第24話

 ある意味平和な何でもないような日々を描いたような曲にも飽きたのかもしれない。まあ、飽きたと言ってもそろそろ、店じまいだ。スマホはそのまま、ツイッターとかを見る。フセキ怪人の公式をまず見て、そのあとメンバーのアカウントに移る。トキが何やら動画投稿を匂わせるような投稿をしていた。まあ、それだけだった。今日も雨。明日は辛うじて晴れる予報だ。曼殊浜に行くのだし、晴れてもらわなくちゃ困る。だからといって別に何もすることはない。画面のスクロールにいそしむだけだ。



 いつだって、見慣れないスーパーとかの配置には惑わされるものだ。勝手のわからない中、ラインカーというらしいあれとその中身を買った。ついでにのこぎりも。おそらく、あの柵は木製だったはず。もはや、公共のものを壊すことには何も感じず、どうやって壊すかに思考が向いている自分が怖い。だが、人を殺すのだ。そんなものだろう。レジまで歩いていると、防犯コーナーが目に入った。簡単なトラックに入っただけだが、いまや大活躍中の盗聴器の同じ型のものが売っていた、なんとなく、運命、僕が使うのも変な話だが、を感じて、2個買った。2個買うのはもはや習慣だった。このまま、店を出て来た道を戻る。

 雨は少し小降りになっていた。だが、白線はずいぶんと跡形もなく消え去っていた。どう線を引こうか迷ったが、その前にどこから落とすのかを考えるのが先であろう。そう思い、傘を差しつつも辺りをうろつく。柵に手を触れながら歩くと、一か所だけ僕の体重に耐えられたいところがあった。ここにしよう。そう、成行きで決めた場所の奥には、そのために存在するかのようなきれいな断崖絶壁だった。あとは、ここに一台分の駐車スペースをつくり、違和感の無いように他の分の線も引き、それらには停められないようにするのだ。記憶の奥底から、こういうところにかいてあった、意味を成すのか半信半疑なバツ印を引っ張り出し、真似した。雨は比較的止んできたから、線の消える心配もあるまい。管理人らしきあのおじいさんは明日も来ないそうだし、だれか代わりがいるとも思えないので、人為的にも消されないだろう。次は、柵の工作だ。お前の出番だぞ、なんて一人でのこぎりに話しかけながら、柵の下の部分を確かめる。かなり雨風でやられているので、削っておいた。これで、すこしでも触れれば、倒れるだろう。一呼吸おいて休憩して空を見上げ。またこのアスファルトに目を落としたときに、触れれば、って普通触れないだろうと気づいた。車を運転する感覚がなさ過ぎて、見落としていたが、通常は線を見ながら、慎重に駐車するから、柵に触れるなんてことは無かろう。

 もう一度空を見上げ、作戦も失敗に思えたが、自分の言葉を思い出す。通常は線を見ながら停める、ということは、もうご無沙汰かと思われた。白線を引き直せばいいのだ。自分の努力を努力して消し、少し全体的に線を崖寄りにずらした。これで、車を運転したことのある人なら、もう少し後ろまで行く必要がある、と考えるだろう。よし、まだまだ石灰の残っているラインカーを転がしながら、歩き出す。これで、二つある、と自分で言ったうちの一つは終わった。たしか、もう一つは、睡眠薬をどう体内に入れてもらうかだったな。さて、どうしたものか。睡眠薬を手に入れる必要はないし、それを僕が折原さんに飲ませる必要もない。フセキ怪人が撮影用につくった睡眠薬入りの商品を折原さんに買ってもらえればよいのだ。でも、フセキ怪人は何時に店に来るのだ、何に混入させるのだ、折原さんは曼殊浜に行く前に何を買うのだ。何もわかってはいない。折原さんが本当に何かを買うのかも、どこで買うのかも分からない。まだまだやる事はあるのではないか。まず、何をすればよいのだろうか。こういう時は悩んでいても仕方がないから、とりあえず何かしよう。こんなざっくりとした、何となくの自分のモットーみたいなものを思い出し、イヤホンをつける。

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