第93話 文芸部幽霊部員

家庭科室を後にし、文芸部の部室へ向かう

廊下を歩いていると、突然声をかけられた


「あ、あなた!さっきはよくも騙してくれたわね⁉」


俺「え?なんのこと?」

というか誰⁉


「あのクッキー、あなたが作ったとか言ってたけど!よくよく考えたら男子であるあなたがあんなクッキー作れるわけないじゃない!!」

酷い偏見だ⁉⁉

というか、この言い掛かり系女子

クッキー、皿ごと持って行こうとして混乱を巻き起こしたやつじゃん!


俺「いや、俺が作ったもんだよ?偏見はよくないよ?」

幾ら仁科さんの信者ファンだからって、そんな言い掛かりは良くない


「うっさい!あんたのせいでヒドイ目に遭ったんだから!!」

それは自己責任でしょ⁉


俺「自業自得だと思うけど?今、急いでるから用無いならもう行くよ?」

早く部室へ顔出しに行かないと


「あ、ちょっ!待ちなさい!」

待ちませ~ん


俺「部活行くんだよ」

邪魔!邪魔!


「部活ぅ~?あんた家庭科部じゃないの⁉」

ちげーよ!

なんで家庭科部だと思ったんだよ!


俺「俺は文芸部だよ。もういいだろ?」

満足したって言ってくれ


「文…芸…部?え?本気で言ってる?」

何それ⁉

俺が文芸部じゃおかしいか!?

んんん?


俺「文句あんのかよ?」

赤の他人のくせに!


「文句って、そうじゃなくて…文芸部ってあんた一人でしょ?」

なんでそんな決め付けをする⁉


俺「いや、少なくとももう一人女子部員がいたぞ?自称幽霊部員だけど」

まぁ、俺も幽霊部員なんだけどね


「女子?ドコの誰よ?何年何組の誰?」

なんでそんな事答えなくちゃいけないんだよ


俺「知らないよ。なんせ会って会話したのは1回だけだし、どうせ幽霊部員なんだし関係ないだろ?」


「そうだけど……でも、あの部室は気を付けた方がいい」


俺「気を付けろって、老朽化とかか?」

けっこうボロかったしな


「違う!えーっと、なんて言ったらいいかな……あそこってらしいのよ」

出る?虫か?

まぁ、屋外から幾らでも入ってこれそうだよな


俺「そんなもんで怖がるのは女子くらいだろ」

さすがにスズメバチがいたら俺も逃げるけど

所謂“G”とかは触れなければ害はないし、叩き潰せば解決するし


「いや、寧ろ男性の先生方の方が怖がって近付かないのよ」

大の大人がGに怯えてるってか?

それこそデマだろ


俺「そんな訳ないだろ……」


「憑かれたりしたら私に言いなさい、力を貸してあげるわ」

疲れたら力を貸してくれんの?

もしかして力自慢系の女子なの?


俺「お、おう。そん時はよろしく」

力自慢なら、あのクッキーの量も納得だな


「私の家、学校の近所の神社だから」

神社が実家なの?

なんで家を俺に教えたの?

疲れたら家まで呼びに来いって?

余計疲れると思うけど……


「それじゃ、くれぐれも気をつけなさい」

それだけ言って反対側へ歩いて行っちゃったよ


ったく……変なやつに絡まれたな……



さて、気を取り直して行きますか!













文芸部の部室へ到着すると、既に鍵は開いていた

ガチャ、キィー

という音と共に入室する


俺「失礼しまーす」

なんか随分と顔出してない気がするから、気まずいな


部員「あ!やっと来てくれた!待ってたよー!」

自称幽霊部員の女子が出迎えてくれた


俺「ごめん。最近メチャクチャ忙しくてさ」


部員「そう、なんだ……」


俺「今日も顔だけ出したら、戻らないといけないんだ」

顔の前で手を合わせてゴメンのポーズをとる


部員「ふ~ん……君、なんか楽しそうだね」

楽しそう?そうか?


俺「特別楽しいってわけじゃないけど」


部員「そう?今日も凄く楽しそうだったよね?私、ズット見テタンダヨ?」

なんだ?

なんか一瞬顔が見えたような……

気のせいか


俺「見てたって、どういう」


部員「アノ子トハ、ドウイウ関係ナノ?エプロンノ似合ウアノ子ハ誰?」

ん!?

どうしたんだ⁉

なんか様子がおかしい⁉⁉


俺「エプロン付けてたのは仁科さんって言って、友達……かな」

友達って言っていいんだよね?


部員「トモ、ダチ……ふ~ん、そっかぁ、友達かぁ」

あれ?戻っ、た?

さっきの変な雰囲気なんだったんだ……?


俺「それじゃ、もう行くね。あんまり待たせるのも悪いからさ」

何か、ちょっとだけ……怖い


部員「うん。でも、今度はもっとお話ししたいな」


俺「そうだね。今度はゆっくりしにくるよ」


部員「待ってるね」


文芸部を出て来た道を戻る








家庭科室に着くと仁科さんが片付けを一人でやっていた


仁科「あ、おかえり~」


俺「ただいま。一人で片付けしてたの?」

言ってくれれば手伝ったのに


仁科「うん。いつも片付けは一人だからね~。それで、そっちはもういいの?」


俺「ああ、うん。あんまり顔出さなかったから、もっと来てくれって言われたけどね」


仁科「そうなんだ」


俺「そんな事より、何か手伝うことある?」


仁科「あ、ううん。大丈夫!もう終わりだから!もう少しだけ待っててね」

そうか、もう終わりか


俺「了解。片付け手伝わなくてゴメン」


仁科「いいの!いいの!片付けも慣れてるからね!はい!終わり!」


俺「この後はどうするの?」


仁科「戸締りして、先生に終わったよーって挨拶して、ココの鍵を返すだけだよ」

けっこう軽いノリでいいのか……

てっきりレポート提出とかあるのかと思った


俺「それじゃ、行こっか」


仁科「うん!」






連れ立って職員室へ行き、家庭科担当のアノ先生に鍵を返す


先生「はい。確かに返却確認しました。……君、今度は仁科さんなの?」


俺「なんの事ですか」


先生「いいえ、なんでもないわ」


俺「それじゃ、帰ります」


先生「はい。さようなら」


仁科「先生、明日は部活よろしくね」


先生「はい。仁科さん、学生である事を忘れず、節度を持った行動を心がけてくださいね?間違っても、不純異性交遊なんてしないように、いいですね?」


仁科「し、しませんよっ!!」


先生「来年にはコンテストの出場もあるんですから、体には気を付けなさい」


仁科「わかってますよぅ」


先生「私からは以上です。気を付けて帰りなさい」


仁科「は~い。じゃ、帰ろっか!」


俺「そうだな。失礼しました~」

仁科「しました~」




さて、帰ったら……夕飯まで寝ようかな……



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