第23話
コンビニには、ある程度客がいた。店員は二人だった。棚に商品を追加しているところだった。こんなのをぼーっと見ていても非生産的だと、残っていた野菜炒めを食べながら見る。スマホではフセキ怪人の動画を見てトキの顔や背格好を頭に入れる。皿から何もなくなった時、ジャージ姿の男が入って来た。こちらを向いた気がした。そんなわけはない。本当に人は自意識過剰になりやすいものだ、と実感した。素直にトキは、サンドイッチコーナーに向かい、1リットルのパックの牛乳と共にレジに持って行った。そのとき、もう一度彼と目が合った。今度はしっかりと。訳が分からなくなった。だが、気づいた。彼は何らかの手段でこの防犯カメラがいつもと違うことに。よくわからないが、ここで敢えて電源を落とそう、性格に言えば録画を停止しようと僕は思った。そうすれば、彼は防犯カメラが動いていないことに気づき、アクションを起こすだろうと考えたのだ。迷いもなくスイッチを押した。パソコンの画面は一様に暗くなった。
「明るくなってきた~」 現実とは正反対のセリフが流れた。もうこんなのにも慣れた。さっきまで何もなかった折原さんのところから、流れて来たのだ。おそらく目覚ましだろう。あまり聞かない曲だが、歌詞は続く。
「いつもと違うきみ 何があったの と訊いても~」
「答えてくれずに微笑み返す」
思ったより甘い歌詞だ。こういうのも好きだったのか。と、その人を殺す日が近くなって知ってどうする、というようなことを知り、まだ目覚ましを止めないのか、と思いつつ、疑問は氷解した。無駄に向いていたと思われる歌詞への注意は無駄ではなかった。いつもと違う、ということだったのだ。おそらく。トキは、犯罪まがいのことをする場合も多く、いつも防犯カメラを気にする。今日も特に何も考えずに目をやると、いつもならまだスイッチを入れ忘れている時間にスイッチが入っていたとか、モードが変わっていたとかいうことに気づいたのではないか。あくまで、全て推測に過ぎないが。他にまだやることはある。車でどうやって殺すか。睡眠薬入りをどうやって買ってもらうか、だ。
とりあえず、今日も、あっち側へ行こう。もはや、この数日間でなじみとなった、駅に着いた。予報通り雨。なんとなく、細い道を上がり、駐車場へ向かう。おじいさんの声が頭の中に響き、今日と明日はいないと言っていた気がする。ということは、僕は好きなようにできるのかもしれない。どうしたら殺せるのだろうか。傘を差しつつ立ちすくむ。雨が安上がりなアスファルトの上に跳ね、散っている。柵は風にあおられている。
雨の音だけが耳に入る。
こういう時は何も考えずに目の前を描写していくのだ。白く泡立つ波、数少ない木がその細さによってしなりを見せている。石灰で引かれた線は輪郭を曖昧にしている。一台も止まっていない駐車場。
次に想像を働かせる。睡眠薬を知らないうちに体内に入れた折原さんが頼んだレンタカーに乗って曼殊浜にやってくる。駐車場を探し、ここに来る。どこに停めようかと考える。
ここまで、考えて、このままいくと折原さんが海を楽しんで帰ってしまうだけだ。だが、接触して海に落とすなんていうのも危ないし、あまりやりたくはない。
雨の音にも飽きたころ、単語が思い浮かんだ。
駐車場。車を停めた時に落ちればよいのではないのか。この高さから、落ちれば死ぬだろう。柵に細工をして、落ちやすくすることも可能だろう。白線だって、簡単に書き直せるだろう。これで行こうと決まったものの、道具はない。ただ、家まで帰るのもばかばかしいし、無駄だ。文明の利器スマホを使ってホームセンターを調べる。歩いて行ける距離に割と大きめのがあった。雨を聞きながら行くことにした。
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