第6話 魔法の出し方を知る

「魔法ってあるじゃないですか、あれってみんなどのように出してるんですか?」

「兄ちゃん、魔法の使い方を知りたいんなら冒険者ギルドの初心者講座に行きな」


 俺は魔法の使い方は点で分からねえんだと、頭をポリポリ書いて魔法について知れるところを教えてくれる。なるほど、冒険者ギルドでは初心者講座なんて素晴らしいものをやってくれるのか。参加しなきゃ損じゃないか!


 その後は夕食の時間までこの世界についていろいろ質問して時間を潰した。会話の中で分かったことは魔物は怖いことくらいだ。やはり戦闘をしない方向でギルドで依頼を受けた方がいいな!


 1キロ近くあるデカいステーキにサラダだった。あんなにデカい肉を食ったのは初めてだったからすごい満足のいく食事だった。明日はさっそく初心者講座にでも行ってみるかなあ。





「これで全部か。では初心者講座を始めるぞ」


 ギルドの裏手にある訓練場で初心者講座が始まる。自分の適性武器や武器の選び方、この近辺の魔物の情報などためになる話がいっぱい出てきた。



「次は魔法についてだな。この講座では基本属性について教えるから、光や闇属性の魔法は教会で聞いてくれ」


 最初は魔法についての説明が少し入る。


・魔法は基本的に体内の魔力を使用して発動させる

・一番重要なのはイメージ

・詠唱は最初の『我求む』以降は人により様々な詠唱がある

・無詠唱で魔法を放てるようになる奴もいる

・精霊と契約をすると精霊魔法を使用できるようになる


 そうか、あの時出なかったのは我求むと言う魔法の実行ワードがなかったから発動しなかったのか......。


 一人で納得してうんうん言っていると、まずは火属性から行くぞと教官が火属性の魔法について簡単な説明をしてくれる。


・基本属性でもトップクラスの攻撃力

・火球、火槍など敵を一掃するには便利

・火の魔法は燃え広がるので調整するのが難しい


 なるほどなるほど、厨房で火使う時とか重宝できるな。水魔法と合わせて使えばお風呂とかもできるな。



「まずはこの案山子に魔法を打ち込んでみろ」


 火魔法が使える魔法使いがあらゆる中二的な詠唱をして案山子に魔法を放っている。


「我求む! 灼熱の業火で対象を燃やし尽くせ! 火球ファイヤーボール!」


 俺の前の奴の詠唱を聞いて恥ずかしだろ......。と地味にゾクッとする。


「次、リュージ!」


 はい、と返事をして魔法の準備をする。うーん、火魔法だろ? 理科の時間にやった火の熱さの表に青色の炎が一番熱いって聞いたな。まずは赤い炎をイメージする。


 赤い炎をさらに温度を上げて青色にする。よっしゃこんな感じかな。速度は150キロくらいでいいか。後は詠唱するだけだな。


「我求む、青の炎で敵を消滅せよ火球ファイヤーボール


 俺の手の先からイメージ通りのバスケットボールサイズの青い炎が予想通りの速度で案山子に向かい燃やし尽くす。うわ、火が周りに飛び散ったぞ!


「我求む、えっと、ああっと、ああ! もうめんどくさい! 我求む、そこの火を水で消せ!」


  俺が想像できる最高速度で水をばしゃっとする。ふう。危うく火事になるところだった......。



「リュージ、お前は多分魔法の講義はもう聞かなくても大丈夫だぞ......」

「え? ああ......。そうかもですね」


 周りの冒険者がポカンとしているし、教官もお前レベルならこの辺の魔物には絶対に負けないと思うぞと言い、訓練場にいた別の教官がうんうんうなずいている。そ、そうか。流石にこの威力があれば問題ないのか......。残りの魔法だけ簡単に確認してギルドに戻って来る。


「おう、昨日の坊主じゃねえか。何だがっかりした顔して」

「? ああ、昨日のおっちゃんですか。いやあ、口座を受けたんですけどお前レベルなら受けなくていいと追い出されまして......」


 いいことじゃねえか! と背中をボンと叩いてくる。依頼受けてこいよとおっちゃんは仲間たちと合流してギルドを出ていく。俺も依頼受けるかなあ......。


 初心者の受けれる依頼のボードに向かう。ここのギルドはいくつかのランクで依頼のボードが分けられている。一番上から白金級、金級、銀級、銅級、鉄級、初心者と別れている。


「どれにしよっかなあ......」


 たくさん貼られている依頼の紙をざっと読んで良さそうな物はないか探す。


・ゴブリンの討伐 1匹銅貨2枚 討伐証明の魔石を持ってくること


・スライムの討伐 1匹銅貨1枚 討伐証明の魔石を持ってくること


・公共トイレの清掃 1基大銅貨1枚 1棟で10基あります。清掃前と後に東門に

          ある騎士の詰め所でサインをもらってください


・薬草採取 回復ポーション用の薬草の採取です。10本一束銅貨2枚 鮮度や採取

      方法によって上下します。




 なるほど、一番儲かりそうなのはトイレ掃除だな。宿の追加の料金やあの女騎士さんに返すお金も稼がなきゃいけないので今日はこのトイレ掃除の依頼を受けるか!


 トイレ掃除の依頼書を取り受付に提出する。受付嬢の人はギョッとした顔をしたがすぐにいつもの顔に戻った。え、これ絶対にヤバそうな依頼じゃん......。


「はい、承認しました。まずは詰所の方に行って開始のサインをもらってください。......あと、服は捨てられるものにした方がよろしいですよ」

「え、分かりました。行ってきます」


 お気をつけてと苦笑い状態で送り出される。ええ、この世界のトイレってそんなに汚いの? 今から依頼キャンセルしたくなってきたんだけど!



嫌嫌な足取りで毎度厄介になっている騎士の詰め所に行く。あの女騎士さんはいなかったので中にいる騎士の人に声をかける。


「すいませーん、ギルドの依頼を受けてきました!」

「あーはいはい、お掃除の依頼かな?」


 騎士の人は筆を止めてこちらに向かってくる。紙を見せてサインをもらうと、受付嬢と同じように服は捨てられるものにしとけと言われた。ええ、制服に臭いつくのは嫌なんだけど......。


 


 トイレ近くに到着すると、二人がなぜ俺に捨てられる服を買えと言ってきたのか分かった。臭いわ、滅茶苦茶臭いわ。


 石製の大きな一軒家の中に10基のトイレが入っているらしい。外見だけ見れば田舎の公園にでもありそうな公衆トイレを想像できる。


 換気用なのか、壁の上部に小窓があるが、換気できる許容量を完全に超えているのでもはや意味がない。


 これは絶対に臭いがつくと思ったので、服を仕舞うために俺が異世界で使いたい魔法ランキング上位の異空間収納を使う。イメージは四次元ポケットみたいに、どんなものでもいくらでも収納できるような特殊な空間をイメージする。


「我求む、四次元ポケットみたいな異空間収納出て来い」


 試しにブレザーとネクタイを入れようと思った途端に手に持っていたブレザーとネクタイが消えてしまう。おお、流石魔法技術だな、どうやって消えたかすらわからなかった......。


 その後も仕舞えるものは全部仕舞い、気合を入れて本日の目的、トイレのドアに手をかける。ガチャッと扉を開けた途端に気絶するかと思うレベルの臭いが鼻孔を通り抜けて脳天を貫く。


「うっ......、あっぶね気絶するかと思った」


 即行で風魔法を使い、臭いを俺の周りに来ない様に調整する。し、死ぬかと思った......。意を決して公衆トイレの中に入っていく。風魔法を絶やさない様に常に換気用の窓やドアからも臭いを出す。よくよく考えたらこれ周りの人たちにかなり迷惑だと思うな。でも、許してくれ! これをしないと間違いなく俺が死ぬ......。


「うへえ......、汚れが溜まってるじゃん」


 まずは周囲を水を使って綺麗にしていく。汚れた水は便器の中に放り込んでおけば問題なし。


「よし、これで足の踏み場はできた。我求む、100度の熱湯にて壁や天井の汚れを落としきれ。その時の汚水は便器の中に全て落ちろ」


 魔法を発動した瞬間にトイレから出て室内の温度が下がるのを待つ。10分ほど待って部屋から湯気が出なくなったのを確認して室内に入る。よし、見た感じ汚れっぽいものは見えないな。


 最後は便器の中の汚物を土属性魔法で一回土と混ぜてから、初期のトイレの深さよりもさらに穴を深くして臭いが上がってこないようにする。


「この深さがあれば大丈夫か。我求む、1000度の水蒸気を噴射して便器の中の菌を死滅させよ」


 水蒸気と熱が来ない場所から詠唱をして便器と底を綺麗にする。よし、上手くいった! 後はこれを9回繰り返すだけだな。1時間をかけてゆっくりゆっくり清掃をしていく。


 10基全てのトイレ掃除が終わったので鑑定で何か問題のある分があるかを確認する。


・便器

 主に民家や公衆トイレなどに使用される一般的な便器、糞尿を掘った穴に落とす。清掃がされて清潔である。



「うむ、完璧だ」


 え? 清掃前の鑑定情報が見たいって? 仕方ない、見せてあげよう!


・便器

 主に民家や公衆トイレなどに使用される一般的な便器、糞尿を掘った穴に落とす。非常に不潔で病原体の温床。便器以外にも糞尿や吐瀉物が撒き散らされていて、このトイレを使用する人間は確率で病気にかかる。


 


 どうだ、気持ち悪いだろう、俺も最初は吐きそうだったぞ。清掃で濡れた地面を風魔法で乾かしてから外に出る。


「自分の衣服に臭い付いてそうだから洗濯しとくか......」


 公衆トイレの陰に隠れて上着を脱いで水魔法で洗濯する。洗濯機をイメージすれば簡単だな! ついでにもう一個全身が入る水の球を出して全身洗浄をする。


「後は乾燥だけだな。うう、寒い......。我求む、温風で全身を乾かせ」


 工場見学とかで経験したものすごい風が吹いて体に付着した埃やゴミを吹き飛ばす機械を思い出したのでそれをイメージして魔法を使用する。



「ぐおお!? か、風が強すぎる!」


 1分ほどものすごく暖かい暴風が全身を包み、乾いた瞬間にそよ風のごとく消えていった。お、上着も乾いてるな。


「うん、臭くない」


 ささっと上着を着て詰所に向かう。これで大銅貨10枚だろ? これは1基に銀貨出さないと誰もやってくれないだろ......。



「すいませーん、清掃終わったんで確認お願いします」

「お、さっきの新人の子か。まだ数刻しかたってないと思うが......」


 頑張りましたからと騎士を連れていき確認させる。



「こ、こんなに綺麗になってるとは思わなかったな......」

「そりゃあ滅茶苦茶頑張りましたからね!」


 


 騎士の人に完了したと言うサインをもらってギルドに戻る。



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