第26話
こんな、力関係の分かる会話の後、彼らはドアを開け、奥の家へ入って行った。騒がしいやつらだった。動画内と変わらないもんなんだな、なんて思いつつ、木陰から出る。このまま、帰るのはもったいない。またしても、くせでポケットに手を入れると、何かに当たった。取り出すと、買ったばかりの盗聴器だ。ラッキー、なんて思いつつ、一つを彼らのベースのトタンの板の裏に置く。もう一つは、、、。でも、家の中の会話も聞きたいし、と思いトタンから目を離すと、パソコンバッグがあった。これだ。さっき、エンターキーがパソコンと一緒に持ってきて、持って帰り忘れたようだ。バッグの収納ポケットの中にもう一つを入れた。
僕は気兼ねなく、ラインカーとのこぎりの待つところを目指して、歩いた。
あった。よかった。そして、また歩く。こちらは少しは見慣れた景色だ。明日、この辺に折原さんが来て、死ぬというのは現実味を帯びているようで帯びていないようなものだった。実際、僕はどこにいることになるのだろうか。ただ、彼女に見つかるような場所にいる予定はないが。とりあえず、このまま駅まで向かった。運よく止まっていた電車にのり、同じ車両に乗っている人がこちらのことを気に留めていないことを一応確認して、イヤホンをつける。折原さんの方は静かだった。位置は家から動いていない模様だが。折原さんの方という言葉を無意識に使って、自分は別の人たち用の盗聴器も所持しているのだという実感がわいた。二つの位置は少し―といってもトタンの裏と庭のパソコンバッグの距離よりは遠い―ずれていたので、パソコンバッグは家の中に運ばれたのだろう。トタンの方は蝉の音が聞こえてくる。否応なしに、夏であることを主張してくる。もう一つはがやがやと話し声が聞こえる。
で、トキ、薬の方は準備できたのか。落ち着いた声。
くすりっていうのやめないか、エンターキー。確かに睡眠「薬」だけど。できたよ。前回と同じ強さのやつ。一応多めにね。
そりゃ、良かった。相変わらず仕事が早いな。
どうも。でも、これ今回どうしよう。いかにも、といった風な包みをいくつも手に持って言う。
確かにな。前回は出て来た料理に混ぜりゃよかったけど。
―駅、―駅、出口は右側です。右側って誰からみた右側のことだろうか、と日々の疑問を心の中で呟いたが、もう降りなければならない。会話も聞きたいが、今、周りの人に不審がられないのも大切だ。とりあえず、下りて遠い方の階段へ向かう。西口から出たい乗客を装って。
とりあえず、豚が買いそうなものに混ぜればいいんじゃないの。
まあ、そうだけどさぁ。何買うよ、あいつ。
昼飯とか言ったら、いっつも色々買ってくるじゃねーか。ドーナツにおにぎりと焼きそばとアメリカンドッグみたいな。豚の飼料にコンビニ弁当が、とかいうけどな、豚あんまり弁当は好まないよな。
確かに。じゃあ、絶対買うやつとかあるのか。
おにぎりはいっつも買ってるよな。そのなかに入れればいいだろ。
隠しやすいしな、おにぎりなら。一回買って来て、混ぜてもう一回行って戻せばいいか。
うん。それでいい。
エンターキーが犯罪を容認するようになったな。ついに。
仕方ねぇだろ。まあ、ばれなきゃいい。
念のため、睡眠薬の分量はまあまあ有るし、あの巨体がこっちに戻って来て眠るぐらいの分量をおにぎりの一列目全部に入れるぐらいでよいよな。
一列目だと、奥から取られるとめんどくさいし、残り一個ばっかりにしとけばいいだろ。
さすが、フセキ怪人の頭脳。
おだてても何も出ねぇぞ。それに一回買ったのをもう一回買うんだったらバーコード処理とかだるいんじゃねぇの。
そういうのは頭脳の得意分野でしょうよ。
その呼び方気持ち悪いな。やめろ。まあ確かに作れなくはねぇな、だるいけど。それより、どうやって買いに行かせんだよ。
たしかに。あいつに撮影前の昼飯自分の分だけ買ってこい、早く。とか言えばいいだろ。
となると、偽企画少しでも用意しとくか。カメラ回さないけど、口実ぐらいに。なんかあるか。豚に怪しまれないの。
気球はどうだ。最近やってないし。潜水艦でもいいし。頭脳はどう思う。
でも、潜水艦は豚も納得するかも、夏だし海、とかいっとけば怪しまないだろ。
りぃ。じゃ、また。
ドアの閉まる音がした。
改札を出てベンチに座る。夕方になる前ののどかさがある。
結局、コンビニでおにぎりを買ってきて、薬を入れて、戻して、ポークに買わせるって感じか。
今日はとりあえず家に帰ろう。青年は駅の近くのコンビニに寄って、防犯カメラに一瞥をくれながら帰途についた。
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