第23話 犯人とファルスの関係

鳩は大空の中を飛びインシュバート街の大通りに向かう。


大通りを飛んでいると脚につけた筒がカチッという音を立て外れ地面へと落ちて行く。


筒はそのまま落ちサーニャの頭の上に落ちる。




「いたっ!」




サーニャの頭に落ちた筒をミーナはタイミングよくキャッチした。




「これって…ってサーニャさん大丈夫ですか…?」




サーニャは痛さのあまりしゃがみこんでしまった。




「いっ…つあぁ…なんなの…もう…」




サーニャは痛さに耐えながらもゆっくり立ち上がり睨みながら筒を見る。




「これ、伝書鳩ですよ。誰からなんだろう…」




ミーナは筒を開け紙を取り出す。




「ロゼッタさんからです!犯人の手がかりがわかったみたいです!」




「へぇ…そう…ロゼッタからねぇ…」




ミーナはサーニャの鬼のような表情を見てビクッとした。筒は鉄製だったのもあり当たったらとても痛い。




「…それで手がかりは…?」




「怪盗みたいな服装で髪の色は赤みがかった茶色、目の色は赤でつり目、身長はマーガレットより少し低いですって」




「へぇなるほど…でも服装は変わってるかも…ん?」




「どうしたんですかサーニャさん?」




サーニャは大通りの雑貨屋に目がいった。店の前に立っている人物が手がかりと一致する点があるからだ。


服装は違うがそれ以外は一致する。サーニャはミーナの地図を見る。地図の示す先は雑貨屋だった。




「もしかして…あの人が…」




「サーニャさん…あの人なんですか?」




「多分ね…もう少し追いかけてみる?」




「そうですね…」




二人は尾行をしようとすると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。ロゼッタとマーガレットだ。




「あっサーニャとミーナ!見つかった?」




「うん、見つかったけど…ってあれ?マーガレットは?さっきまでいなかった?」




ロゼッタは後ろを振り返る。さっきまでいたマーガレットがいない。




「あれ?どこいったんだ…あっ…」




ロゼッタは周りを見渡すとある場所を見ていた。


サーニャとミーナも見る。


二人も思わずロゼッタと同じ反応をした。


そこではマーガレットが手がかりが一致する女性に腕を回し何か話していた。




「なあ、嬢さんよぉ…何か探し物かな?私らも探し物をしててねぇ…」




マーガレットの表情は笑っているが怒りの感情が強いのがよくわかる。




「知らないわよ…」




女性はふてぶてしい態度で言う。だがその言葉と態度にマーガレットはイラッと来てしまい女性の胸ぐらを掴み近くの建物の壁に勢いよく押さえつける。




「これさぁ、見覚えないかなぁ?」




マーガレットは女性に懐中時計を見せた。


女性はあっと驚いた顔をした。




「あっ!それ私の…っ!」




女性は思わず口に出してしまいまずいと思ったがもう遅かった。




「ほぉ?これあんたのか?これ私らのホテルの部屋で拾ったんだけどなぁ?」




「マーガレット…もういいよ…」




サーニャが思わず止めに入る。




「あ?なんでだよ?せっかく見つかったのによ…」




「いや…ここは人目が多いし…」




マーガレットはサーニャの言葉にはっと思った。雑貨屋の店員、周りにいる市民はマーガレットの事をじっと見ており注目の的になっていた。




「あっ…あー…わりぃ…場所変えるか…」




四人は慌てながら犯人を連れ路地裏を探し何とか人目は免れたがさっきのマーガレットの行動のせいで保安官に追われているため長くいれない。捕まったら100%マーガレットが悪い事になり女性からは情報が聞けなくなる。


どうにか隠れられて女性の話を聞ける場所がないか走りながら探しているとサーニャはある場所を思い出した。




「私…良い場所わかるよ…!付いてきて…!」




四人は走りサーニャの後をついていく。路地裏をぐるぐると走り回り続けると保安官に見つかり危ない場面もあったが何とかその場所へ着いた。ファルスの店だった。急いで階段を下り物陰に隠れ巡回している保安官が通り過ぎるのを待つ。




「はぁ…はぁ…もう…なんでマーガレット…あんな事するかな…」




保安官がいなくなり一安心するとロゼッタは息を切らしながらマーガレットに問いかけた。




「悪かったって…はぁ…ったくてめぇ…」




マーガレットの怒りは収まっておらず女性の胸ぐらを掴み殴りそうになるとミーナは大きな声で「やめてください!」と叫んだ。


マーガレットはミーナの叫びに殴りかかろうとする手を止める。




「マーガレット…怒る気持ちは分かるけど今は見つかったらまずいから…一旦店の中に入ろう…?」




ロゼッタはマーガレットに言い聞かせた。


マーガレットは女性の胸ぐらを掴む手を離しサーニャは倒れそうになる女性の体を抑え倒れないようにする。




「…っち…わかったよ…」




四人は空気の気まずい状態でファルスの店の中へ入った。


サーニャ達はファルスの店の中に入る。ファルスはカウンターにいた。


朝来た時と違いファルスはあまり眠そうではなかった。


ファルスは一度にたくさんの人が入って来るのが久しぶりなのか少し戸惑った様子だ。




「あれ?…朝ぐらい…?に来た子たちだよね…ふあぁ…んで後ろのは?」




ファルスはサーニャに聞いた。




「ファルスさん後で事情話すんで座る場所とかありますか?」




「あー…うん…あるけど…ここでいい…?」




「はい大丈夫です」




マーガレットは案内された奥の部屋のソファにゴロンと横になる。




「ちょっと…マーガレット…」




サーニャがマーガレットに話しかけようとするとロゼッタがサーニャの肩に手を置いた。サーニャはロゼッタの顔を見ると少し悲しげだった。




「今はそっとしておこう。私とミーナちゃんは店の中を回ってるから…あとはお願いね…」




サーニャはミーナの事を見る。気持ちが完全に沈んでいて話しかけても返事がなさそうな様子だ。この中で比較的冷静なのはサーニャしかいない。サーニャは女性をカウンター近くの椅子に座らせた。




「さっきはすみませんでした…」




サーニャは女性に謝罪した。




「いいよ…私の方が悪いわ…あなた達の関係を壊すような事しちゃったから…」




女性もサーニャに謝罪した。




「…ところで聞きますけどなんで魔導書を盗んだんですか?」




サーニャは本題へ入った。




「ある人に頼まれたから」




女性は答えた。




「ある人?その人って誰ですか?」




「この人」




サーニャはまた質問した。すると女性はカウンター越しにいるファルスを指差した。




「そうなの…持って来てくれた?」




「ええ、あるけど」




女性はカウンターにロゼッタのバッグから盗んだ魔導書を置いた。


サーニャは突然の事に理解できずにいた。




「え?ちょっと待ってください…ファルスさんが頼んだんですか?」




「うん…そうだよ…私が魔導書を売り物にしたいからラウルに頼んだの…」




ラウルもうんと頷いた。




「もっと言うとラウルは私のお姉ちゃんだし…」




「…え?」




サーニャは困惑した。




「えーと…あなたサーニャちゃんだっけ?」




「はい…」




「私が説明してあげるから…ファルスと私は二人でこの店をやっているの。私が主に商品調達、ファルスが占いや店番とかなの。まあこの店にあるのほとんど盗品の違法物しかないけど…それでファルスが魔導書を売り物にしたいって言ったから私は盗んだ。分かった?」




サーニャはラウルの説明を聞いて少しは理解できたが少し気になることがあった。




「カフェのウェイトレスにこの店は一人だって聞いたんですけど…それと違法物しかないって…?」




ラウルははぁ…とため息をつきまた説明した。




「まあ…私はこの店にあまりいないしね…だからファルス一人でやってるって思われるのよ。それと違法物しかないって言うのはねそこの魔法使いさんその緑色の瓶の近くにあるの何か分かる?」




ラウルはミーナとロゼッタに質問した。




「これ?これって黒魔術の儀式で使うやつだよね?失敗すると箱の中の人形に魂を吸い取られて死ぬっていう…そしてその隣のが悪魔を呼び寄せるやつ、人を不幸にさせるやつ、一つの幸せの代わりに一つ不幸になる札…」




ロゼッタは次々と商品の効果を言った。カエルの干物、蛇の干物、コウモリの羽やホルマリン漬けにされたコウモリの心臓など普通の魔法道具の店では置かないような物ばかりだ。




「ね?この店は普通には売られないものばっかりなの」




ラウルはサーニャにそう告げた。そしてファルスはボーっと魔導書を眺めながらペラペラとページをめくり始める。


あるページでめくるのをやめ別の魔導書を同じようにめくってはあるページでめくるのをやめるを繰り返す。


そしてファルスは魔導書を五冊めくるのをやめはぁ…とため息をつく。




「ねぇ…ロゼッタ…だっけ?ちょっときて…」




ファルスはロゼッタを呼んだ。




「他の魔導書も見して…」




ロゼッタはファルスに応じカウンターに残りの魔導書を置いた。


同じようにペラペラとページをめくる。そして同じように確認し終えるとはぁ…とため息をつく。




「ロゼッタ…これ…五冊偽物だね…」




「…え?」




ロゼッタはファルスの言葉にキョトンとした。サーニャもミーナも同じようにキョトンとした。




「えーっと…説明したほうがいい?」




ファルスはロゼッタに質問した。




「うん、出来ればお願い。サーニャとミーナちゃんはわからないだろうし」




ロゼッタがファルスにそう言うとファルスははぁっとため息をつきめんどくさそうな表情をした。




「わかった…詳しく説明するとまず一冊目、これは魔法陣が間違えてる…こんなやり方でやったら失敗しちゃう…二冊目はページが落丁している…三冊目に至っては素人が作ったも同然…四冊目はページが途中から白紙…五冊目は魔法と名前がバラバラ…こんなんじゃ別の魔法ができちゃう…」




「…って事は最初からやり直し?」




サーニャはボソッと言った。




「そういうことだね」




ラウルは投げ捨てるかのように言った。




サーニャはふらつき始めロゼッタはぺたんと座り込んでしまった。




「「まじかああああー!!!」 」




二人は同じ言葉しか浮かび上がらなかった。


すると奥からイラついた表情でマーガレットが出てきた。




「うるっせぇなぁ…」




「あっ…マーガレットさん…」




ミーナはボソッと言った。




「魔導書偽物なのは分かったから…それよりミーナ…」




マーガレットはミーナの前に立つ。




「さっきはごめんな…その…私も少し冷静に考えればよかった…」




「…ええ…いいですよ」




ミーナの表情に笑顔が戻り始め二人はなんとか仲直り出来たようだ。




「…あのー私はー?」




ラウルはマーガレットとミーナの間に入るようにそーっと入り言った。




「はいはい悪かった悪かった、これでいいだろ?」




「はあ!?それで謝ってるつもり!?この子の時と態度違うじゃない!」




「あぁ?何言ってんだよ!勝手に人の部屋に入り込んで盗む奴に丁寧に謝る筋合いねぇよ!」




マーガレットとラウルはギャーギャーと口論になった。それを見てミーナはクスッと笑う。




「なっ…なんだよミーナ…?」




「いや…すみません…二人を見ていると…なんか似てるなって思っちゃって…ふふっ…」




「「はあ!?こんなやつと!?」」




マーガレットとラウルは同じタイミングで言った。




ミーナはそれを見てまた笑い始めた。




「ねぇ…ロゼッタ…」




「何?サーニャ?」




「なんか…よかったね。私このまま決別しちゃうのかと思っちゃって…」




「うん…そうだね…」




サーニャとロゼッタはラウルとミーナ、マーガレットの会話?風景を見てホッとした。




(眠いんだけどこっそり寝に行っちゃダメだよね…?)




ファルスはあくびを噛み殺しながら心の中で思った。

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