第24話 インシュバート街からの簡単な脱出

「それよりどうやってこの街を出るかですね…」




ミーナは言った。マーガレットやサーニャ、ロゼッタはそれを聞いて黙り込んでしまう。だがファルスとラウルは違った。




「大丈夫よ、ここの保安官少し適当な部分あるから懸賞金払っちまえばどうにかなるわ。どこで払えばいいかわかるでしょ?アレゲニー町出身のマーガレットさん」




マーガレットはラウルの言い方に少しイラっときたがアレゲニー町とシステムは変わらない事に安堵した。




「アレゲニー町と変わらねぇのかよ…ならどうにか出来るな。場所だけ教えてくれ」




「いいわよ。大通りを歩いていくと小川があるんだけどその近くに派出所あるから。これぐらいの説明で充分よね?」




ラウルは近くにあった偽物の魔導書のページを一部破り紙に行き方のルートを書いた。




「よし、大丈夫だ。それじゃああまり長居するのもよくないし行くか」




マーガレットはラウルにメモを受け取った。




「うん…でもホテルに荷物とか置きっ放しじゃ…」




サーニャはふと思い出した。




「大丈夫大丈夫、みんなの荷物全部あるしそのまま街を出れるよ!」




ロゼッタはポーチをパンパンと叩いた。




「へぇー…いつの間に…あっ、あと派出所でホテルのチェックアウトも出来るから」




ラウルは思い出したかのように言った。




「それじゃ私ら先に派出所行ってるからミーナとサーニャはタイミング良い時に来いよ。あんま大人数で歩いてるとバレるしな」




マーガレットはそう言うとロゼッタと一緒に店を出た。




「それじゃ、私も疲れたから少し寝よっと…」




ラウルはうーんっと言いながら体を伸ばし店の裏へ向かおうとした。




「じゃあ…私も…」




「え?ファルスは店番!ほら座って!座ってて!」




ファルスは立ち上がろうとするがラウルに肩をグッと掴まれ無理矢理座らされた。




「それじゃよろしくねー」




ラウルはそう言うと店の奥へ消えていった。


ファルスは少しむすーっという表情をするとサーニャ達に見られている事に気づきははっ…と笑う。


サーニャとミーナもつられて笑う。




「あれでも…妹なんだけどね…」




ファルスはラウルに聞こえないようにひっそりとサーニャ達に話した。




「それより…サーニャちゃんとミーナちゃん…前の占いの時に水晶玉に出てたけど言わないでいた事なんだけど…二人って親いないんだね…」




ファルスの一言にサーニャとミーナの表情からは笑顔が消えミーナは悲しい顔になった。




「あっ…ごめん……もし…これ使えたらって思ったんだけど…」




ファルスはカウンターに猫の仮面を置いた。


仮面は目元が隠れるだけで目の部分は穴が開いておらず猫の目が描かれていた。




「これを着けると自分の記憶の中で一番会いたい人に会えるようになるの…昔は普通に売られていたんだけど今は販売禁止になっちゃったんだよね…注意事項は着けた後、見える世界に感情や心を持っていかれないようにね…持っていかれて帰ってこれなくなる事があるから…」




サーニャとミーナは説明を聞きぞくっとした。




「…分かりました…ありがとうございます…」




二人は仮面を受け取った。




「…そろそろいいタイミングじゃないかな…派出所に行っても…」




ファルスがそう言うとサーニャは時計を確認した。マーガレット達が出てから二、三十分経っていた。




「そうですね、ありがとうございました」




サーニャとミーナはファルスに一礼をするとファルスはいいよいいよと言いあくびをしながら立ち上がった。




「二人共頑張ってね…ふあぁ…」




サーニャとミーナは店を出て扉を閉める。


するとドアからガチャッと鍵のかかる音が聞こえドアに掛けられている木の板がくるりと回り「CLOSE 」という文字が現れた。


二人は派出所を目指し歩いていると夕日が見えサーニャは眩しさのあまり思わず目を覆う。


マーガレットのサーニャ達を呼ぶ声が聞こえ、見るとロゼッタが手を振っていた。手続きは無事に済んだようだった。


マーガレットが用事あるから一度アレゲニー町に戻ると言いサーニャやロゼッタ、ミーナも付いて行く事にした。


丁度良くインシュバート街からアレゲニー町へ行く定期便があり四人はバスに乗りアレゲニー町へ向かう。


インシュバート街からアレゲニー町に行く人はほとんどおらずサーニャ達しか乗っていなかった。


何事もなくアレゲニー町に着くと辺りは暗くなっていた。四人は仕方なくマーガレットの家に泊まる事にした。




「いやぁ…今日も色々あったな…」




マーガレットが溜息をつくように言う。




「そうだねー…なんかマーガレットのうちを見るのも懐かしく感じるよ…」




ロゼッタはマーガレットの家を見てホッとした気持ちで言う。


ミーナはマーガレットの家を見て珍しそうに見ている。




「ここがマーガレットさんの家なんですね…」




「そうだぞ…ちょっと待ってな…」




サーニャはマーガレットの家の扉を見てある事を思い出した。




「…っち…またかよ…」




ガチャガチャ…とマーガレットは鍵を回しドアノブを回すがドアが開かない。


マーガレットは鍵を回したりドアノブを回す。


今度は下を足で押さえながら鍵を回してみる。するとカチャッと音がして扉を開けてみるとすんなり開いた。




「うーし、入れ!」




サーニャ達はマーガレットの家へ入って行った。


マーガレットは家に入りドアの鍵を閉めた。


マーガレットの家はあまり広くはなく四人だと少し狭く感じる広さだ。


ロゼッタは真っ先にソファに座る。サーニャとミーナはやれやれと思い、マーガレットは部屋の隅にある階段の隣にある食料庫の扉を開け中を確認する。




「あぁ…やっぱりか…っち…すまねぇ…これしかないわ…」




マーガレットは食料庫から缶詰を四つ取り出しサーニャ達に渡した。


コンビーフ缶が二つ、魚介の缶詰が二つ。




「今はこれしかないけど許してくれ…」




マーガレットはコンビーフ缶の蓋を缶切りで開け近くにいたミーナに渡した。


だがミーナは缶切りの使い方がよくろわからず手こずっているとマーガレットはミーナに自分が開けた缶詰を渡した。




「ほれ、コンビーフだけどいいか?」




「大丈夫です…ありがとうございます」




ミーナはサーニャに缶切りを渡しフォークで食べ始める。サーニャは問題なく開けロゼッタに渡そうとロゼッタを見ると既に食べ初めていた。魔法で缶の蓋を開けたようだ。


四人は黙々と食べているとマーガレットが思い出したかのように言った。




「あっそういえばこの家風呂ないからな」




それを聞いたサーニャ達はピタッと食べるのをやめた。




「…それほんと…?」




ロゼッタは恐る恐る聞いた。




「ああ無いよ。少し歩いたところに風呂屋があるんだけど今日は時間的に閉まってるからな」




それを聞いたロゼッタはホッとしたような表情で笑った。


マーガレットはそれをみて疑問に思う。




「おい…どうしたそんな顔して…」




「いやーマーガレットってお風呂に入ってなかったのかなーって思っちゃって」




「入ってるわっ!…っあーもー!いいから早く食って寝ろ!明日は早いからな!」




「はぁーい」




空気は和やかな雰囲気になり缶詰だけの食事だがどこかあったかい感じがするとサーニャは思った。


サーニャ達は食事を済ませ身支度をし二階へと上がる。




「二階は狭いけど今日だけだから我慢してくれ」




二階は一階の半分より少し広いぐらいでバルコニーがある。


ロゼッタが魔法で床に三人分の布団を敷くとロゼッタはすぐさまボフッと布団に仰向けなり寝てしまう。ミーナも布団の上に数分座ると、こくこくと眠そうにしていた。




「すみません…私も寝ます…」




「うん、おやすみー…ふあぁ…すごく疲れたし…私も寝ようかな…」




サーニャは大きなあくびをする。




「それじゃあ、ランプ消すぞ」




マーガレットはベッドの上で横になりながら近くにあるランプの明かりを消した。


スゥっと部屋は暗くなりそれと同時にサーニャは眠りについた。


だが1~2時間程経つと目が覚めてしまう。夢の中でファルスから貰った猫の仮面が出てきてしまい気になって眠れなかった。


すっと起き上がり窓から外を見るとバルコニーにあるベンチにマーガレットが座っていた。


ロゼッタとミーナを起こさないように自分のバッグから猫の仮面を取り出しバルコニーに扉を開ける。


キイィっと音が響きサーニャは少し焦り出す。


その音が聞こえたマーガレットはサーニャの事に気づく。


マーガレットはタバコを吸いながらこっちに来いと言っているかのように手招きを隣に座るよう促した。


サーニャはマーガレットの隣に座る。外は少しひやっとするが寒いって程ではない。空を見上げると霧は晴れており無数の星が見える。




「星綺麗だな」




「そうだね…」




「…眠れなかったのか?」




「うん…マーガレットは?」




マーガレットはふぅーっとタバコの煙を出す。




「ああ、丸一日タバコ吸えなかったしな。んー…しんどかった…もうインシュバートには二度と行かねぇ…」




「ははっ…」




マーガレットは体を伸ばしながら愚痴をこぼすとサーニャが手にしている猫の仮面に気がついた。




「なんだそれ?あそこで買ったのか?」




「うんん、ファルスから貰ったの。自分の記憶の中で一番会いたい人に会えるんだって」




「そうか…そういえば前に親がいないって言ってたもんな…着けてみれば?もしかしたら会えるかもしれないし?」




「う…うん…」




サーニャはファルスが言っていた「見える世界に感情や心を持っていかれないように」という言葉を思い出し着けて大丈夫なのかと不安になる。好奇心と不安の半々の状態だ。


サーニャは深呼吸を二回し、勇気を振り絞り仮面を着けた。

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