第7話 成功報酬を得る
ギルドに戻る途中に制服を着なおして出店の食べ物を摘まんでから中に入る。この時間は依頼で出払っているのか閑散としている。先程依頼を受注してくれた受付嬢のもとに行き、依頼が無事終了したことを伝える。
「えっ、あの依頼できたんですか!」
完璧にこなしましたよと言ってサインの入った依頼書を見せる。受付嬢は手に取りざっと目を通す。
「すごいですね、報酬の増額してくれって書いてますよ。よほど綺麗にできたんですね」
「もちろんです、プロですから! 無臭状態にしてやりましたよ」
それなら、まだ依頼ボードに出していない依頼があるんですが受けてみませか? と、期待のこもった眼差しを向けてくる。
「明らかに嫌な予感がするんですが一体何ですか?」
これです! と一枚の依頼書を見せてくる。こ、これは!
・公共トイレの清掃 1基大銅貨3枚 1棟で10基あります。清掃前と後に西門に
ある騎士の詰め所でサインをもらってください
「またトイレじゃないですか......」
「でも、依頼金は増えてるのよ?」
たった大銅貨3枚じゃないか! 確かに大銅貨3枚は決して安くないけど、あの汚染区域を掃除するのに一基大銅貨3枚はあまりにも安すぎるんだって。その旨を受付嬢に伝えると、少し苦しい顔をする。
「でもですね、初心者ボードだとこれくらいの金額が上限ぎりぎりなんですよ?」
「じゃあ、お姉さんも俺と一緒に行きましょう。現場を知ってもらった方が適正な値段になりますもんね!」
そこから数分間行きましょう嫌です論争が続いた。
「どうかしたんですか?」
俺が受付嬢と論争デッドヒートをしていると、上の階から細身の男性が下りてきた。
「ギルドマスター! 聞いてくださいよ、この初心者ランクの子がですね!!」
興奮している受付嬢を宥めて落ち着かせるギルドマスター。10秒もすると頭に上った血も落ち着いたのか元の状態に戻る。
「それでどうしたんですか? 上の階まで声が聞こえてましたよ?」
「じゃあ、俺がその理由を話します」
かくかくしかじかと、依頼の量と労働の対価が不釣合いで、その原因は実際に現場に行っていないからではないかと言うことを伝える。
「俺はそんな、絶対に払えない金額を出せなんて言ってないんですよ、東門の依頼書の料金が掃除の苦労さと全くあってないんですよ」
なるほど、とギルドマスターは頷きながら納得の意を示してくれる。その次は受付嬢の意見もしっかり聞いている。
「なるほど、大体理解できたよ。確かに現場とギルドで依頼の価値が合ってないみたいだ。......なら、もう実地調査しかないね。門外だったら許可できないけど」
俺は心の中でガッツポーズをする。これが上手くいけばトイレの依頼が高くなるから安全にお金を稼ぐことができるぞ!
依頼の完了と、新たな依頼の受注を行う。達成報酬は銀貨1枚と大銅貨3枚だった。
料金の受け渡しが終わった受付嬢の子も依頼のために着替えさせられる。二人で頑張ってねと言ってギルドマスターは上の階に戻っていく。
「どうして私まで......」
「まあまあ、でもこの依頼が上手くいったらお姉さんの賃金も良くなると思いますよ? 正しい判断ができる人って組織の中で結構重宝されますし」
そんなのわかってるわよ......。と、あからさまに嫌な顔をしながら応える。確かに女の子からしたら最悪に近いかもなとなんか申し訳なくなってきた。けど! これからの依頼料が上がる可能性があるので我慢してもらいましょう。
「すみませーん、依頼できました」
おお、来てくれたか!と嬉しそうに西門の騎士の人が出てくる。早速頼むよ! とサインをしてくれる。さっきと同じような気がするので、制服を異空間収納の中に入れておく。
「3属性以外にも使えたんですね」
あ、やべ......。たまたまですよお! と言いながらドアを開く。相変わらず鼻が狂いそうな臭いだ。
「おえ、何ですかこの臭い......この中で掃除するんですか!?」
「そうですよ、ほら、中まで一緒に入りますよ」
トイレを開け放ち、中に迎え入れて臭いが外に出ない様に扉を閉める。受付嬢のお姉さんはもうくらくらしている。こんなのまだまだなのに......。
「では、お姉さんはこのトイレをお願いします。俺は残りの9基を掃除しに行くんで」
掃除道具なんかは隣の道具室に置いてあるらしいですよ。と伝えて他のトイレの清掃にかかる。実はお姉さんが掃除しているトイレがこの中で一番臭いも汚物も少なそうなところを選んだのだ。
東門のトイレでコツをつかんだのでちゃちゃっと綺麗にしていく。もっと綺麗にトイレをして欲しい物だと思いながら無菌無臭の完璧な状態に仕上げる。うん、相変わらず素晴らしいな。
お姉さんの方のトイレも見に行った。大変だった、まさか座り込んで気絶してると思わなかった。流石にやべえ! と思い緊急避難&お姉さんの完全清掃をし、臭いが来ない木陰で横にして急いでトイレを清掃する。
「いやあ、お連れの人はあの臭いダメだったか」
「ええ、女性には厳しいものがありますしね」
騎士の人が可哀想な目でお姉さんを見て、きれいに掃除してくれてありがとうなとサインと増額願いを書いてくれる。
また報酬が上がったとルンルン気分でお姉さんを背負ってギルドに帰る。もうそろそろ日が沈む時間なのでギルド内は賑やかだった。ギルドに入り、報告をしようかと思っていた所にギルドに入ってきたおっちゃんが話しかけてくる。
「おい坊主、その背中にいるのってリネーアちゃんじゃねえか?」
「? そうなんですか? ギルドマスターに一緒に依頼に行って来いと言われたので行ったんですけど途中で倒れちゃって」
でもお前今日取ったのってトイレ掃除だよなと言った瞬間におっちゃんとその仲間たちは何かを察したようで、可哀想なものを見る目でリネーアさんを見ていた。
「坊主、お前もあんまり受付嬢にひどい事してやるなよ?」
「今回が特殊だっただけですよ、今後はないと思いたいです。俺だって流石に不味いなって思いましたもん」
お前の趣味で連れまわしたのかと思ったぜと言って笑いながら依頼報告に行った。やめてくれよ、変な噂が立ったら大変じゃないか......。
おっちゃんと雑談をした後は俺も報告の列に並ぼうとしたら、先にリネーアを休憩室に連れていきなと受付の奥から出てきたおばちゃんに言われたので階段を上がって休憩室に入ってベッドに寝かせて部屋を出る。寝かしつけたときにムラッとしたとかないから、絶対にないから。
依頼達成の報告をして報酬を受け取る。銀貨3枚と大銅貨7枚だ、今日の稼ぎは銀貨5枚、かなりの稼ぎになった。だけどしばらく嗅覚がおかしくなるので毎回受けたいかと言ったら遠慮するだろう。
お金を無くさないようにちゃんと異空間収納に仕舞っておく。宿に帰って夕食をしっかり食べてベッドの腰を掛ける。今日街の中を歩いたが俺の服装はかなり浮いてた。流石にヒソヒソ言われるのはなんか嫌だし、流石に恥ずかしいので明日は服屋にでも行こうと心の中で決めた。
明日は街に買出しだな。
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