第32話 遊園地その3

俺たちは昼食のため食事エリアへ向かう




今のところmobの奥義でなんとかやり過ごせている

この奥義の名は『第三者視点』

自身の存在感を薄くし当事者たちのすぐそばに居ながら話しかけられにくくする

この奥義はアニメなどでも見られるありきたりなモノだ


よく思い出してもらいたい

キャラ達が全員写ってる場面や、主人公が一人で走っている場面があると思う

あれは、誰視点なのか

そうmob視点である!


室内などはカメラで説明が付くが、屋外だと監視カメラ程度しかない

そんな限定的な視点で主人公たちの行動を捉えられることは不可能!

よって、その場に居合わせたmobがカメラ代わりに名前持ち主人公たちを見つめる

名前持ちたちはその事に気づかず、日常を謳歌しているのだ

存在自体が目立つ名前持ちたちには自然と目が行く

しかし、普通に見つめてしまえば気づかれてしまう

だから気づかれない程に存在感を薄く、陰を薄くし

黙って見つめるのだ

名前持ちたちの人生は傍観してる分には、とても面白いからな

mobのとっての娯楽なのだ


まぁ、このスキルを使い続けると本当に存在が消えてしまう危険があるから

諸刃の剣なんだがな……

制限時間的にはまだまだ余裕がある、はず

でも、こんなにも至近距離に名前持ちが二人もいたことはない

念の為に、昼飯の時は解除しておこう



南城「あれ?そういえば……」


堀北「どうしたの?」


南城「なんか彼とあんまり話してないような気がする!」


堀北「そう?」


南城「そうだよ!」


堀北「浮かれすぎて彼の事忘れちゃった?」


南城「そ、そんなんじゃないよ!覚えてるよ!でも、なんか……う~ん、うまく言葉にできない……」


堀北「まぁ、それならこれからいっぱい話せばいいんじゃない?」


南城「そうだね!」


うん、『第三者視点』はうまく発動してたみたいだな……


南城「お昼なんだけど、どこで食べる?」

地図を広げて店名の書かれた所を見せてくる


俺「とりあえず、何があるか見て回ってから決めたらいいんじゃないかな?」


堀北「あ、あのねっ!」

珍しく堀北さんが大きめの声を出した⁉


南城「どうしたの春香?」


堀北「実は、サンドイッチ用意してきたのだけど……」


南城「え⁉手作り⁉」


堀北「一応、そうよ」


南城「うわー!すごーい!食べたい!」


堀北「その、君もどうかな?」

この質問には、食べる以外の選択肢がない

ここで拒否しようものなら……不用意に名前持ちを悲しませたことになる

イコール存在の抹消の危険がある!


俺「いただきます」



という訳で、食事エリアから少し離れた原っぱエリアへ目的地が変更になった













原っぱには家族連れが多数いた

レジャーシートを敷いて仲良く弁当を食べている



俺たちも堀北さんの持ってきたレジャーシートを使い座る


堀北「ゲートの近くのコインロッカーに入れてあるから、取ってくるわね」


南城「手伝うよ!」


堀北「大丈夫よ。二人ででもして待ってて」


南城「あ、うん!ありがと春香!」


堀北さんは一人でサンドイッチを取りに行った



南城「あのね、ホントはね……私もお弁当用意しようと思ってたの……」

思ってた?という事は、そうしなかったって事?


南城「玉子焼きとかタコさんウインナーとか、作るつもりだったの……」

ド定番のメニューだな


南城「玉子焼きがね、真っ黒に焦げちゃってね…タコさんウインナーの脚が、取れちゃって……」

うわぁーーー……めっちゃ失敗してる⁉

え?南城さんって料理下手なの⁉名前持ちなのに⁉

これ、なんて声かけたらいいんだろ……


俺「えっと、練習したらできる様になると思うよ?」

普通は、だけど……


南城「練習はしてるよ?でも……」


俺「ま、まぁ、俺だってそんなに得意じゃないし」


南城「玉子焼き作れる?」


俺「一応は作れるけど……」


南城「そう、なんだ……」

スッゲー気落ちしてる

なんか可哀そうになってきたな……

とりあえず、話を逸らそう!


俺「そ、そういえば次の日曜だけど」


南城「お菓子作りの日だよね!」

お?少し明るくなった?


俺「そうそう。何か作ってみたいモノとかある?」


南城「ん~……春香と相談して決めたいかな」


俺「そっか」

もし、お菓子じゃなくて大丈夫なら

弁当作りに変更してもいいかもな


堀北「お待たせ」


南城「あ!お帰り!」


俺「お疲れさま」


堀北「二人で何話してたの?」


南城「今日は楽しいね!って」

あれ?お弁当の話は?


堀北「そう、楽しいわね」


南城「うん」

ま、いっか……


堀北「飲み物は紅茶でいい?」


南城「うん」


堀北さんが紙コップに紅茶を注いでくれる


そして、バスケットを開けて中から箱を取り出した

蓋を開けると中には色々な具材が挟まったサンドイッチが綺麗に並んでいた


俺「おお~……」

これは見事な出来栄えだな……


南城「凄ーーーい!!」


堀北「どーぞ、召し上がれ」


南城「いっただきまーす!」

ひょいっと南城さんが玉子サンドを掴み、口へ運ぶ


南城「ん!美味しーー⁉」


堀北「良かった。君も食べてみてくれる?」


俺「じゃ、じゃあ……」

ハムの挟まったサンドイッチを食べる

モグモグモグモグ

ピリリとしたコレは辛子マヨかな

レタスのシャキッとした食感

定番の味だな


俺「美味い……」


堀北「良かった!」


満面の笑みを浮かべる堀北さん

普段は割とクールな感じだけど……今の笑顔は、なんというか……


凄く可愛らしい、感じがする……

こんな表情もするんだな……


つい、見惚れてしまう


南城「やっぱり、料理上手の方がいいのかな……」


堀北「千秋?」


南城「ううん。何でもない」


堀北「そう……?」


俺「堀北さん、凄く美味しいよ」


堀北「ありがと。いっぱい作ったからどんどん食べて」


俺「うん。ではもう一つ」

次はツナサンドかな?

パクリ

モグモグ

おお、これは……また美味いけど……

このツナに和えてあるマヨネーズはもしかして、手作り……?


堀北「口に合わなかった?」

何故か心配そうに尋ねてくる


俺「美味しいよ?ちょっと気になったことがあって」


堀北「何かしら?なんでも聞いて!」


俺「このツナサンドのマヨネーズなんだけど、もしかして自家製?」


堀北「そ、そうだけど……不味かったかしら……?」


俺「いや、美味しいよ。自家製マヨネーズまで作るなんてすごいなって」


南城「えっ?マヨネーズって家で作れるの⁉」


俺「うん?作れるよ?」


堀北「つい、凝っちゃって」


南城「す、凄すぎだよぉ……」


俺「今度レシピ教えてもらってもいいかな?」


堀北「なら明日持ってくわね」


俺「ありがと」


南城「うーーー……会話に交ざれない……」

おお、南城さんのジト目だ……

今日は南城さんも珍しい表情するなぁ


堀北「あ!ごめんね、千秋。はい、次はこっちを食べてみて」


南城「うん…もぐもぐもぐ…お、美味しい!」

直ぐにパッと表情が明るくなる

南城さんって単純?


南城「君、何か失礼なこと思い浮かべてない?」


俺「いや、全然そんなことないよ⁉」

なぜバレた⁉

mobに表情なんてないから、バレないと思ったのに……⁉


南城「ほんとに?」

コクコクと頷く


南城「そっか。ならいいんだけど」

こ、怖ぇ~……


堀北「この後どうする?」


南城「うーん、何がいいかなぁ」


俺「あ、ならアレはどう?」

浮遊感の楽しめる……なんて言ったかな

上って落ちるやつ……

南城さんが広げた地図の中にある乗り物の絵を俺が指さす


堀北「こ、コレ?」

やっぱり堀北さんは絶叫系苦手だから反対かな?


俺「そうそう、それ。えーっとドロップ・タワー?」


南城「いいね!」


堀北「ええ。そ、そうね。いいんじゃないかしら?」


堀北さんはやっぱり苦手なんだな

大丈夫かな?


俺が心配の眼差し(目は無い)を向けると


堀北「大丈夫よ。行けるわ」

と強気な発言をして、自身を鼓舞していた


ほんとに大丈夫かな……?


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