第4話 草叢からの遭遇
「くぁー......。ああ、体痛え」
座ったまんま眠ったので身体がバキバキだ。ゆっくりとした動きで寝床から出て体をグイッと伸ばす。バキバキっと背中が伸びる音を聞き、川に向かい顔を洗う。
「あ、そういえば昨日風呂に入って無くね?」
動き回って汗をかいていたことを思い出したので、洗顔と同時に体と衣服を洗うことにした。流石にズボンを洗うと乾くまで時間がかかるから上着と下着を洗うことにした。ノーパンでも男だから大丈夫だよね。
「うを、お湯じゃないから冷たいな......」
明け方の川だからか、気温があまり高くないからか水温がだいぶ冷たく感じる。ヒイヒイ言いながら頭を洗ったり、ハンカチを濡らして体を拭く。ああ、冷たかった。
ワイシャツをジャバジャバ洗い、水を切ってそこらへんの枝に引っ掛けておく。下着もちゃちゃっと洗ってワイシャツと同様に枝に引っ掛けておく。
一仕事を終えると朝飯をよこせと腹の虫が鳴り響く。そうだったと思いだして昨日の木の実を取りに行く。
「ふう、美味しかった」
木の実で汚れた手を川で洗って着替えが乾くのを待った。この何もない時間をスマホを使って過ごしたいけど無駄に充電を使いたくないので何とか歌ったり妄想したりして時間を潰した。
1時間ほど時間を潰して衣服が乾燥したので、ささっと着替えて昨日の探索の続きをする。って言っても俺のリスポーン地点からもあまり離れたくはないから今日明日で一回探索は打ち切るけどね。
「さて、昼飯を取ったら探索開始だな」
ささっと木の実を取って川沿いをどんどん進んでいく。
「代わり映えしないなあ......」
歩き始めてかれこれ3時間。似たような景色が永遠と続いてて自分がちゃんと前に進んでるのかが良く分からなくなってきた。ここで一度休憩をするか? という思いがよぎった直後、森の方からガサガサっと物音がした。
「な、なんだ? キツネかウサギか、な」
「グギャ?」
なんかいる。そう理解した途端に身体が歩いてきた方と逆方向に駆け出す。な、なんだあの気持ち悪い人型の化け物は! 140センチほどの身長で、全身が緑一色。手には生物を何度も殺害したであろう血がついてるこん棒。それに総毛立つような気持ち悪い鳴き声。
全力で逃走しながら俺の本能に全力で賞賛したかった。あれは、ヤバい。今の俺じゃあ襲われたら勝てねえしな! そんなことを考えながらちらっと背後を確認する。うん、20メートルほど後方から追いかけてきてるな。どうするか、とりあえず1時間ほど疾走して追いかけてくるようなら森の中に入って巻くしかないよな。
「が、頑張れ俺。今こそあの学校で無駄に鍛えられたスタミナと足腰で何とかしてやるんだ!」
疾走してからどれくらいたっただろうか、目前にはつい数時間前まで俺がいた場所が見えている。くっそ仕方ない森の中に入ってやり過ごすか。森の中に入って全力で駆け抜ける。さっきは川付近の地面で走りにくかったけど、ここの地面はしっかりしてるから走りやすい。後はあの化け物を巻くだけ、鬼ごっこよりも楽な作業よ!
「グギャ?」
化け物は周りを見回してターゲットを見失ったように首をかしげてどこかへ消えていく。荒ぶる心臓の鼓動を何とか落ち着けて川の方に出る。幸いなことに1分ほどで撒くことができたので川があるところへ戻っていく。
まさかあんな化け物が出てくるなんてな、予想だがあれはゴブリンと呼ばれる奴なんじゃないか? 緑だし、棍棒持ってたし。ラノベ主人公ヤバいな、あの化け物に初めに襲い掛かるってどうなってんだ?現代日本でどんな生活してたんだろ。
5分ほど歩き川沿いに出たので木の実ゾーンに行き1日分の実を分けてもらってリスポーン地点に戻る。目印を作っておいてよかった。
「お、見つけた」
数時間ほど歩くと俺が巻き付けておいたネクタイを発見した。ネクタイを回収してリスポーン地点に腰を下ろす。さて、異世界に来て2日ほどで見つけたのは川と木の実と化け物だ。今度は川とは逆方向に行ってみるか? でも水分が確保できないのは厳しいな。
「うーん、どうしようか。とりあえず果物で水分を取れば1日は何とかなるよな......。なら半日ほど川とは逆方面の探索をしておくか」
夜と朝用の木の実をもって探索を始める。1つは茂みに隠しておいた。さて、そっち側には何があるかな。
「う、あれは化け物じゃないか......。それにあれはスライムか?」
数メートル先に化け物が数匹いる。そこから20メートルほど右にスライムがのろのろと這いずりながら草を食べている。
ここはどちらにもばれない様に大きく迂回していくかと考えて迂回していく。あと少しで先に進めると思った時、枯れ木を数本踏み抜いてしまった。パキパキパキ! と森の中で出る音にしてはかなり大きめの音を出してしまう。
やべえ! 聞かれたかも、とそっと右後方を確認すると化け物がこちらを一斉に見て騒いでいる。これはまずい! と即理解して全力で駆け抜ける。初めの10分ほどは化け物が数匹しかいなかったのに、いつの間にか10匹近くの化け物に追い回されている。
「うっそだろ!? 増えすぎだろ!」
全力疾走をして1時間は走っただろう。100メートルほど先に平原が見えた。おお! これは森を抜けるチャンスだ!
木々を避けながら森を抜けて平原にでる。久しぶりに森から出たと感動しながらも後ろから迫って来る化け物をどう巻くか考えていると、結構向こうに馬に乗った人間が見えた。チャンスだあの人たちに助けてもらうしかない!
「た、助けてくれええ!!!」
疾走しながら出せる全力の大声を使い、とにかく馬に乗ってる人たちに聞こえるように喚き散らす。俺の心の叫びが通じたのか、馬に乗った人たちがこちらに向かってきた。よっしよっし! これで助かる。と思った瞬間に後方から化け物が棍棒をぶん投げてきたらしく後頭部に直撃する。
「アデ!?」
いきなりの衝撃で足がもつれて盛大にずっこける。ズサー! と漫画のような音を出し、グルンと1回転してしまう。これはまずい! 動かないと化け物に殺されちまう!
「グギャギャギャ!」
なんだこいつうれしそうな声を出しやがって。転んだ痛みを気にせずに全力で駆け出す。ここで踏ん張らなきゃまじで死ぬかもしれんからな!
うおお! と全力で駆け出して馬に乗った人たちとすれ違う。ちらっと見えたがどうやらどこかの騎士らしい。鉄の鎧みたいのを装着している。完全にすれ違ったので速度を緩めて荒い息を整えるために膝に手をつく。
「そこの者、大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫です。危ないところを態々有難うございます」
数分もかからずにあの化け物どもを殲滅して俺に話しかけてきた。近くで見て初めて分かったがこの騎士の人たちはみんな女性のようだ。
「それにしても森で何をしていたのだ? あそこは獣も出るし魔物も出る。街の人間か? それにしてはかなり離れているぞ」
「いえ、なぜあそこにいたのか覚えていなくて......」
こういう時は何も覚えてないって言うのが鉄板だよね。事実、なぜあそこにスポーンしたかなんて知らないからね! 数分ほど話をすると、街の方まで送ってくれるらしい。やった! これで襲われる心配がなくなる!
「では私の後ろに乗るといい」
「え、そこに乗るんですか?」
ここで俺に馬術をやったことないのがバレるぜ。慣れない動きで何とか後ろに座ることができた。ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ怖いな......。
「よし、乗ったな。では行くぞ!」
馬の腹を太ももで叩き駆け出していく。こ、怖え!! あまりの速さと揺れで、思わずギュウっと抱き着いてしまう。騎士の人がビクッとなったがすぐに何事もなく馬を進め始めた。
1時間ほどだろう、休むことなく馬を走らせて街の門までついた。途中の景色は何も見てないのは言わなくてもわかるだろう。
「おお! 門だ! スゲエ」
「リュージ、お前はこっちだ」
あんな門を見るのは初めてだったのでワクワクしてたがどうやら俺は別の場所に行くらしい。門から少し外れて小屋のある場所に向かう。なんだここ。
「さ、まずはステータスカードを見せてくれ」
「え、何ですかそれ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます