ACT2
山中議員は自分で『僕は各界から注目されててさ』などと、自慢げに言っていたが、だから『嫉妬もされる』というような意味なんだろうが、俺が調べたところによれば、彼のいう、
『注目』というのは、いい意味でのものではなく、悪い意味の方が多かった。
否、多かったというより、そっちばかりと言った方が正解だろう。
民友党の先輩議員(男)・・・・『山中君?彼は確かに頭が切れるし、国会の代表質問でも目立つんだけどね・・・・僕は個人的には好きじゃないね。党の会合でも、僕を含め先輩議員の意見は聞かないし、自分ばかりが目立つような態度を取るもんだから・・・・あれが妙にカンに触るんだよな・・・・』
閣僚経験のある、某与党幹部(男)・・・・『山中議員か・・・・顔を見るだけで嫌だね。いやね。別に野党だからっていうんじゃないんですよ。彼は与野党の会合でも、呼ばれてもいないのにしゃしゃり出てきて、自分の言いたいことはべらべら喋るくせに、こっちは端からバカにしてかかるんだからね。もう話にも何もなりゃしないんですよ。』
官僚時代の某省の後輩(男)・・・・『山中さんですか。顔も見たくないですな。口も聞きたくないし。
何かといえばT大卒業だの、イエール大学に留学してただのを鼻にかけて、僕なんか私立大学しか出ていないもんだから、いつも顎でこき使うような態度されましてね。はっきり言ってあの人が選挙に出るために退職してくれて、ほっとしているんですよ』
T大空手部時代の同輩(男)・・・・『彼とは空手部時代に同期だったんだけどね。あまり上手くいってなかった。稽古にも何かと理由をつけて出てこないし、先輩や師範のアドバイスもあまり聞かないし、その癖同輩や後輩にはいつも威張っていてね。腕前?ああ、三年の終わりにようやく弐段になったくらいのもんで、そんなに大したことなかったよ』
高校時代の同窓生(女)・・・・『山中君ですか?もともとタイプじゃなかったんです。クラス委員長をやってたのは本当ですし、その時私が副委員長だったんで、会議で一緒だったことはありますけど・・・・いつも自分が目立つことしか頭になかったみたいで、ああ、こんなこと言っていいかどうか分かりませんけど、彼、隣のクラスで学校一番の美人って評判だった女の子にのぼせて、声をかけてたことがあったんですけど、見事にふられちゃって、その子は一学年上の先輩で、その後防衛大学校に進学した人と結婚したんです。ほら、彼って今でもテレビなんかで自衛隊の話になると変に感情的に批判するでしょう?あれもそのせいなのかなって。』
実家近所の主婦(女)・・・・『ご両親はとてもいい方なんだけどね。静夫さんはちょっと癖のあるお子さんだったわ。なんていうのかな。周りが自分のために何でもするのは当たり前だって思ってるっていうのかしらねえ。』
某新聞社の政治記者(男)・・・・『僕ら、野党番ですからね。どちらかというと、与党批判をしたいという点では、あの人を応援したいところなんだけど。個人的には好きじゃないなぁ。インタビューなんかしても、こっちをバカにしたような態度しかとらないし、質問しても頓珍漢な答えしか返さないし・・・・』
彼が良くいく銀座の小料理店の女将・・・・『山中センセ?まあ悪い人じゃないんでしょうけど・・・・クセのある方ですわね。でも申し訳ございませんが、これ以上は客商売なんで、察してくださいな』
驚いた、というのが正直な感想である。
俺はこう見えても探偵だ。例え依頼人がどんなに嫌な奴だって、仕事に感情を挟むような真似はあまりしない。
だから、聞き込みは絶対公平にやっている。
今までの経験からして、人間てのは『絶対の善人』がいないのと同じように、
『絶対の悪人』てのも、まずいた試しがない。
どこかしら必ず『いいところ』があるもんだが・・・・。
しかしどこへ行っても、これほど悪く言われる男と言うのも珍しい。
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