第25話 アレゲニー町の実態と武器屋

仮面を着けると目の前が真っ暗になる。


数秒待つと暖かい光が見え始め聞き覚えのある声が聞こえ始める。




「…ーニャ…朝…た…」




父親の声だ。そして目の前に広がるのは前住んでいた家の中だ。リビングで朝食を囲んでいる光景で左に父親、右には母親だろうか、顔がよく見えなくて誰だかわからない女性が座っている。






サーニャが仮面を着け数分経ちマーガレットは少し不安になる。


サーニャは仮面を着け後何かに取り憑かれたかのように動かなくなり問いかけにも反応がない。




「おーい…サーニャ…?聞こえてるかー…?」




するとサーニャの仮面の間からツーっと何かが流れ落ちた。そして突然力が抜けたようにガクンと倒れベンチの背もたれに後頭部を打ち付けそうになるところをマーガレットが必死に抑える。






「おい!サーニャ!しっかりしろ!」




マーガレットは慌てながらサーニャに問いかけるが一向に反応がない。これはまずいと思いマーガレットはサーニャが着けている仮面を外そうとするが外れない。何かでくっ付いているかのようだ。




「くっそ…!なんでこんなに…かてぇんだよ…」




思いっきり力を入れ壊す勢いで外そうとするが少し隙間が広くなる程度だ。ビシッと少しずつ小さな亀裂が入り始めマーガレットはより力を入れ外そうと頑張る。




「…っ!なん…なんだよ…!くそが…ぁ…ああ!」




バギッと仮面は割れサーニャの顔から外れる。仮面はカランカランとベランダに落ちた。




「おい!大丈夫か!?」




マーガレットはサーニャに問いかける。サーニャは涙を流していた。




「う…うん…大丈夫…はあ…危なかった…」




サーニャは涙を拭いながら言う。




「そっ…そうか…」




マーガレットは返す言葉が見つからなかった。




「…ファルスにね…「見える世界に感情や心を持っていかれないように」って言われたんだけど…持ってかれかけてたのかな…」




「そうか…とにかくやばいもんって事なんだな…今日は寝よう。立てるか?」




「う…うん…大丈夫…」




サーニャは立ち上がろうとするがふらっと倒れそうになる。マーガレットは倒れそうになるサーニャの体を支える。足に力が入らない。




「大丈夫かよ…肩貸してやっから…」




「うん…ありがとう…」




マーガレットとサーニャはゆっくりと歩きながら部屋へ戻り寝る事にした。






次の日


サーニャは目を覚ます。夜中の力が抜けた感じは全くなくむしろスッキリした気分だった。部屋を見渡すとサーニャ一人しかおらずロゼッタ達はいなかった。


閉まっているカーテンを開けると霧に覆われたアレゲニー町の光景が広がっている。


サーニャは一階へ降りるとソファの上にサーニャのバッグが置かれていた。そして机の前にある椅子に座ってコーヒーを飲んでいるマーガレットがいた。だが部屋にロゼッタとミーナがいない。




「よっ、おはよう」




「おはよう…ロゼッタ達は?」




「あいつらは近くの風呂屋に行ったよ…それより大丈夫か?出発は今日だけどキツイんなら明日にずらすけど…?」




「うん、なんか凄くスッキリした気分」




「そうか、じゃあ私らも風呂屋に行くか!そのまま町を出るから荷物忘れるなよ!」




「うん!」




サーニャとマーガレットは荷物を持ち家を出た。近くの風呂屋に入る。風呂屋といっても個室のシャワーのみでシャンプーではなく石鹸が置かれている程度。女性には厳しい環境だ。


サーニャは仕方なくササっとシャワーを済ませ外へ出る。




「あっ!サーニャ、おはよー!」




「サーニャさん、おはようございます」




風呂屋の外ではロゼッタとミーナが待っていた。




「おはよー」




「サーニャ随分寝てたけどそんなに疲れてたの?」




「あー…うん、あはは…」




「そっかー大変だったしねー」




楽しそうに会話をしていると風呂屋からマーガレットが出てきた。




「おっ、全員揃ってたか」




「うん、マーガレット今日はどこに行くのー?」




ロゼッタはマーガレットに質問した。




「ああ、知り合いに用事があってな。行くけどみんな準備大丈夫か?」




「うん!私は大丈夫だよ!」




ロゼッタがそう言うとサーニャとミーナは頷いた。




「よし、じゃあ行くか!」




サーニャ達はマーガレットの後をついて歩いた。


数分歩き大通りから少し外れ、建物と建物の間の通り「テランズビート通り」という長い通りを歩いていると空き缶や吸い殻のゴミが大通りより多く転がっており新聞を体にかけ横になっている人やホームレスの子ども、食べるものがなくやせ細っていて倒れている子どもを多く見かけるようになる。


サーニャは見ないようにするがどうしても目線に入ってしまう。




「…少しの間だけ我慢してくれ。助けてやりたいのは山々だけどそういうわけにもいかないんだ…」




マーガレットがサーニャ達に辛そうに言った。昨日いたインシュバート街とは雲泥の差だ。隣同士、昔は同じ街だったのが今じゃこんなに違うのかとサーニャは思った。


時折子どもが何かを恵んでほしいと訴えかけてくるが無視しなければならない。もどかしさが残る。


テランズビート通りを抜けサーニャ達はもう一本の大通りに出た。




「…悪りぃな…あんなところ通って…近道だから歩いたんだけど…」




マーガレットが申し訳なさそうに言う。




「うん、大丈夫だけどあれって…」




サーニャは少し疑問に思い聞いてみる。




「アレゲニーってのは昔からああいう感じだ…浮浪者やクズがよく集まる町だからな…」




「そう…なんだ…」




「そんな事より目的地に着いたぞ」




マーガレットは近くの店の扉の前に立った。店は閉まっているような雰囲気が立ち込める。


コンコンとノックをする。




「おーいいるかー」




マーガレットがそう言うと店の中から物音が聞こえた。




「…誰もいませんよー」




店の中から声が聞こえた。マーガレットははあっと深くため息をつき、サーニャ達は不思議そうにしている。




「…開けねぇと蹴り割るぞ!」




マーガレットは強い口調で言う。




「…わかったわかった!今開けるから!待って!」




店の中の店主(?)がそう言うとガチャっとドアの鍵が開く音がした。


マーガレットがドアを開けるとこじ開けるかのように隙間からロングバレルのリボルバーを持った女性が現れ銃口がマーガレットの喉元に当たる。


サーニャ達はそれに驚くがマーガレットは微動だにしない。




「借金…ってなんだマーガレットかよー…つまんねぇー…」




女性はマーガレットをみてつまんなさそうな顔をしていた。




「よっ久しぶり、ヴィレンツェ。また借金取り撃てると思ったのか?」




「そうそう、おととい狙い損なって外しちゃったから…まあ入って…」




サーニャ達はヴィレンツェに促され店の中に入る。


中はおびただしい量の銃が壁や棚に飾られ弾も大量に陳列されている。




「今度は当ててやるって思って準備してたのに…ってマーガレット、後ろのは?」




ヴィレンツェはリボルバーを近くのカウンターに置く。そして椅子に座りカウンターに置かれているタバコを吸い始め、箱をマーガレットにヒョイっと投げる。


マーガレットは何食わぬ顔でパシッと取りタバコを一本取り吸い始めヴィレンツェに箱を投げ返す。


ヴィレンツェもこれが普通かのように取る。




「ああ、うちの知り合い。こいつがサーニャ、背が低いのがミーナでこいつがロゼッタ」




サーニャ達はマーガレットに紹介されヴィレンツェによろしくお願いしますと言った。


ヴィレンツェはふーんと言いながらダーツの矢を投げる。


矢は壁に貼られている男の顔写真に刺さる。何本も刺さっているせいでボロボロだがおそらく借金取りだろう。




「ほー…なるほどなるほど…ってマーガレットは何しにきたの?」




「ん?ああ、旅するのにあれが必要になってな」




「あーなるほどね。もうそんな時期か…じゃあ久しぶりにマーガレットの撃つのみたいからやっちゃってよ!さあ、入って!」




ヴィレンツェは何かを思い出したのか突然生き生きし始めカウンター裏の扉を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る