第20話
睡眠薬 第2弾 そろそろ撮る 舞台はコンビニ
という内容だった。コンビニといっても、普通のコンビニだろうから、本拠地の近くで撮影するんだろうな、なんてぼんやりと思ったあと、本拠地の位置は今日、自分が行った伏木海の近くだったことを思い出した。あの辺にコンビニなんてないはずだ。だから、僕は電車を降りた後に駅の近くでご飯を買った。ご飯、という単語を思い浮かべて、晩ご飯に意識を向けたが、今はどうでもよかった。このまま、脳を回転させた方がよい気が、何となくしたのだ。では、どこのコンビニで、おそらく、コンビニで買った商品に睡眠薬が入ってたらどうする?といったような内容のものを撮影するのだろう。普通はなじみのあるコンビニで行いたいはずだ。そして、なじみのあるコンビニとは、よく使う、つまり家に近いということに必然的になるだろう。でも、家の場所までは分からない。そう思った時、自分が彼らの動画撮影を利用しようとしていることに気づいた。さらに言えば、それは折原さんの死のためだろう。自分が本当に人を殺す予定なのだという実感、それに慣れてきてすらいる自分に恐怖を感じつつ、それらを払拭するために必死に自分の思考の途切れを探した。
そうだ、彼らの家が分からないということだった。しかし、まとめサイトの存在に思い当たった。もう一度、ちゃんと最後の個人プロフィールまで読むと、番地とアパート名まで書いてあった。怖い時代だ。それぞれ、地図のどの位置かと思って、検索にかけた。同時に、彼らのアカウントに投稿されていた写真の位置情報とも照らし合わせた。どうやら、彼らは意外に伏木海から離れた場所に住んでいるようだった。それも、各々離れたところに。まあ、全員ボロアパートの2階というのには変わりないのだが。それぞれ、住所は松場、寺橋、杉崎、小湊のようだ。別に自分の住んでいるところから、特段近い、というわけでもないので、何も感じることはなかった。正確に言うなら、とりあえずは何も感じなかった。気分転換にカット野菜のパックとレンジでチンするご飯でも買ってきて、晩ご飯でも食べるか、と思った。脳の回転が途切れた途端、食べ物を体が欲していた。確かにいつのまにか時間は過ぎていたようで、長針は7と8の間にあった。
「4日、午前10時に起こして。」という声が、聞こえて来た。とりあえず、と思って付けたイヤホンからだった。大した外出じゃなくてもスマホは持って行くため、そのタイミングで盗聴器からの音声を聞くのがルーティーンになりかけていた。なんか、一日に何回か聞いていると、少しだけ昔を思い出すなぁ、なんていう感傷に浸ったあと、まぎれもない、折原さんの生活を感じてしまい、殺すという、単語が僕にのしかかって来た。そんな重みから逃れるように、僕は早足でスーパーのカット野菜とチルドのごはんをレジに持って行った。ここは、まだ、電子レンジが好きに使える良心設計なのがありがたい。ご飯が冷める前に僕は、家に帰ろうと僕はいそいだ。いつもはしない近道をすると、急に出て来た車に轢かれそうになった。車を運転しない僕からすれば、それは多くの場合、危険をもたらすものだった。車、そういえば、自動車絡みで殺す案もあったなあ、と思いつつ角を曲がり、自動車という単語に脳が反応した。
杉崎という単語を僕が見たのは、サギ、違う、コウノトリ、違う、トキ。そう、トキ。の住むアパートの住所が初めてではない。いや、見たのは初めてだが、知ったのは初めてではない。折原さんが言っていたのだ。杉崎店、と。それはレンタカーの店だった。自分の記憶が思ったより仕事をしたな、と満足感を得たころに僕は家に着いた。鍵を開け、まだ温かいご飯に割り箸で手を付けながら、考える。とりあえず、野菜炒めは後回しだ。折原さんが明後日、レンタカーを借りるお店と、フセキ怪人のメンバートキの家の近くのコンビニが近い。僕は折原さんを死なせたい。フセキ怪人は睡眠薬が入ってたらどうする?ドッキリをする予定。折原さんには、具体的なプランは立っていないが自動車がらみで死んでもらう予定。ということは、フセキ怪人が仕込んだ睡眠薬を折原さんに飲んでもらえば、うまくいくのかもしれない。自分でも何を言っているのかわからないが、少しピースが噛み合ってきている気がする。
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