第7話
家に帰ると、特段何かがあるわけでもないが、腰を下ろし、時計を見た。7時前だが、料理を始める気にはなれない。少し計画を立てることにしよう。パソコンの計画用の画面を開く。大雅くんの方は、お母さんの方を錯覚させるのだから、スーパーは必須。とりあえず、下見と具体的に取れる作戦を探る必要がある。ちなみに、いるかどうかも分からない実演販売のおばちゃんとは、知り合いではない。あとは、サバの良さのアピールだろうか。それでも、誕生日にハンバーグでなくて、サバの味噌煮である理由としては弱い。あの文面から考えると、ハンバーグの材料を売り切れにしたぐらいでは諦めそうにない。まずは、大雅くんのお母さんの人となりや生活パターンを調べなければなるまい。マスターの家は知っていたけれど、大雅くんの家はまだ、住所と航空写真でしか知らない。何にせよ、実地調査が必要だ。そして、切れた集中力は僕にサバの味噌煮のつくり方を調べさせた。手間がかかりそうだが、理性は感情に敗北し、僕は冷蔵庫に味噌を確認しに行った。ここで僕はサバが三切れあることに気づいた。
頑張って作ったサバの味噌煮を食べながら、大雅くんのお母さんを錯覚させる方法を、僕の頭は考えていた。最終目標は6月27日に大雅くんのお母さんに晩ご飯にサバの味噌煮を作ってもらうこと。まず、お母さんのサバの味噌煮の認識はどのようなものなのだろうか。そこを探りたい。ハンバーグを作ろうとしたけど、無理なようならサバの味噌煮を作ろうぐらいの思いでスーパーに行ってもらい、スーパーでサバの味噌煮を作ろうと踏み切ってもらいたい。やはり、スーパーの下見と大雅くん一家の様子も調べなければならない。とてもおいしく、箸は二切れ目を扱っていた。もう一切れは置いておこう。明日の朝にでも。おいしかった、そう思うと同時に大雅くんの依頼への思考のスイッチはオフに切り替わった。
その代わりに、彼女の未奈ちゃんのことを嬉々と語る依頼を思い出した。あれは部活の練習試合を、未奈ちゃんの誕生日からずらしてほしいということだった。あれはできることは限られている気がする。それに、そのような先生同士のネットワークには入りづらいものだ。だから、顧問の先生の心変わりを狙うのか、その未奈曰く弱小校の方に試合を取りやめようと思わせるのかの二択だろうか。そう思いながら、松井がこの中学校と関係があったんだった。LINEを思い出したように見ると、明日の4限終わり、大学横のカフェで会おうとのことだった。話したいことがあるらしい。何だろうかと思ったが、もう脳は疲労していた。寝ようかしら。一応、新規の依頼が無いかと思って見ると、一件来ていた。ただ、「僕に彼女を作ってください」という書き出しで後に続く情報は高校生だとだけ書いてあった。情報も少なくて実行に移せないし、そもそも、自分自身に運命を感じさせてほしい、という依頼は受け付けていない。そう書いたはずだが、目立ちにくかったのかもしれない。その理由としては、面白みがないことが挙げられる。それに、こそこそした黒幕であるのが望ましい動きが、表立つ可能性があるのは危険だ。僕はノートパソコンを閉じた。まぶたも閉じられた。
朝起きて昨日の思惑どおり、サバの味噌煮の残りを食べ、授業に出る。その後松井とカフェで話して、時間があれば、大雅くんの方に行ってみようと思う。授業の合間に、サイトの「自分の運命を演出してほしいという依頼は受け付けておりません」の文字を大きくしたりした。
4限が終わると、無事松井と合流できた。そういえば、話したいことって何?そう、僕が訊くと、着いてからね。と言われた。松井に連れられて入ったカフェは、大学の近くにあることは知っているものの敷居を高く感じていたところだった。入るやいなや、松井にこんなおしゃれな店に入るようになったんだと言おうとすると、もう、テーブル席で人が待っていた。きれいな女の子だった。もしかして、彼女ができたとでもいうのだろうか。まあ、松井は中性的で容姿はもちろん性格もよいから当然か。だから、こんなところに気兼ねなく入れるようになっていたのか。彼女なんていたことないな。というか、恋愛経験がほとんどないのか。
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