第10話 望まぬ納得 Side-堀北 春香

彼が教室へ入ってきた

すかさず千秋が声をかける


千秋「あ、おはよ」

ちょっとぎこちないけど、大丈夫かしら


彼「おはよー、南城さん」

彼が若干不思議がってる

千秋が余計なこと言う前に私も


私「おはよ、具合はどう?」


彼「全然問題ないよ。あ、そうだ!二人が助けてくれたんだって?ありがとうね」

違うの……

お礼を言われる様な立場じゃないのよ、私たちは


千秋「ううん。半分は私達のせいだから」

ちょっと、千秋⁉

それは、今言っても伝わらないわよ⁉

でも、言っていまったならしょうがないわね


私「そうね。ごめんなさいね」

彼が頭に?浮かべてる…ちょっと可愛いかも


彼「あの、さ……なんかみんなの様子がおかしいんだけど……何か知らない?」

あ、気づいちゃったわね

そりゃ、そうよね

たった一日休んだだけでクラスメイトから余所余所しくされてるんだもんね


千秋「えーっと……」

千秋がコッチに目配せしてきたわ

もうっ、私にだって心の準備だいるのよ?


私「……ごめんなさい」


彼「ん?どういう事?」


私「詳しくは、ここでは話せないの。放課後、時間いいかしら?」


彼「予定はないから、いいけど」

よかったわ

これで何とか時間が稼げたわ


千秋「ほんとにごめんね」

これは、彼と……私にも言ってるわね
















そして放課後


教室から私たち以外が出て行ったわ

きっとこれ以上関わると危ないって思ってるのね

今日だけは、都合がいいわね


私「おまたせ」


彼「いや」


私「まずは……何から説明しましょうね」


彼「今日、クラス全体がおかしな雰囲気だったのは関係あるの?」


私「ええ、そうね。関係あるわ」

昨日の事が原因でしょうから……


彼「えっと、なんで?」


私「それは、」

なんて説明しようかしら

そのまま言っても、半信半疑って感じでしょうね


千秋「ごめんなさい!私がいけないの!」

千秋⁉

説明なら私に任せてって言っておいたのに……


彼「南城さん?」


千秋「一昨日ね、君を助けるためにね……」


私「千秋、落ち着いて」

今、説明するのは今日の教室での事よ!


千秋「ぐすっ……」


彼「南城さん?」

ああ、彼ったら千秋が泣いて動揺しちゃってる

このまま今日の事を説明しても、耳に入っていかなそうね……

仕方ないわね


私「まずは、そうね。一昨日の出来事の説明からしましょうか……」

彼の注意を千秋から私の話へ向け直す


私「あの日、君は一通の手紙を受け取ったのは覚えてる?」

必死に思い出そうとしてるけど……


私「覚えてないみたいね。あの日、君は偽のラブレターで呼び出されたのよ」


彼「偽の、ラブレター?」


私「そう。それで君はまんまと屋上へ呼び出されたの」


彼「屋上?」


私「そう。そして不良の彼らに死ぬほど暴行されたの」

痛々しい姿だったわ


彼「え?でも、俺ケガなんてしてなかった」

やっぱり、疑問に思うわよね


私「そう、世界の理で修正されたの」

世界を名前持ちにとっと幸いとなるように働く大きな力

その力こそ、世界の理の本質

名前無しの抹消もケガの完治も

全てはこの修正力で補完される


俺「世界の理?それって名前持ちの人たちの為にあるモノなんじゃ」

mobである彼にとって世界の理とは、自分と関係ないモノだもの

不思議よね……


私「ええ、私たちの想いで世界の理が発動したの」

そして不良たちは居ない方が私たちにとって幸いだから……


彼「堀北さんたちの?」


私「ええ。君を害する人は必要ないって想いで、君に危害を加えた人は」

消失してしまったわ

強く願ってしまったのよ

アナタを害したmobなんて消えてしまえって


彼「まさか……」

ハッキリと伝えないとね……


私「消失したわ」


千秋「ごめんね。ごめんね」

千秋は涙を零しながらひたすら謝る


私「そして、昨日それを四季島くんが言いふらしたの」


彼「四季島が……?」


私「ええ、君と喧嘩した不良5人が消失したって」

半分は嘘

彼が喧嘩というかリンチに遭っていたのは事実

その加害者が消失したのも事実

でも、アイツらを消したのは私たち二人なのよ


彼「え!?でも、俺は」


私「そう。何もしてないし、普通に考えれば被害者なの。でも」


彼「でも、もし俺が当事者じゃなければ……そいつとは距離をとるな」

そうよね……

どうやったかは実際のところ関係無い

関わったら消される

という事実がみんなに恐怖を与える……


私「そう、よね……今日の周りから君の扱いが変だったのはそれが理由」


彼「そっか……わかった。教えてくれてありがとね」

彼は事もなげに随分とあっけなく事実を飲み込んだ


私「いいえ、私たちのせいで君の友達が君を警戒しちゃったわ」


彼「ま、きっとそのうち分かってくれるさ」


千秋「春香……」


私「千秋……そうね。言わなきゃね……よく聞いてほしいの。まだ本題というか、本質を話してないの」


彼「え?本質?」


私「……君が渡されたラブレターは、とある女子が書いたものだったの」


彼「とある女子?」


私「そう、彼女は女子生徒D。四季島太一の取り巻きの一人よ」

今の表情は驚きというより、困惑でしょうね

例え彼の表情は見ただけじゃわからないとしても

雰囲気で何となくわかっちゃうわ


私「彼女の役目は手紙で君を誘き出すことだけ」


彼「誘き出す、だけ?」


私「そう。その後、不良をけしかけたのは不良のボス」


彼「てことはそのボスが犯人?」


私「いいえ。ボスは誰かに頼まれたらしいわ」


彼「ボスなのに、誰かに頼まれて協力したのか」


私「ええ。でも、ボスは名前無しなのよ。だから名前持ちから頼まれれば断れない」


彼「ってことは、名前持ちの誰かが俺を?」


私「そうよ」

不思議よね

今まで平穏無事に過ごしてきたのに

いきなり名前持ちから狙われるなんて


私「もう分かったでしょ、今回の黒幕が誰か」

察しの良い君なら、答えに辿り着けるわ


俺「四季島が……?」

正解よ


私「そう。四季島くんが今回の黒幕で真犯人。君を殺そうとした張本人」

この世界から消してしまいたい、存在よ


彼「なんで、俺を……」


千秋「ごめんね。私のせい、なの」


彼「南城さん?」


千秋「私が君と一緒にいるから……四季島くんは君を消そうとしたの」


彼「俺を消して、何の得があるんだ?」


千秋「多分、私の好意が君から自分に向くって思ったんじゃないかな」


私「まぁ、有り体に言えば嫉妬、ね」


千秋「私のせいで、君は死にかけて……ほんとに、ごめんね」


私「私からも謝罪させて。ごめんなさい。危険な目に遭わせたわ」


二人で一緒に頭を下げる

彼が酷い目に遭ったのは……

私たちが四季島君をキッチリと拒絶しておけば

きっとこんな事にはならなかったのに……

どう言い繕っても、今回の事は私たちの認識の甘さが原因だった


彼「あの、さ。二人とも」


千秋「なに……?」


私「……?」

どうしたのかしら

真剣な声で……


彼「……助けてくれてありがとう。二人のおかげで今俺は生きていられる」

え?


千秋「え?」


彼「二人が助けてくれなければ今頃、俺は死んでた」


私「死ぬような目に遭ったのは、私たちが」


彼「それは、違う!と思う……悪いのは、四季島の野郎だろ?」


千秋「それは」


彼「二人は俺の命の恩人だから……だからありがと」


私「許してくれるの?」

あんな酷い目に遭ったのに……?


彼「許すも何も俺は二人を責めてないから」


千秋「……ぐすっ……よかった……よかったよぉ」


彼「堀北さん、話してくれてありがとね」


私「私は、責任を果たしただけよ」


彼「そっか……さて、それじゃこの話はもうお仕舞いでいいかな?」

これも、きっと世界の理の力……

例え、私たちが100%悪くても

きっと彼は許してしまう

私たちを悲しませない幸いにするために


私「君がそれでいいなら」

これ以上言葉を重ねても

きっと彼は混乱していまうでしょうね……

やっぱり、ちゃんとは伝わらなかったわね


彼「それよりも、俺は来週からどうやってBやDと話そうかの方が大事かな」


千秋「何か、手伝える事あれば言って!絶対手伝うから!」


彼「ありがと、何かあればよろしくね」


千秋「うん……!」


私「もちろん私も手伝うわ」


彼「ありがと。さて、それじゃ俺は帰るよ。また来週!」


私「ええ、また来週」


千秋「またね」



彼は一人で帰っていった


千秋「説明、できたね」


私「そうね……」

でも、彼はきっと深く考えるは出来ないわ

目に見えない世界の理の力で、思考すら曲げられてしまうから



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