第132話 帰宅

父「ただいまー」

声をかけると母さんがすぐに顔を出した


母「お帰りなさい。あの子は?」


俺「えっと……」

ただいまって言っていいのかな?

父さんだって俺だと気付かなかったのに……


母「え?なん、で……?なんでアナタが……楚良そらくん⁉」

ソラクン?

え?誰?


母「そんなわけ……だってアナタは……あの日……」

混乱してる母さんがヘタリと廊下に座り込む


父「母さん⁉」

慌てた父さんが、母さんに駆け寄る


母「お父さん、何で楚良くんが……⁉」


父「“そら”というのは、天堂楚良のことかい?」


母「そうよ!なんで彼がココにいるの⁉」


父「いや、良く見るんだ!あれは楚良くんではない!」


母「え……」

まじまじと俺を観察する


俺「……母さん」

やっぱり、気づけないよね……


母「うそ……なんで……?だって時間はまだあるって……」


俺「色々あってさ、中身はそのままなんだけど……ちょっとイメチェンしちゃった」


母「もう、何がイメチェンよ!どういう事か、ちゃんと説明しなさいよ?」


俺「うん。もちろんするよ」

母さんに抱きしめられる

そんな所を様子を見に下りてきた妹に目撃される


妹「え!?おにー、なの……?」

な、なんと!?

両親ですら認識できなかったのに、妹は俺がわかるのか⁉


俺「あ~、ただいま」


妹「う、うん。おかえり……でも、なんで?」


俺「……色々あったんだ」


妹「ふ~ん。ちゃんと説明してくれるよね?」


俺「あ~、まぁ、後でな」

母さんと一緒に説明するわけにはいかないからな……

名前持ち化の事は秘密にしておかないとダメだし


妹「もうっ、絶対だよ?」


俺「おう、絶対説明するからな。後で部屋行っていいか?」


妹「え……うん、いいよ」

そのまま妹は部屋に帰っていったけど、ただ様子を見に下りてきただけだったのか?


俺「母さん、そろそろ離してよ」


母「そうね……ごめんね」

やっと離れてくれた母さんは、まだ落ち着かないのかソワソワしてる


父「母さん、ごめんな。無事に連れ帰るなんて言って……このざまだ」


母「ちゃんと生きて帰ってきてくれたわ。それでいいのよ……二人ともお腹空いてない?」


俺「あ、空いてる!検査ばっかでまともにお昼食べてないんだよね」

タイミング良くお腹がグ~~~と鳴る


母「ふふ。それじゃすぐに用意するわね」


父「ありがとう、母さん」


母「ご飯食べながらでいいから、話し聞かせてね」


俺「うん」

父「そうだな」


母さんはキッチンに行き料理の準備を開始した

妹は部屋に戻ったきり、下りてきていない

飯食べないのかな?


まぁ、そんな事より飯だ!飯!

なんだかんだで、朝食ったサンドウィッチ以降ぜんぜん食べてないからな

水分で誤魔化すのも限界がある


しばらくして、待ちに待ったご飯がやってくる

母さんが持ってきたのは、皿うどんだった

バリバリの麺に野菜たっぷりのあんかけが絡んで少し柔らかくなる

箸で野菜と麺を一緒に掴み、口に入れる

麺の香ばしさと野菜のシャキシャキ感、トロトロのあんかけ

全てが口の中で混ざり合う


俺「美味しいよ」


母「ありがと」


父「うん。美味いな」


母「よかったわ」


あっという間に半分ほど食べてしまう


母「それで、なんで楚良くんにそっくりになったの?」

楚良くん楚良くんって、そんなに似てんのかね?


父「そうだな。そろそろ説明しないとな……犯人はやっぱりあいつだったよ」


母「前の同僚の?」


父「ああ。あいつが作った薬を投与されて、見た目が名前持ちに変化したみたいだ。ただ、それ以外に異常はないから安心して大丈夫だ」

頷いて元気だとアピールしておく


母「そう……もしかして、ずっとこのままなの?」


父「今、治す薬を研究中だ。それが完成すれば、元に戻れる」

自信たっぷりに断言してくれる父さん、頼りになるな……


母「戻れるのね。よかったわ」

そして何も疑問に思わない母さん

父さんの事信頼してるんだな


父「それで、私は研究所の方へ戻らなければならなくなった」

言い出しずらそうに、仕事に戻る話をする


母「え?」


父「四季島グループと共同開発する約束を取り付けたんだ。資金面、人材、機材の全てにおいてバックアップをしてくれるそうだよ」

ほんと四季島様様だよ


母「そう……体に気を付けて頑張ってね。きっとアナタなら完成させられるわ」


父「もちろんだとも。私が全力で取り組めばすぐにでも薬は完成するさ。ただ……」


母「あの子のこと、心配?」


父「ああ。傍に居てやれない、不甲斐なさで心が折れてしまいそうだよ」

……父さん


母「大丈夫よ。あの子はしっかり者なのよ?自分の娘を


父「そう、だな」

しんみりした空気を母さんが、パンッ!と手を叩き切り替える


母「さ、二人とも順番にお風呂入って疲れを癒してきて」


俺「父さん、先入りなよ」

心配かけたし、凄く疲れてそうだもん


父「私は後でいいよ。それよりお前昨日風呂入ってないだろ?」

あ、そういえば……


俺「もしかして、臭う?」

いや、俺には分かんないんだけど……


父「隣にいると、少しだけな」

マジか⁉


俺「ごめん、父さん。お風呂先入るね」

一刻も早く汗を洗い流さないと!


父「ああ、そうしなさい」


俺は風呂場に直行した

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