第84話 ドキドキの長い夜

悶々としつつも何とか寝ようとベッドに潜る


布団を頭まで被り目を閉じる


明日は……木曜だったかな

なんか最近曜日の感覚もおかしくなってきてるな

只のmobだった頃より一日が数倍にも感じる


はぁ……一週間が長い……


ベッドで物思いに耽っていると、だんだん眠気が強くなってきた……

なんだかんだで、疲れてたのかな


いつかこんな状態にも慣れちゃったりするんだろうか……




ウトウトして、段々意識が遠退く


あと少しで完全に眠りにつくというタイミングで、カチャリとドアが開く音がする

そーっと、忍び足で侵入してきた誰かは一旦部屋の中程で立ち止まる


どうせ、また妹だろう

布団に入ってきたら蹴りだしてやるからな……


息を殺し待ち受ける



あれ?来ないな……

そのまま部屋に帰ってくれないかな


残念なことに、侵入者は俺の寝てるベッドの脇まで近づいてきた


「寝てる、わね」

ん?……わね?


「思ったより早寝で助かるわ」

あれ……?

妹じゃ、ない⁉

え⁉なんで⁉この声って堀北さん⁉


堀北「でもほんと、なんで寝れちゃうのかしらね」

いや、起きてまーす!

コレ、起きた方が良いよね?


堀北「君を大好きな女の子が、一つ屋根の下にいるのに……どうしてこうも呑気にしてられるのかしら」

え?何か怒ってる?


堀北「ちょっとくらい緊張してくれてもいいのに……私ってそんなに魅力ないのかしらね?自信なくしちゃうわ……」

今、めちゃくちゃ緊張してます……!

タイミング逃して、実質狸寝入り状態なもんで!!


堀北「きっと…今、君を抱きしめても驚くなんでしょうね」

驚くに決まってるでしょ⁉


堀北「私や千秋にデレデレしない君は、本当に名前無しなのかしらね」

俺は何処にでもいる名前無しmobだよ⁉

デレデレしないのは、まぁ、堀北さん達は名前持ちだからであって

ん?あれ?

もしかして、mobって名前持ちデレデレするのが普通なの?

でもBやDはキョドってたし……


堀北「ほんと……どうして貴方のこと好きになっちゃったのかしらね」

それは俺が聞きたいんだけど⁉


堀北「最初はあんなに大っ嫌いだったのに……」

え⁉

俺嫌われてたの⁉

俺、堀北さんに何かした⁉

まったく心当たりないんだけど⁉


堀北「千秋と喧嘩する事になったのは君のせいなんだから」

え⁉

俺が二人の喧嘩の原因⁉


堀北「貴方が千秋の心を盗ったりしたから、千秋はどんどん変わっていっちゃうし、私から離れていっちゃうし……あの時は寂しかったわ」

え?

どういうこと?


堀北「でも…………私を独りぼっちにした酷い貴方を、こんなにも好きになるなんて……我ながら不思議だわ」

独りぼっちって……昼間に言ってた?

南城さんと喧嘩したのもそのせいって事は……

つまり……?

南城さんが俺にこ、恋して?堀北さんをほったらかしにしたってこと?

そのせいで南城さんと堀北さんが一時的に距離をとって?

堀北さんは保健室でボッチ飯してたってこと?

え?それ俺のせい?違うよね?ね?


堀北「千秋と同じように君を大好きになって、きっと私も変わったのね……。変わる事が嫌いだったけど、今は変わるのも良いってそう思えるようになったわ」

変わるのは……俺も好きじゃないから、分かる気がする

でも俺は、今も変わるのは好きになれない

きっと怖いんだ

変われば何か大切なモノを失う気がするから


堀北「あなたのおかげよ。起きてたら途中で恥ずかしくて言えないから、寝てる今だから言える…………私に恋を教えてくれて、ありがとうね」

……っ⁉⁉


堀北「寝てるって分かってても、やっぱり恥ずかしいわねっ……。起きてる時にこんな事話したら……恥ずかしさで死んじゃいそう……」

言えない……

ずっと起きてて、全部聞いてたなんて……


堀北「さ、私も寝ようかしら……ふふ、思い付いちゃった」

な、なんだ⁉


ガサゴソと布団の中に入ってきてる⁉

えっ⁉はっ⁉

な、何してんの⁉


堀北「今だけ、今だけは……いつもより大胆にさせて。私だって、千秋に負けないくらい貴方の事……大好きなんだから、ね」

俺に寄り添うかたちで堀北さんが横になる


い、今更起きてるなんて言えないし……

コレ……どーすんだよ……⁉

妹に…いや、母さんにでも見つかったら騒ぎになるぞ


ピッタリくっついてくる堀北さんの体温のぬくもりや石鹸の香りが、俺を襲う

ドクドクドクドク

心臓の音が煩いくらい体内に響く

硬直したまま指一本動かすことができない


起きてるのがバレたらどうしよう……

バレませんようにバレませんようにバレませんように……


こ、こんな状況で寝れるかぁー!!

くっついてる腕に柔らかな感触がする⁉

ま、まさか……これは胸!?

あのパットが堀北さんのだって知った今

意識せずにいられる男子がいるだろうか、いやいない!(反語)


これ……徹夜コースだ

一晩中、堀北さんの存在を意識して過ごすのか⁉

そんな……そんなの……




堀北さんは既に寝息を立ててるし……⁉


一応俺の事好きなんだよね⁉

好きな男子の隣ですぐに眠れるもんなの⁉

俺のこと、呑気だとか言ってなかった⁉

堀北さんはいいの⁉


そーっと横を向いて、薄目を開けて堀北さんの寝顔を見る

まるで俺が不埒なことを絶対しないって思ってるのか

ってくらいに安心して眠ってる

いや、しないけどね?しないけどさ!?

女子として危機意識とか、そういうのもっとしっかり持った方がいいと思うよ⁉⁉


ドキドキ、悶々とした状態だと体感時間ってめっちゃ長いんだな……

時間はゆっくりと進むが、やがては朝日が昇る

必ず朝は来る!!



朝を迎えた時、俺がどうなってるか分からないけどな……

確実に言えるのは、寝不足が確定してるって事だ

|||orz

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