第86話 家庭科室は戦場に変わる

学校へ着くと、下駄箱の近くで仁科さんが仁王立ちで待ち構えていた


仁科「おはよう!今日は私の番だよね!」

朝から元気だなぁ……


堀北「そうだけど、変な事したら私も千秋も許さないからね?」

なんか堀北さんはすごんでるし……この二人って仲悪い、のか?


仁科「しないよ、そんな事しても彼は手に入らないって分かったからね」

前に会った時より、大人しい……?


堀北「そう。……それじゃ、また後でね?仁科さんに変なことされたら私に言ってね?」

堀北さんは俺を置いて校舎の中に入って行く

え?


仁科「それじゃ、ちょっと付き合ってくれるかな?君を獲得する為に色々準備してたんだから!」

獲得って……俺は景品か何かだと思ってやしませんか⁉


仁科「ふふ。私の全力で、君を夢中にさせてア・ゲ・ル」

なんかゾクゾクってきたっ……

悪寒?寒気?

何か嫌な予感がするんだけど……


仁科「まずは家庭科室に来て」

家庭科室?

なんで朝から?


俺「授業の準備とかあるんだけど」


仁科「それは問題無いよ。既に手は打ってあるから」

手を打ったって何したの⁉


仁科「今日の君は出席自由、好きな授業に出れて嫌な授業は出なくていいの!」

何それ⁉

出席自由って何⁉

聞いた事ないよ、そんなの⁉


仁科「今日一日、君は私の助手として家庭科室でお菓子作りを手伝うことになってるの。まぁ助手ってのは建前なんだけど」

なんで俺が手伝わないといけないんだ⁉


仁科「そういう訳だから、行きましょ?」

手を引かれ、連れて行かれた先は宣言通り家庭科室






俺「えっと……、俺は何すればいいの?」

突然連れて来られて、未だ状況を理解できてないんだが……


仁科「そんなに身構えなくていいよ。一緒にお菓子作ろうってだけだよ?」

一緒にお菓子作る為に俺は連れてこられたのか……


仁科「ま、私の権限の範囲内なら自由に作れるから楽しもうよ」

権限の範囲内……?


俺「家庭科部の部長ってそんなに大きな権限持ってるの……?」

聞いた事ないぞ、そんなの


仁科「あ~、そっか。君は知らないんだね。私のもう一つの顔」

もう一つの顔!?

裏の顔って事⁉

もしかしてこの学校を裏から操るような、黒幕だったりするのか⁉


仁科「何を隠そう、私はパティシエの卵なのよ!」

パティシエの卵……?


仁科「卒業したら、パリに行って一流のパティシエになるの!」

一流のパティシエ……


俺「将来が決まってるって、凄いな」

他の選択肢は無いんだろうな……


仁科「そんな訳で、“私がココを卒業した”って実績が欲しくて色々と優遇してくれてるんだよね~」

なるほど……特待生的な感じかな?


仁科「基本は私一人で作るんだけど、二人までなら助手も認められてるんだよ」

そのうちの一人を俺にしたってことか


仁科「定期的に家庭科室ココを貸し切って、実力を披露する必要があるのがちょっと面倒なんだけどね」

まぁ、そりゃそうか

運動部とかと違って大きな大会とか聞かないしな


仁科「製菓の大会とか出れば手っ取り早いんだけどね。私大会とか興味ないから断ったんだよね。そしたら、何かパティシエの凄い人が食べて判断するとかいう話しになっちゃってね~」

仁科さんって……実は凄い人だったのか

凄いヤバイ人だと思ってたけど、違ったんだな


俺「それで、そんな未来の一流パティシエが俺なんかを助手にして何作るんだ?先に言っておくけど、俺はそんな難しいモノ作れないからね?」


仁科「大丈夫!今日は提出用は作らないから!今日は好きな物作る日なの!」

そんなのもアリなんだな……


俺「それじゃ少しは気楽にできるかな」


仁科「大丈夫大丈夫!因みに今日作ったモノは有志の試食担当に食べてもらうからね!」

有志の試食担当?


仁科「総勢100人くらいいるから、作り過ぎの心配はゼロだよ!さぁ、ガンガン作るよ!」

え……?100人分作るの⁉

二人で⁉


俺「流石に手が足りないんじゃ」


仁科「心配ご無用!私たち二人でなら余裕で作れるよ!」

余裕?


俺「い…一応、頑張るよ?」


仁科「君ってクッキー作るの得意じゃん?だからまずはクッキーを4種類くらい作ってくれるかな?量は任せるから!」

よ、4種類!?

いきなりとんでもないオーダーが入ったな……


仁科「出来るよね?」

出来ること前提かよ……⁉

4種類……4種類、かぁ

何が良いだろうか

とりあえず、薄力粉とバターとグラニュー糖は必須だから用意してっと……


俺「チョコチップと、スノーボールと、アイスボックス、あとは……」

薄力粉を200g計ってふるいにかけながら考える

何が出来るだろうか……


仁科「ジャムサンドは作れる?」

ジャムサンドクッキーかぁ……

アレはなぁ


俺「出来なくはないけど……ジャムがなぁ」

ジャム作りに失敗した苦い思い出があるんだよなぁ


仁科「え?ジャムから作るつもりなの⁉市販のジャムでいいんだよ⁉少し手を加えれば出来るからね⁉」

な、なんだと⁉⁉


俺「マジで?」

専用に用意しなくていいのか⁉


仁科「そうだよ⁉ジャムなら私も使うからコッチで用意するよ!それなら問題無く出来る?」

ジャム作りさえなければ、ただのクッキーと同じだ


俺「それなら出来ると思う」

よし、先ずはアイスボックスから生地作るかな

バターを練ってグラニュー糖と合わせる!!


仁科「それじゃ、クッキー4種頼んだよ!」

なんか威勢がいいなぁ

仁科さん……水を得た魚って感じがする


俺「了解!」

なんか俺も少し楽しいかも……

普段通りやってたんじゃ、多分間に合わない

なら、どうするか……工夫するしかないよな!

同じ手順は一気に終わらせるとか、オーブンに入れる順番とか


よし、あんまり得意じゃないけど

脳内マルチタスク処理に挑戦してみようか!

パズルゲームみたいに組み合わせ、アクションゲームみたいに動く!!

タイムリミットもあるし、縛りプレイみたいなヒリヒリ感もあるし


この追われる感じ……

なんか久々にワクワクするな!

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