第3話 飛ばされた先は

 鳥の鳴き声が聞こえ、暖かな風が頬を撫でる。沈んでいた意識が風によってやさしく浮上させられる。



「んんー、良く寝たあ。まったく、いくら疲れてるからって玄関で寝ちまうのわなあ。急に異世界、なん、って......」


 寝ぼけた頭で周りの景色を見回す。辺りには自宅にあるはずのない木が大量に生えている。ベッドだと思っていた感触は自然の恵みを受けて生い茂った雑草だった。


 昨日のは事実だったのか......。夢だと思ったが、事実だったことに気づき急に頭が回りだす。寝てるときに冷水ぶっかけられた後並みに頭がすごいスピードで回っている。


 昨日は確か俺と同じくらいの子たちが集められて、ゲーム感覚で自分のスキル決めて、異世界に飛ばされて目が覚めた......。とりあえず自分の頬を引っ張る。うん、まあまあ痛い。とりあえず今度は頬をひっぱたく。


「痛ってえ!」


 かなり強めに叩いてしまった。赤くなったであろう頬をさすりながら周りの探索を始める。まずは目印を作りたいな。一目でここがさっきいた場所だと分かる目印が欲しい。辺りを見回しても木と雑草くらいしかない。何かないかな。


 そういえば今俺って何を持ってるんだろう? とりあえず制服の上着やら、ズボンのポケットから出せるものをすべて出した。


・スマホ

・ハンカチ2枚

・家の鍵

・黒ボールペン

・イヤホン


 とりあえずスマホの電源を切っておこう。使えそうなのは何にもないな。バッグもないし......。バッグがあれば手回し蓄電とかはさみとかあったのにな。。無いものは仕方ないので、全部元の場所に入れて歩き出す。


 近場をぶらつきながら考える。15分ほど考えるとスキルがあったことを思い出す。


「そうだ、俺にはスキルがあるじゃないか。......スキルって何取ったっけ?」


 家に入ってから先の事は全て夢だと思い込んでいたので、しっかり覚えていなかった。ええ、自己シートに書いてあったよな。あれ無いの? ステータス? メニュー?


 適当に思いついた単語を言葉に出すが、一向に出ることはない。なんだよ、出ないんじゃあ意味無いじゃあないか。スキルはほとんど覚えてない......なら魔法に頼るしかない。この場に適切な魔法は何だ? 火か? いやいや、森林火災起こすつもりか。


「うーん、火はダメだろ? あ! 土魔法! あれはレベルをいっぱい上げた記憶があるぞ!」


 そうだよ、土魔法は確実にあるはずだよね! めっちゃポイントが少なかった記憶あるしね。ワクワクしながら、声をあげて魔法を出そうとする。


「おっしゃあ! 土出て来い!!」


 ......物凄いドヤ顔で大声を出してみたが、何も起きない。地面に何も反応しないし、空から土塊が降ってくるわけでもない。小鳥だけが俺の声に反応するように鳴き声を出している。


 くそうくそう! でねえじゃん! 一人でむなしくなりながら、元いた場所に戻る。くそお、ゲームとかなら一言いうだけで思い通りの魔法ができるのに。ラノベの主人公とかどうなってんだよ、どうやって魔法出してんだよ。


 その後も思い出せる属性魔法についていろいろやったが何も出てこなかった。なんだよ! 異世界には来たのに魔法は使えないのかよ! じゃああれは何のためのシートだったんだよ......。もう、思いつくことはないので地球で培われた自分の知識を頼るしかないな。現代人舐めんなよ! 生活で使わないような知識だってそこそこ持ってんだ!


 とりあえず目印は棒でも立てとけばいいか、そこらへんの木によじ登り長めに枝をへし折る。元気な木だったのか中々折れなかったが、何とか折れたので地面に突き刺しておく。


「よっし、出来た。次は食糧かな」


 刺した枝に制服のネクタイを巻き付けておく。よし、これで分かりやすくなった。食材探しに行こう。太陽の位置を確認する。ええっと、さっきの太陽があそこで今はここ、んでもって刺さってる枝から延びる影を見て、まだ午前中だと言うことが分かった。


 ああ、でも北半球と南半球で違うんだっけ? そもそも異世界だから球体かどうかもわかんないな......。


「だあ! どんどんネガティブになるな。とりあえずこっちだ」


 とりあえず方角を決めて、ひたすら歩く。周りを見回すが先ほどとほとんど景色が変わらない。そりゃそうか、まだ30分くらいしか歩いてないしな。元気を出すために歌を歌う。どうせ周りに人間なんていないんだ。思う存分に歌ってやる!



 さらに歩を進める事約1時間くらい、どこからか水が流れる音が聞こえてくる。おお! 飲み水が確保できるかもしれないぞ! 


 徒歩の足が自然と早くなり、音が聞こえるところに向けて駆け寄る。直線に進まないと戻れないので、そこら辺は注意しながら走ってる。


「おお、おお! 川だあ!」


 川幅は多分2メートルくらい、深さは片腕分くらいか、水の色も透明だ。両手で水をすくい川の水を飲む。うん、いける。地球の水と変わらないな。とりあえず近くの木から枝を折ってきた方角の矢印を作っておく。


「さあって、木の実でも探すかな」


 川に沿って木々を見る事2時間ほど、そろそろ引き返すかなあと思ったら見つけた。結構大きいし、たくさんなってるぞ!


「よしよし! 調子いいなあ!」


 木に登り、太い枝に腰を掛け、木の実を取って観察する。大きさは両手で持つくらいの大きさだ。うん、ずっしりとしてるな。


「色は半分赤であとは黄色か」


 スキルも魔法も使えないのでとりあえずパッチテストみたいなことをする。実に鍵をぶっ刺して、手の甲に塗る。20分くらいたっても何もなかった。


「次はあ、次はあ、次ってどこだったかな? 手で大丈夫なら食べていいんだっけか?」


 もう良く分かんなくなったので実に齧り付く。うをお! なんだこの味は、見た目は赤に黄色で臭いはブドウっぽいのに味はみかんじゃん!


 視覚や嗅覚をバグらせながらも一つを食べきる。途中で種が出てきたのでスイカみたいに飛ばしておいた。すげえ、一気に満腹になったぞ。この果実はすごいな、


 周りの木を見ると1つの木に8つほどなってるし何本も生えてるからしばらくは大丈夫だな。太陽的に見たらあと数時間で夕方なんだよなあ。今日はこの果物の木の周辺で寝床を作るか。


 するすると木から降りてあたりを散策する。1時間ほど周りを探検すると、大きな枯れ木を見つけた。かなり大きな木で直径6メートル近くあるんじゃないか?


 幸運なことに、数メートル程の高さの所から2人位入れるほどの大きさの裂け目があった。よじ登って中を確認すると中は胡坐をかける位の空洞があった。今日の俺ってかなり運がいいな! ここら辺なら木の実がなる木まで5分とかからないし、野良狼とかが来ても上って来れないだろう。



「おいおい、今の俺ってかなり来てるんじゃあないか?」


  駆け足で夕飯用の木の実を取って来て、ルンルン気分で裂け目の中に入り腰を下ろす。そうすると太陽がちょうど沈んでいくところだった。うわあ、綺麗だなあ。


「すげえ......」


 太陽が沈みきるまで無心で眺め、気づいたら星がぽつぽつと見えてきた。30分もしたら真っ暗だ、あたりを照らしているのは太陽に変わって星や月明りだ。人工の光が何もない。


 最初は星の綺麗さに感動していたが、段々星が現れ始めて夜空を埋め尽くし始めた。


「こ、ここまで来るとなんか気持ち悪くなるな......」


 木の実を食いながら今後の事について考える。まだ初めての経験が多くて興奮しているけど、興奮が落ち着いたらどうなるんだろうか......。ちゃんと生きていけるのかなあ?


 若干の不安を感じながら上着に包まって睡眠をとる。身体を伸ばしきれないからちょっと寝るの難しいな。

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