第21話
とりあえず、折原さんに睡眠薬を飲ませるには、彼女とフセキ怪人とを、鉢合わせにしなくてはならない。そのためには、時間を同じにする必要があるがどうしようか。まずは、折原さんがレンタカーを何時に借りる予定なのかを探るのが必要だろう。杉崎店、という名前が付くレンタカーの店舗を探し、予約状況を確認した。明後日、つまり、8月5日に車を借りるのは一件しかまだなかった。それは、9時から9時半にレンタル可能らしい。これが分かったら、次はトキの、というか、フセキ怪人の行動を操らなくてはならない。数件だが、運命を演出します、でちゃんと演出してきたんだ、という自負を胸に頑張ろう、と思ったが、席を立って気合を入れようとしたら、目の前でカット野菜が寂しそうに佇んでいた。そうだ、野菜炒めだ。
フライパンに油を敷き、温まるのを待ちながら、考えた。彼ら4人のメンバーのうち、家の近くにコンビニがあるのはトキだけではないので、どこのコンビニで撮影をするか、という話し合いになるだろう。そして、そこで一番撮影に適しているところが候補に挙がるだろう。ということは、僕としては、トキの家の近くのコンビニがほかの候補を押しのけて、選ばれれば良いわけだ。野菜を入れる。彼らとしては、撮影のしやすいところがよいのは当然だ。木べらを取り出す。どんなところが、撮影しやすいのだろう。自分が、撮影する、特に炎上しそうな内容の撮影をするのを思い浮かべる。木べらで野菜を撫でる。周りを窺い、誰にもバレないか、焦る僕。それは当然だ。だってやろうとしてることは、犯罪行為ともいえるのだから。
僕は店の中を見回す。塩コショウを取り出す。なぜ想像の中の僕は店内を見渡したのか。塩コショウをもう一振りしながら、問いかけ、気づいた。防犯カメラだ。この野菜炒めも、防犯カメラだ。なんて思いながら作られたくはないだろう、と思いつつ、皿に盛る。つまり、防犯カメラが撮影には邪魔なのだ。最近は防犯カメラの設置はマストだから、避けるのは難しい。こちらにも箸をつけながら、気づいた。つまりは、トキがメンバーとの話し合いの時に、あそこのコンビニは防犯カメラが壊れていて、撮影にうってつけだ、と発言できれば良いわけだ。ということは、彼がそのことを知る必要がある。撮影がいつになるかは知らないが、おそらく、どこのコンビニで行うかを決めて、その後に睡眠薬の仕込みなどを行うのだから、時間はかかるだろう。そういえば、ファミレスドッキリのときの仕掛人側動画が上がってた、と思い出して、見る。予想通り、睡眠薬の入手にもある程度は時間がかかっていた。ということは。明日の朝ぐらいにトキが自分の家の近くのコンビニの防犯カメラが壊れているのを知れば計画的にはぴったりなのではないだろうか。そのためには、やることは二つ。防犯カメラを壊す、トキに朝、コンビニに行かせる、の二つだ。なんとなく、野菜炒めのキャベツを眺めながら、もう一度ツイッターを見ようという気になった。トキがどうやら1分前に投稿していたようだ。
明日の朝ごはん、おすすめない?
どうでもいい。お前の朝ごはんなんて、と思ったが、これは使えると思いなおした。この問いかけは、リプで答えるものだから、リプ欄を見る。抜きはどうですか、お皿、スプーン、とかいう、ふざけたのしか、まだ来てない。しかし、トキ自身がコメントを返しているから、ちゃんと反応を見ているようだ。僕はすかさず、リプを送る。明日の朝にパインで、新発売のフレンチトーストが入荷するようです。と打った。商品の話は本当だ。ネットニュースで話題だった。少しして、コメントが返って来た。
やっとまともなリプが来た それにします
だそうだ。よし、朝、というのも入れたし、パインというのも打った。これでトキは自分の家の近くのコンビニに行くに違いない。あとは、防犯カメラを壊すだけだ。
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