第33話 遊園地 その4

南城さんは元気な足取りでドロップ・タワーへ向かう

その後を俺と堀北さんが追いかける


堀北「私が戻ってきた時、ホントは千秋と何話してたの?」


俺「え?」


堀北「声は聞こえてこなかったけど、千秋が落ち込んでたのは分かったから」

これ、正直に言っても問題ないよな?


俺「えっと、南城さんも弁当用意しようとしてたみたい」


堀北「そうなの?」

あれ?知らない?

てっきりここまでは知ってると思ったのに⁉


俺「それで、作るのを失敗したらしくて……」


堀北「そう……それでなの」


俺「うん」


堀北「だとしたら、千秋のこと少し気を付けた方がいいかもね」

気を、付ける?


堀北「千秋、多分寝不足よ」

ね、寝不足⁉

でも、あんなに元気にしてたじゃん⁉


堀北「お弁当作る為に精一杯早起きしたのよ」

早起きったって、そんな心配するほど寝不足になるか?


俺「そうなんだ」


堀北「だから、君も千秋の事ちょっと気にかけてあげてくれる?」


俺「うん…わかった」


堀北「さ、千秋を追いかけましょ。大分離されちゃったわ」

南城さんはかなり先の方を一人で歩いていた

足速っ!


俺「じゃ、行こっか」


堀北「私はのんびり歩いて行くわ。二人で乗ってていいからね」

あ、わざと間に合わないように来るつもりだ!

そんなに苦手なら、下で待ってればいいんじゃ……?


堀北「さ、千秋が見えなくなっちゃったわ。早く行ってあげて」


俺「う、うん」


先に行った南城さんを駆け足で追いかける


俺「あ、いた」

南城さんを視界に捉えてペースを緩める


ん?なんか知らない人と話してる?

アトラクションの場所でも聞かれてるのかな?

俺が歩いて近づくと


??「なぁ、いいだろぉ。オレたちと遊ぼうや」


南城「お断りです!他の人を当たってください!」


???「あぁん?よく聞こえなかったぁ?もう一度言ってみ?」


南城「春香と彼と一緒に回るから、お断りです!付き纏わないで!」


う、うわぁ……

なんか変なの二人に絡まれてる⁉

え、コレどうしたらいいの⁉

堀北さんは……まだ来ないか……


え~……と、とりあえず、助けを呼ばないと!

俺じゃ対処できない!


回りを見渡すけど、助けてくれそうな人が一人もいない⁉

みんな遠巻きに見物してる……


そ、そうか!

これって……


“不良に絡まれる美少女”


って構図なのか⁉

ってことは、基本的に助けに入るのは名前持ちだけだ!

それがセオリー常識だから……だから誰も助けに入らないのか!


でも……助けに入るはずの名前持ちが、未だ来てない

もしかして、いない…のか⁉

こういった場面だと、助けに入る名前持ちは……

男、武術経験あり、南城さんが惚れる相手

になるはず……

この条件を満たした人がいないから、誰も助けに入れないのか……


なんでだ⁉

こんだけ人がいれば一人くらいは条件を満たした奴がいてもおかしくないだろ!!


??「なぁ、君の連れってのは何処にいるんだ?独りぼっちちゃん?」


南城「すぐ来ます!」


???「さっきからそう言ってっけどさ~、全然来ないじゃん?嘘は良くないなぁ」


南城「嘘じゃないもん!」


これ、詰んだ?


でも、南城さんなら自分で倒せそうな気がするんだけど……

もしかして……寝不足で調子が出ない、とか?

その場合、彼らに対抗できる人が完全に居ないんだけど


南城「邪魔だから、どいて」

な、なんでそんな剣呑な言い方になるの⁉

もっと穏便に!言葉遣いは丁寧に!


??「このアマ!チョーシ乗ってんじゃねーぞ!」


うわぁ……沸点低っ!!


ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!

このままじゃ喧嘩になる⁉


えーっと…えーっと…えーっと…えーっと…


俺「な、南城さん!」


南城「あ!」


???「あぁん?なんだお前」


俺「えーと、彼女のクラスメイトです」


??「部外者はすっこんでろ!」


俺「えっと……」


南城「来てくれたんだ……」


俺「あんまり挑発するようなこと言っちゃ」


南城「私は彼と回るから!」

えぇーーー⁉

今ソレ言うー⁉


??「はぁ?そのmobと回る?ふざけんなよ?そんな雑魚」


南城「彼のこと悪く言わないで!」


???「まさか、そのmobにご執心ってか?は!はははっ!これは傑作だ!」


南城「何がおかしいの!」


???「そこのmobじゃ君みたいな美少女とは釣り合いが取れてないんだよ!」


南城「釣り合い?そんなの必要ないよ!私は彼が好き!この気持ち以外に何がいるの!」


???「はぁ~、可哀そうな君に教えてあげよう。世界ってのはとっても残酷なんだよ。釣り合いとかバランスで成り立ってるんだよ?それは名前持ちも名前無しも関係無い。それを崩せば、誰かが不幸になる。そう決まってるんだ」


南城「意味わかんない!」


???「簡単に言うと、君の抱いた好意ってのは誰かを悲しませてるんだよ。そこのmobだって内心迷惑してるんじゃないか?君みたいな美少女に付きまとわれて、さ」


南城「そんな事っ」


???「無いって言いきれるか?ホントに?迷惑かけてないって言いきれるのか?」


南城さんが俺を見る

その瞳は焦り、不安、困惑

そういった負の感情を感じさせる


南城「……もしかして、迷惑だった?」

ハッキリ言ってしまえば迷惑だ


俺はmobだから


名前持ちと深く関われば損をするのは俺だ


でも、ここで突き放したら……きっと俺は後悔する


南城さんの哀しげな瞳を見て


この子南城さんをこれ以上悲しませてはいけない!

そう思った


俺「確かに……名前持ちと関われば、俺みたいなチンケなmobは死ぬかもしれない」


???「だよなぁ?名前持ちのせいで消えた死んだmobなんて星の数ほどいるからな!」


南城「…………⁉」


俺「でも……」


???「あぁ?」


俺「でも、今だけは……その迷惑恋心を俺は引き受ける!」


南城「っ⁉」


???「うぜぇ、ほんとうぜぇよ。主人公気取りか?あ?お前は所詮mobなんだよ、俺らに敵うわけねーだろ?それでも歯向かうつもり?」


俺「mobの信条その1! 名前持ちネームドを不用意に傷つけない!」


??「要するに、オレらとり合うつもりってことか?」


俺「mobの信条その2 必要以上に名前持ちと近づかない!」


???「はぁ?お前、今密着してんじゃねーか!」


南城さんが俺の袖を掴んでいた手を離す


俺「mobの信条その3 平穏無事に寿命を全うする!」


??「それは無理だな!ここでお前を殺す!」

大きく振りかぶった拳を繰り出す

今避けたら、南城さんに被害が出る……

避けられないなら……受け止める!

とりあえず顔を腕で守る


衝撃は腹に来た


俺「ぐうぇっ」

激しい衝撃で目がチカチカする

続いて鈍い痛みで脂汗がでる

い、痛い……


南城「よくも、よくも彼を……!」


??「はっ!そいつは自分で買ったんだぞ、オレとの喧嘩をな」


南城「許さないよ!」


俺「な、南城さん……落ち着いて」


南城「だ、大丈夫⁉ごめんね、私のせいで…ごめんね」

泣きそうな声で謝る南城さんはかなり追い詰められている感じがする


俺「大丈夫、だから」

すっごく痛いけど、一発じゃ死なない

ならもう一発受けても大丈夫


??「オレの一発を受けて、まだ立てるのか。なかなかやるな」


俺「なんのこれしき」


??「そうか。ならこのオレ、番長鬼島きじまの糧として逝け」

な、名前持ち⁉そんな⁉

見た目はmobなのに、名前を持ってるなんて⁉


鬼島「オレが名前持ってるのが意外か?ま、そーだろうな!」


俺「お、お前mobじゃないのか⁉」


鬼島「オレは格が上がったんだよ!昔はくそ雑魚いmobだったさ!でもな、喧嘩で勝って殴って勝って嬲って勝ち殺しまくった!そして手に入れたんだ!苗字を!肩書二つ名を!」


そ、そんな事可能なのか⁉

喧嘩で勝って、名前を手に入れるなんて……


って事は……一緒にいるやつも……⁉


鬼島「お前も自己紹介してやれよ、冥途の土産だ」


???「ういーっす!俺は裏番長、紫桃しとうだ」


二人とも、苗字を持ってるのかっ……

このまま、誰かが警備員とか呼んでくれるまで耐えようと思ってたけど……

難しいかもしれないな


南城さんが俺を庇うために前に出る


南城「やめて!」


鬼島「退きな、美少女。そいつの目はまだ死んでねぇ、次で確実に殺す」


南城「いや!退かない!」


紫桃「少し痛めつけて、大人しくしててもらおうぜ?」


鬼島「顔には手ぇ出すなよ」


紫桃「うい~っす」

紫桃と名乗った男が南城さんに殴りかかる

俺を庇ってたら南城さんは避けられない!


後ろから南城さんの肩を掴み右へ動かす


南城「え⁉」


なんとか南城さんに拳が当たるのは回避できた

と思った次の瞬間

ゴスンっ

う゛っ……


脇腹に紫桃の拳がめり込んだ

あまりの痛みに立っていられなくなる



紫桃「はっ、ははははっ!こいつ自分から当たりに来やがったぞ!」


南城「そんなっ⁉なんで⁉」


俺「信条…その1……傷つけない……」


南城「そんな…信条だからって……それで死んじゃったらっ」


俺「だいじょうぶ、だから」

腹を抑えて蹲ってたら説得力皆無だな……はは……


例え俺が死んだとしても、この騒ぎだ

南城さんは無事この危機を乗り越えられる……


膝に力が入らないや

くそ……

たった二発食らっただけで、この様か

情けない、な


南城「いや……これ以上は……もうっ」


堀北「この状況は、何かしら?」


南城「春香!」


鬼島「ほう、もう一人も美少女じゃねーか」


紫桃「うわぁ!この子チョー好み!この子俺にくださいよ!」


鬼島「ああ、いいぞ」


紫桃「うひょー!ねぇねぇ君!名前なんて言うの⁉」


堀北「堀北春香よ」


紫桃「へぇー!春香ちゃんっていうの⁉可愛い名前だね!」


堀北「ありがとう、そういうアナタ達を何者なのかしら?」


紫桃「俺は裏番長の紫桃!よろしくぅ!」


堀北「へぇ、アナタって準名前持ちスペアなの」


す、スペア?

聞いたことないけど


南城「スペアって何?」


堀北「あら、千秋も知らないの?」


南城「うん…初めて聞いた」


堀北「なら、教えてあげる。それはね……」




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