第19話
僕は電車に揺られ駅に着いた。ちょうど昼ご飯の時間となったが、朝ごはんも遅かったし、行きに寄ったコンビニでおにぎりを一つだけ買った。お昼時だからか、朝よりは混んでいた。おにぎりを補充している店員に一瞥をくれた。何か無機質なコンビニにも人の手がかかっているところを見た気がした。イヤホンを確認しながら、僕は家へ向かった。家路の最後の横断歩道で信号待ちをしていた。雨も気にならない程度の小雨となっていた。家まで、あと少しのところで、「すごい」と連呼する声がした。よくわからなかったが、のちに横断歩道と聞こえドキっとした。しかし、それは動画の企画か何からしかった。すぐに、まずはふせき怪人一の暴れん坊、ポーク行ってみよう!という声がした。本当によくわからないが、ふせきかいじんというのが彼らのグループ名なのだろうか。折原さんがそのグループの動画か何かを見ているということだろう。
僕は家に帰っておにぎりを食べながら、パソコンで「ふせきかいじん」と検索した。家では、スマホは盗聴器からの音と、その位置の確認用でしかない。そうすると、炎上とか、逮捕とか、別荘とか、乗り物とかが一緒に調べるんでしょ、どうせ、といった感じで出て来た。表記はフセキ怪人らしい。とりあえず、僕は炎上と入れて調べることにした。色々と検索結果は出て来たが、とりあえず一番上のまとめサイトを見る。何やら警察沙汰になったり、ならなかったり、という感じらしい。警察沙汰というのは、個人、というかこのグループで潜水艦を所持した、というのが原因のようだ。さっきの乗り物という検索ワードは、潜水艦以外にも、フセキ怪人がいろいろな乗り物を所持していることを示唆しているようだ。潜水艦の所持自体は問題ないが、申請をしてなかった、ということで事件になったみたいだ。その後、どうなったかについては記事では触れられていないが、今も活動している、ということは、何とかなったのだろう。この問題で炎上したのも確かなのだが、他にも、メンバーとファミレスに行って、メンバーの一人が席を外した瞬間に睡眠薬を食事に混ぜて眠らせた、というのもあるらしい。どうやら、物騒なグループみたいだが、それゆえ、ファンも多いようだ。だが、折原さんが、このグループの動画をいつも見ているということだろうか。人の好みは分からないし、僕が彼女に会ってから、随分と時間も過ぎている。それに、グループを好きになるきっかけなんて、本人ですら予想できないようなものがほとんどだ。僕はとりあえず、フセキ怪人のことを考えるのをやめた。
どうやって、折原さんを殺そうか、こんな非日常的な問いに徐々に慣れて来た自分に驚きながら、僕は頭を回した。レンタカーを借りて、曼殊浜に行くようだから、自動車絡みで殺せるだろうか。でも、自分は車を持っていないし、事故として、死んでもらうのは難しそうだ。駐車場なら、今日見た、あのおじいさんがいたところが、おそらく使われるだろう。同時に僕は生活感のある、という思いを抱いた、内海を思い出した。名前が出てこず、もう一度スマホの地図で調べなおした。ついでに、盗聴器の位置と、音声を確認したが、何も変化はなかった。地図上には「伏木海」という文字が現れ、ああ、そうだったと思った僕は、その文字を初めて見た時にはなかった親近感を覚えた。その理由を探って、伏木海に行ってからしたことを思い出すと、フセキ怪人に思い当たった。こちらももう一度パソコンで調べると、下の方のページに名前は本拠地の近くにある、伏木海と怪人を組み合わせたものだと、言われていると書いてあった。つまり、全く気付かなかったが、今日行った、伏木海の近くに、彼らの本拠地があったのだ。何か、フセキ怪人とやらにめぐりあわせを感じ、とりあえず、彼らの動画を見た。たしかに、過激なものが多い。まとめサイトで見たものも、見当たった。次に彼らのSNSを見た。グループのSNSもあったが、そちらは情報発信用のようで、個人の人物像は見えてこなかった。なぜ、自分はそんなものが見たいのだろうと思いながら、個人アカウントに飛んだ。彼らは4人グループで、リーダーのトキ、暴れん坊のポーク、お笑い要員のクック、編集もこなすエンターキー、からなるらしい。それぞれ、個人アカウントでは個性が出ていた。全員の発言にザーっと目を通していると、ポークのツイートが更新された。だが、それは一分後に、削除されていた。そんなに、フォロワーはいないようで、次のツイートのリプ欄で、それに触れるリプはなかった。だが、僕はそのツイートを見逃さなかった。
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