第34話 遊園地 その5

堀北「それはね、名前持ちの身に何かあった時の為にいる補欠要員よ」


補欠要員?

なんでそんなモノが必要なんだ?

名前持ちの身に何かあった時って、そんな事あるわけないよな?


堀北「名前持ちの中にはね、ある日突然姿を消してしまう人がいるの」

え?姿を消すって……死んだんじゃ


堀北「ま、所謂神隠しよ」


か、神隠し⁉

そんな事ありえるのか⁉


堀北「そして、殆どの人は帰ってこないの」


か、帰ってこないって……

それってやっぱり死んでるんじゃ⁉


堀北「でも、中には帰ってきた人もいるの。その人達曰く、異世界に召喚されたって」


い、異世界⁉召喚⁉なんだそれ⁉


堀北「実際はどうか知らないけど、姿を消す人が居るのは本当よ」


南城「それで、補欠……」


堀北「そっ、欠けた人員の補充の為にいるの。だからスペア。本物の名前持ちではないの」


南城「な、なんでそんな事知ってるの?」


堀北「親戚にいるのよ。お兄さんが行方不明になった子がね。その子から聞いたの」


南城「そ、そうなんだ……」


堀北「それで?スペアのアナタ達、何か用かしら?」


鬼島「スペアスペアってうるせぇ!俺は選ばれたんだ!世界に!」


紫桃「お、落ち着いけって!」


鬼島「予定変更だ、このアマは殺す」


紫桃「さ、さすがに名前持ちを殺したらヤバイって!」


鬼島「コイツを殺せば、きっとオレは名前を手に入れられる!」


紫桃「そんなわけないじゃないっすか!落ち着けって!」


鬼島「殺す殺す殺す殺す殺す!」


拳を固く握り締めて振りかぶる


くそっ

身体が動かない……

これじゃ、堀北さんが⁉


南城「春香⁉」


フッと……笑った?

なんで⁉今にも殴られそうなのに……⁉


しかし、鬼島の拳は振り下ろされることはなかった


鬼島が振り上げた拳を背後から掴んで止めている人がいた⁉


だ、誰が⁉


「よう、鬼島ぁ?元気してたかぁ?ん?」


鬼島「あ、アンタは」


紫桃「不味いですって!早く逃げますよ!」


鬼島「ぬ、抜けねぇ……」

太い鬼島の腕がビクともしない⁉


「そんなに力んでもぉ、無駄だぜぇ?」


鬼島「くそっがぁーーー!」

力いっぱい振りほどこうとするが、その拘束は決して緩まない


「ははっ、少~しは強くなったと思ったんだけど……まだまだだねぇ」


鬼島「くそ、何で抜けねぇんだ」


紫桃「お、俺は先に逃げる!じゃあな!」


鬼島「あ、てめぇ!」


紫桃と名乗ったヤツは一目散に逃げていった


「なぁ、お前さ。いい加減、諦めろよ」


鬼島「誰が諦めるか!」


「なら、そろそろ〆ないといけないなぁ」


鬼島「やれるモンならやってみやが、ア゛ァ!」


「痛いかぁ?よかったなぁ。生きてるってことだなぁ」



俺は痛みが一先ず治まったところで堀北さんに聞いてみる


俺「堀北さん、アレ誰か知ってる?」


堀北「ええ、一応は」


南城「誰なの?」


堀北「さっき言ったでしょ?お兄さんが神隠しに合った子の話」


南城「うん」


堀北「彼がそのお兄さんよ」


南城「え⁉でも、帰ってこないって」


堀北「彼は生還したの。異世界からね」


南城「でも、そんな都合良く居合わせてくれたの?ならなんで!何でもっと早く来てくれなかったの⁉そしたら、彼がこんなに傷付かづにすんだのに⁉」


堀北「それは……」


「はは、駆けつけるのが遅くなったみただな。ごめんごめん」


南城「あ、いや、えっと……」


堀北「今さっき来てくれたのよ、えっと瞬間移動?で」


「違うよ、春香ちゃん。空間転移テレポートで来たんだよ」


て、テレポート?


鬼島「ふざけんなインチキ野郎が!」


「インチキ野郎って、酷いじゃないかぁ。僕にはちゃ~んと神裂かみさき 天徒あまとって名前があるんだからぁ。ね?」


イケメンとまではいかないけど、整った顔立ちの彼

堀北さんの親戚のお兄さんはしっかりと名乗りを上げた


神裂「もしかしてぇ、苗字を手に入れた程度で勝てると思ってるのぉ?」


鬼島「くそ!!くそくそくそ!!」


神裂「ははは!無駄無駄ぁ!」


堀北「なんか異世界から帰ってきたら、変になってたってその子が言ってたけど……」

喋り方変だなって思ってはいたけど、そんな原因があったのか……


神裂「こいつ、連れてっていい?」


堀北「お願いするわ」


神裂「じゃ、またね!」

そう言うと神裂さんは鬼島を掴んだまま目の前から忽然と消えた


南城「え⁉え⁉⁉」


俺「き、消えた……⁉」


堀北「神裂さんね、異世界に行って超能力?みたいなモノ手に入れたんですって」


マジかぁ~

そんなの小説の世界だけだと思ってたよ


堀北「それより、大丈夫なの?」


俺「なんとか、ね」

地面に着いた所を叩いて立ち上がる

うん、大丈夫かな

多分アザにはなってるだろうけど……


堀北「そう、よかったわ」


南城「ご、ごめんねっ……また私のせいで……」


俺「気にしないで、南城さん」


南城「でもっ」


俺「今回はさ、俺自身の意思だから」


南城「意思……」


俺「そう。俺自身がって思ったから、そうしただけだよ。だから気にしないで」


南城「でもっ、でもっ!」


俺「大丈夫だから!ほら!」

その場で軽く跳ねてみせる

うっ、痛い……

でも、顔には出ないから大丈夫


南城「ケガがなくても……痛かったでしょ」

そりゃ、ね


俺「ま、痛かったけど……この通りから」

そう、俺は生きてる

だから大丈夫

スペア?だとかいう名前持ち擬きと対峙して生き残った

名前無しmobの俺にとっては僥倖だろ?


堀北「でも、私も心配よ。本当に大丈夫?」


俺「大丈夫だよ」


堀北「念の為、医務室行って診てもらう?」


南城「あ!それがいいよ!そうしよ!」


俺「そんな大げさな」

見られたらアザがあるのバレちゃうからな……


南城「ダメ!絶対診てもらって!春香!場所は?」


堀北「えぇと、アッチよ!ゲートの方!」

看板の地図で医務室の場所をすぐに見つけた堀北さんが指をさす


南城「行くよ!」


堀北「ええ」


俺「う、うん……」







医務室へゆっくり歩いて向かう

どうやら俺を気遣ってくれてるみたいだ



医務室へ到着し南城さんが説明し、堀北さんが補足する


常駐の医師がすぐに診てくれることになって中へ案内される


予想通り一緒に入ってこようとする南城さんと堀北さん


俺「二人は外で待ってて、くれないかな?」


南城「でも」


医師「君たちは外で待ってなさい。私がしっかり診察するから」


堀北「はい、わかりました……千秋」


南城「う、うん」


良かったぁ……先生ナイス!



二人と分かれ診察室の中へ


医師「あの子から殴られたって聞いたけど」


俺「はい。お腹に二発ほど」


医師「じゃ、服捲ってみせて」


俺「はい」

服を捲ると


医師「うーん……これは、また派手にやられたね」


俺「あはは……」


医師「触るよ?」

いだだだだ!!

嫌っていう前に触るのはズルいと思うですけどぉ⁉


医師「痛むよね」


俺「痛いですよ!」


医師「ごめんごめん。青アザ出来てるから、少しの間痛むだろうけど」

やっぱりかぁ


医師「でも、病院行くほどではないかな。5日もすれば痛みは無くなると思うから」

結構長引きそうだな……

2、3日で治ると思ったんだけど


医師「無理すると響くから、気を付けてね」


俺「はい」


医師「それにしても、君は凄いね」


俺「はい?」

いきなりなんだ?


医師「不良に絡まれてる名前持ちを助けるなんて、並みのmobじゃ出来ないよ」


俺「いや、えっと、なんというか……」


医師「でも」


俺「でも?」


医師「勇敢でかっこよくても、死んでしまえばお終いだ。今回は運良く助かったみたいだけど、あんまり無謀な事はしちゃダメだよ?君だってmobなんだから」


俺「はい……」

これは、心配からくる忠告だな

この先生は、死を知ってるんだ……


俺「以後、気を付けます」


医師「そうしてくれ。君が死んでしまえば悲しむ人が居るんだ」


俺「はい」


医師「それじゃ、診察は終わりだよ。あの子たちが待ってるんだろ?行って安心させてあげなさい」


俺「は、はい」


診察室を出ると不安そうな表情の二人がドアの前で立って待っていた


南城「大丈夫⁉」


堀北「随分と時間かかったみたいだけど?」


俺「大丈夫だよ。全然問題ないから」


南城「そっか!良かった…良かったよぉ……」


医師「一つ言い忘れたんだが……念の為、今日は絶叫系みたいな激しいアトラクションは乗らないようにね?」


俺「はい」


堀北「そう、よね……」


俺「幸いジェットコースターは最初に乗ったからね」


南城「うん」


俺「俺は乗れないけど、二人は遠慮しないで乗ってきていいからね?」


南城「イヤ!一緒に乗らないと、楽しめないよ」


俺「そ、そう?」

絶叫系とかって一人でも楽しめると思うんだけど?


堀北「そうね。今日はもう止めときましょう」

あ、堀北さんが安心してる……

まぁ、苦手なんだもんな


南城「次、どうしよっか」


医師「ショーなんてどうだい?」


俺「うお⁉まだいたんですか⁉」


医師「君、その言い方はどうかと思うよ?次いでに言うと、此処が私の仕事場だから移動するのは君たちの方だよ」

あ、そっか

つい医務室の前で駄弁ってた


俺「あ、すみません」


医師「何か今日のショーは特別らしいからね」


俺「特別?」


医師「なんでも、来場者10万人記念公演らしいからね」


俺「あ……」


南城「あっ!」


堀北「えっ?」


そういえば入口で、来てくれって言ってたような……


医師「どうしたんだい?」


南城さんが入口で撮られた写真を見せる


医師「そうか……君たちだったのか。なら早く行った方がいい。気を付けてね」


南城「はい!」


堀北「お世話になりました!」


俺「ありがとうございました」


南城「急ご!」


堀北「そうね!」


二人は早歩きで医務室を後にした

俺はその後ろを頑張って追いかける

ダメだ…走ると痛みが……


俺、間に合うかなぁ……



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