第13話

 そして、よりブラックな手段に手を染めてこの「申請者:折原 紗良」の住所を調べた。それは依頼に記入してあった、運命だと錯覚させて欲しい人―つまり折原 紗良―の住所と完璧に一致した。これで、本当に折原さんが自分を死なせてほしいという依頼を書いたことになる。この依頼を知らんぷりして他の依頼を受けることもできる。このサイト自体を消してしまうこともできる。しかし、折原さんが死にたがっていて、今も待っている、そう考えるとそんな無責任なことはできないという気持ちになってきた。とりあえず、本当に実行するかは別として、今のところの予定の実行日を考えよう。これは誕生日や会議などの既定の予定に左右されない依頼なので、僕の好きにできるといえば好きにできる。でも、あまりにも依頼をしてから実行までの間が長いといやだろうし、だからといって早急な準備で失敗しても困る。今日が、というか、あと少しで終わろうとしている今日、が8月1日。今までの依頼は準備期間を長くとっていたが、今回は大学も夏休みだから、より多くの時間を依頼に割ける。そう思い、一週間ぐらい準備期間があれば十分かなと考えた。実際は折原さんの行動を考慮しなければならないから、未定に近いのだが。スケジュールの目処が立つと急に眠くなってきた。僕は本当に折原さんを殺せる、いや死なせられるのだろうか、と思いながら眠りに入った。


 起きた。8月2日だ。一週間の準備と自分で決めた初日だ。とりあえず、計画を立てよう。どこで殺そうか。折原さんの住所は分かっているが、そこで殺すのはどうなのだろうか。中々難しい気がする。折原さんの近所の人に見られたりしたら大変だろう。それに工作がしづらそうだ。殺す現場に僕は居たくないから、なるべく上手に遠隔的にそして僕に捜査が及ばないように運命を錯覚させなくてはならない。それは彼女のためでもあり僕のためでもあるのだ。殺すならやはり外だろう。それもあまり両者に強い関係があるわけではなく、折原さんがふと訪れたような場所がよいのだ。そのためには折原さんがどこによく行くのか、どこなら誘導が成功するのかを考える必要だ。住所をネットの地図で検索してその辺りを眺める。カーソルを移動してその辺を探るがやはり、見に行こうと思った。今は朝の9時。さっと行こう。電車で乗り継げば一時間もかからないところだ。適当な服を着てドアを開ける。朝ごはんをとっていないことに気づき、コンビニに寄る。新発売と謳われているパンを選ぶ。地下鉄の駅まで歩き、乗り継ぎの駅まで行く。この間にパンを食べた。明が原の家が目的地だから、電車に乗り換えて琴崎駅まで行けばよい。そこから電車で20分だ。少しずつ都会感が薄れていく。緑が目立つようになる。

 琴崎駅に着いた。活気がある良い雰囲気の駅だ。この辺りのおでかけマップなるものも置いてあった。ぱっと手に取りつつ、眺める。折原さんの家は明が原だからここから歩いて10分くらいだ。マップを見ながらゆっくり歩いてく。あと15分くらいで10時だ。こういう日は折原さんは何をしているのだろうか。大学に行ってもいないし、家でのんびりするのだろうか。それともアルバイトぐらいはしているのだろうか。そう思っているうちに二丁目まで来た。あとは一番のイスティニを探せばよい。スマホの画面を見ながらなんとかたどり着いた。少し奥まったところだったので手間取ったが。

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