2

 彼女にストーカーされていると知ってから僕は周りを見渡すようになった。彼女にもうしないと約束はさせたものの、信用できない部分があってまた繰り返すのではないかという気持ちが頭のどこかにある。それが僕にしょっちゅうキョロキョロさせる要因だと思う。

 昨日、彼女と別れ家に帰ってから今に至るまでずっと彼女の口から発せられた言葉が脳裏をよぎっていた。そして何故彼女は僕をストーカーしてきたのか、彼女の口からは語られなかった部分がどういうことなのか僕なりありとあらゆる候補を考えた。僕に好意を抱いているのだろうか。いやそんなにルックスが良いわけでもなく性格も良いとは言えない。では、僕と話がしたかったのか。いや、メールのアドレスも電話の番号も教えている。その他にも色々な候補が浮かんだが、全て否定できる要素があった。どう頑張って理由を考えても思いつかなかった。

 歩く道中、通りかかる彼女のような影の女性は顔をじっと見て違うことを確認した。見られた女性は全員嫌そうな顔をしたが僕はそんなことは気にも留めず、ただひたすら彼女でないことを確認した。それを約十から十五人ほどして僕の目を光らせる出来事が起こった。僕が目を光らせていた原因の人物が目に入ったのだ。まさか現れまいという心持ちで見回していたのでまさかが起こってしまって気持ちの整理が付かない状況になった。これは警察沙汰にせざるを得ない、そう思った僕はポケットに入っている携帯電話を取り出そうと手をポケットに入れようとすると柔らかいものと接触した。何なのかと顔を下に向けると彼女の手が僕のポケットの入り口あたりで陣取っていた。

「警察沙汰にしようとしたでしょ、蓮くん。警察のお世話になるとこれから大変だよ、どんな刑罰を受けるかまだ分からないし。そんなこと、私が許さないから!」

彼女はそう僕に向かって言うと何の断りもなく僕のポケットに手を入れ、僕の携帯電話を取り出すと地面に向かって強く叩きつけた。すると彼女はとてもすっきりといた顔をして

「これで警察沙汰にしなくて済むね。蓮くんを助けたことだし、私帰るね。」

と言い残してすたすた帰って行った。ほんの一二分の間に彼女は僕の携帯電話を壊して逃げていってしまった。これでは携帯電話に入っていた情報が全て失われたのである。自分のストーカーを続けるためなら何もかもやってしまう彼女は恐るべき人物だと僕は今ここで初めて思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る