゃあ、えっと……おにーと一緒に勉強する」


俺「ああ、そうしてくれ。俺一人だと、サボりそうだからしっかり見ててくれよな?」


妹「う、うん!見てる!ずっと見てるよ!」

おい待て


俺「いや、お前はお前の勉強しろよ」

本末転倒だろ……


妹「わ、私はノルマなんてすぐに終わっちゃうから!終わったらずっとおにーを見て」

何?

煽ってんの?


俺「そうかそうか、ならノルマを増やそうか。そしたらお互いみっちり勉強できるしな」


妹「え……それは、ダメだよ。うん、無理に勉強しても身に着かないっていうし」

お前……


俺「まぁ、いいや。それじゃ明日から一緒に勉強すんぞ」


妹「うん!おにー、寄り道しちゃダメだからね?まっすぐ帰ってきてね?」

俺は子供か⁉


俺「大丈夫だよ。治るまで大人しく過ごすつもりだからな。下手に寄り道して、変なやつに絡まれるのはイヤだからな」

もう、そういうイベントは懲り懲りだ


妹「うん」


俺「もう、聞きたい事はないな?」


妹「えっと、今のところは無いかな」


俺「よし、それじゃ俺は部屋行くぞ」


妹「うん。おやすみなさい」


俺「ああ、おやすみ」


妹の部屋を出て自分の部屋に入る……

そこで、重要な事に気がついた


制服とか、向こうに置いてきちゃってるじゃん……

明日、何着て行けばいいんだ⁉

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