第14話
どうしようか。とりあえず来たはいいもののこの先を何も考えていなかった。彼女と接触するのもどうかと思うが、彼女の生活リズムは知りたい。今、家にいるかぐらいは最低でも知りたい。郵便受けのところでぼーっとしていると、おばさんから304号の子に来たのかい。と言われた。居ないならいいんですけど、と微妙な返答をしたら、今日は長山に登りに行くって張り切って朝出て行ったよ。と言われた。どこの山かと訊くと不審がられるだろうから、訊かずにそれならいいです。ありがとうございました。と言ってさっき見た公園に戻った。ここで作戦を立てよう。ながやま、と頭の中で呟きながら地図を見た。ここから300メートルぐらいのところにある中ぐらいの山のようだ。小学校の遠足で行くような。ただ、本当に頂上まで行くのは割と大変とも書いてあった。ふもとには長山神社というのもあるようだ。頂上でゆっくりして下山すると4時間ぐらいかかるともあった。彼女が朝出発したのならさすがに今はまだ下りてこないだろう。そう考えて僕も長山にいくことにした。300メートルの道のりはあっという間に終わり、山が近づいてきた。神社は逆側にあるようだからそちらから行くことにした。僕は何を期待したか分からないが長山神社は普通のよくある神社だった。
だが、登山記念に買う人がいるのか、山の御加護もあるお守りが売っていた。特に何も思わなかったから、このまま帰ってまた何をするかは考えようと思ったが、きれいな青色のお守りを見た時、ある閃きが浮かんだ。折原さんがこれを買いそうだという。たしか折原さんは蒼穹の様な青色が好きだった気がする。そしてこのお守りがこの色なのだ。それに彼女はこういう記念的なものが好きだったはずだ。まあ、死にたい人が記念を買うかは知らないが。そう思って見ていたら、自分が無性に買いたくなった。なぜか2つ買った。青色のお守りは売り切れた。もうこの神社に用はないし、ここに居て折原さんと会っても困る。とりあえずここを離れよう。道を戻って琴崎駅まで来たとき折角ここまで出て来たのだし、と思って駅ビルに行こうとした。駅ビルに入るとここは僕が来る場所じゃないなと思った。はやりを具現化したような人の波があった。そして横を見ると電化製品屋さんがあった。
ここだ、と直感が言った。大きな店をうろうろする。広い店内に人はまばらだ。何を探そうとしたわけではない。とりあえずパソコンを見ることにしよう。画質は良いかな、今のでと思いながら小さな電気器具のところに来た。どういう陳列の仕方かはわからないが、面白そうな商品が並ぶ。盗聴器と盗聴器発見機が売っている。皮肉なものだ。盗聴器にはいろいろな種類があるらしい。GPS付きなんてものもあるみたいだ。そこに極小と書いてあるものがあった。GPSも付いていてつないだ電子機器で音声も聞けるようだ。本当に小さくて5ミリ四方ぐらいだ。ピンときた。さっき買ったお守りを思った。すぐさま2つ購入した。そのまま駅ビルのカフェにとりあえず入った。
神様に怒られそうだと思いながら、頼んだラテアートを見つめて口をつけた。お守りの封を開けた。中に入っている板のことは気にせずさっき買った盗聴器を入れる。二つともに細工を終えた。慎重にやったし、スマホでGPSの位置も分かったし、音も中継できた。あとはもう一回、長山神社に行って何か理由をつけてこの工作済みのお守りを別の商品に変えてもらうだけだ。おそらく売り切れていたからそのまま商品としてもう一度並べるだろう。頭はそうやって回転しながら、電車に乗って神社まで来た。すみませんと声をかけて、「間違ってこの色を買っちゃったんですけど、学業祈願のものを二つ買うんでした。」と言ったら快く交換してくれた。特に怪しむ様子もなかった。そして二回目だというのが悟られないうちに家に帰ることにした。もう僕にしてはアクティブに活動しすぎたぐらいだ。
大崎駅まで向かって地下鉄に乗って家にたどり着いた。ただいまと一人で言う。疲れた。2時だ。多分、神社に今頃寄っているぐらいだろう。寝よう。スマホで盗聴器を確認したが特に動きはないようだ。
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