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 外出するときには行動の計画を立てないとどんなことに巻き込まれるかわからないくらい彼女への警戒は必要なのである。食料の購入も買うもののリストを作ってどういうルートを通ってどのように買い物を済ませて帰ってくるのか計画を反芻した。戦いの出陣はレジが並ばないことを狙いお昼時にした。服装は無彩色を基調として目立たないように工夫をした。彼女がこういうことをして来る前までは徒歩五分という距離なのでこれと言って何も考えずに歩いていれば着いているみたいな感じだったのだが、今はそんなことは出来ず徒歩というよりも競歩になり気味で歩いて周りを気にしてはいるものの自然体でいるといった幾つものことを意識しながらの数分となっている。行きの道で彼女らしい人影は見られず家の周辺にいないと考えると今回はもしかしたら良い方向に持っていけるのかもしれないと淡い期待を僕は描いた。商品をかごに入れて買うものを効率よく、そして手際よくレジまで持っていくことができた。ここまでは良かったのだが、悲劇はここから訪れる。どのレジにも多くの人が並んでいてここで何分か待たされるんだろうなと思っている最中に一つのレジが急激に空き始めて、僕は早くここから立ち去るべくすぐそこに並んだ。かごをレジの机に置いてから何か聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。それは背後からではなく右斜め前、つまりレジの人からである。つまり彼女はお店の従業員として僕に関わってこようとしたのである。

「いらっしゃいませ。」 

態度としては他の客に対するものと僕に対するものとの差はほとんどない。さすがに従業員と客という関係ではそれほど大胆で大きなことはできまい。

「もしかしたら今日来ないんじゃないかと心配したよ。今日来なかったら食べるものなくなっちゃうもんね。」

この彼女の言動から僕の生活が丸裸にされていることがよく分かる。僕の食生活を把握していないとこういった発言はできないからである。僕にはそこまで僕を知っている彼女が怖かった。僕は彼女が私情を交えた話に対してはすべて反応せず、一客としての反応しか見せなかった。レジから出ると商品を雑に詰めて走って家まで帰っていった。追ってくることはないと分かっていても少しでも早くそこを出たかった。何もかも彼女に見破られていてそろそろ限界を迎え始めたのかもしれない、と僕はこのとき思った。

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